Subject: EEE会議(Re:「もんじゅ」判決について)
Date: Wed, 26 Mar 2003 14:51:18 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位殿

標記に関する核燃料サイクル開発機構の伊藤和元氏(敦賀本部高速増殖炉もんじゅ
建設所)のご意見(3月21日)対し、豊田正敏氏から次のようなコメントをいただ
きま
した。ご参考まで。
金子熊夫
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JNCの伊藤氏から詳細なコメント(3月21日)を戴き有難うございます。伊藤氏の
補足説明に対して、その番号に沿って簡
単なコメントないし見解を次に述べることとします。
1. 進行協議
 関係者の裁判長に対して説明に努力されたことは多とします。しかし、なかなか難
しいでしょうが裁判長の
質問を予め予期し、それに対してどのように説明して納得して貰うかについて一層の
努力が必要であったと考
えます。
2.安全設計の基本的考え方
 裁判官と国側との安全設計についてのリスクレベルに差異がある点に問題があり、
議論が平行線を辿ったと
考えます。社会的に容認されるリスクレベルについて真剣に議論し、はっきりした見
解を示す必要があると考
えます。
4.高温ナトリウムと鉄の腐食
 高温ナトリウムと鉄の腐食について、事故が起こって初めて実験してみて判ったと
いうことは了解出来ま
す。軽水炉でも設計段階には、SCCなどのように、実験により、確認していたつもり
でも実プラントでは、多数の
トラブルを経験したケースが何回かあります。実プラントに近い条件で実験したとし
て安全を確認していると
いうようなことは軽々に口にすべきでないと痛感しております。従って、この点、後
述の蒸気発生器伝熱管の
破損伝播実験で実証により確認しているというのは疑問であると考えます。
5. 新知見のバックフィット
新知見のバックフィットの手続きを明確にする必要があるといったのは、例えば高
温ナトリウムと鉄の腐食に
関する新知見のように、放射能の放出の懸念も無く、鉄の厚さの変更のみの場合は、
設置許可変更マターでは無
く、設工認変更マターであると考えられるので、この知見のみの設工認変更申請とす
れば、安全審査が円滑に短
時間ですむし、今回のように裁判において蒸気発生器伝熱管などの問題に拡大するこ
とも無かったのではない
かと考えます。安全性確認とは関係無く、手続きを明確にしておくべきであることの
指摘です。
6&7. リスクと確率論的安全評価 
 ご指摘のように確率論的安全評価に対比して決定論的安全解析という用語を使用す
べきです。確率とかリス
クという概念は、一般国民に理解してもらうのが難しく、また、機器、装置の不動作
確率、誤動作確率や人為ミス
はエンジニャリング・ジャジメントに頼らざるを得ないという問題があるので、表向
きは決定論的安全解析に
より審査することとし、その裏づけとしての発生確率やリスク評価は安全審査委員会
限りで審査し公表しない
ことにより無用の混乱を避けることが望ましいと考えております。
8. 二次系漏洩事故
 原子力学会の緊急討論会での説明及び今回の伊藤氏の補足説明でも、論旨がはっき
りしません。「漏洩が起
こった場合、漏洩検出器及びドレン弁が開くことにより、ドレン出来る設計になって
いるが、これらのいずれか
が動作せず、ドレンすることが出来ないとした場合でも、燃焼試験Uの界面反応によ
る腐食データに基づく鉄の
床ライナーの減肉量は6mm以下であると結論される。従って、床ライナーの厚さを6mm
としておけば、ナトリウ
ムとコンクリートの接触はありえない。」と理解してよいのでしょうか。補足説明で
述べておられる「ドレン
を前提としない安全評価」と「ドレン設備の故障を考慮した設備対応」とはどう違う
のかも判らないような説
明をしているようでは裁判官に理解して貰えないのは当然ではないでしょうか。反対
派の説得力のある説明に
対して、このような説明の仕方では敗訴になるのは当然であると考えます。
11&12 蒸気発生器伝熱管破損事故
4で述べたように、実験プラントで必ずしも実プラントと同じ運転条件での実験では
ないので、安全の確認が出
来たとはいえないのではないでしょうか。伝熱管は、運転中、減肉のみでなく、振動
疲労割れ、熱疲労割れなど
による強度の低下や製作時のミスなども考えられ、予期しないトラブルが起こること
は軽水炉で何回か経験し
ております。なにも伝熱管4本の破損に拘らなくても、十数本の破損の場合にも放射
能が放出されることは無
いことは確かであるといえるのではないでしょうか。
この事故も前述の二次系漏洩事故も放射能が外部に放出される可能性は無く、化学プ
ラントの爆発事故や火災
事故に比べれば、ボヤ程度のものであり、裁判長のように大げさに取り上げるのは理
解出来ません。
17. 解析コードの検証
解析コードの検証は特に実験データの少ない場合には、何時も問題になるところであ
り、どのような検証方法
を採りどの程度確認されているかを判り易く説明し、納得して貰う必要があると考え
ます。
18. 燃料溶融事故
 十分検討されているのであれば結構です。ただし、溶けた燃料が分散、沈降してナ
トリウムの自然循環に
よって崩壊熱が除去されるという結論は疑問です。比重の大きい燃料が塊となって原
子炉容器壁まで落ちてく
ることは無いのでしょうか。しかし、この問題は、判決とは関係ないのでこれ以上議
論するつもりはありませ
ん。
19. まとめ
今回の判決が敗訴となった理由は、説得力のある反対派の説明に対して国側の対応の
まずさが原因であると考
えます。最高裁では、この点を反省し、説明の仕方について工夫するともに、戦略的
対応を考えるべきでありま
す。また、裁判長と国側の許容されるリスクレベルに大きなギャップがあったこと
が、議論が平行線を辿った
原因であると考えます。原子炉プラントでは、多重防護と多重障壁により、万一の事
故に対しても放射能を外
部に放出しないよう万全を期し、リスクを如何に低く抑えているかについて判り易く
説明するよう努力する必
要があると考えます。
 リスクの点からは、車は 10-4/年、新幹線及び航空機は10-6 /年に対して、原子炉
プラントは 10-7/年以下で
あるにも拘わらず、社会的になかなか許容されないのは何故かその原因を検討すべき
です。その原因としては、
国及び施設者が信頼されていないこと、確率とかリスクの概念が一般国民に判りにく
く、理解を得にくいこと及
び放射線の人体に与える影響について一般国民の間に根強い偏見があることなどであ
ると考えます。これらの
点の改善を図ることが必要でありますが、裁判官は、一般国民が感覚的に判断するの
に対して理性的に判断する
ことが期待できるので、リスクに対する考え方も裁判のなかで取り上げ理解を得るよ
うに努めるべきであると
考えます。以上

豊田正敏
toyota@pine.zero.ad.jp