Subject: EEE会議(Re: 核燃料サイクル政策の進め方について)
Date: Sun, 30 Mar 2003 11:56:26 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位殿

標記テーマに関する柴山哲男氏(エネルギー問題に発言する会)のコメント(3月2
3日付け)に対し、豊田正敏氏からさらに次のようなメールをいただきました。ご参
考まで。 極めて重要な議論だと思いますので、他の方々の議論への積極的参入を期
待いたします。 匿名(ハンドル名)でも構いません。
金子熊夫

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柴山氏の原子燃料サイクルについての意見に対して、次のようにコメントします。

1. 高速増殖炉

再処理・プルトニウムリサイクル政策は、高速増殖炉が実用化されれば、ウラン資源
が60~70倍有効利用される
との期待の下に決められている。高速増殖炉実用化のためには、その経済性が軽水炉
並になることが前提条件で
あるが、その前提である実用化の見通しが何時まで経っても不透明であることが問題
である。
高速増殖炉の実用化のために最も重要なのは、経済性の見通しのある単純化された設
計概念とコンパクトなプ
ラント・レイアウトの確立であり、地域住民の安心が得られる安全性の確保である。
このような実用化のため
には、
(1) 高度の高速増殖炉技術ではなく、特許に近い新しいアイディアに基づくブレイク
スルーによる設計概念、
プラント・レイアウトを確立し、それに基づく要素技術開発による実証確認によって
実用化の見通しを得るこ
と。
(2) それに基づき、実証炉を建設すること。
現状では、新設の軽水型原子力発電所の場合でさえ、計画決定から運転開始までに20
年近くかかっていること
を考慮すべきである。
 また、電力会社は、電力自由化による電力コスト低減の要請の厳しい現状では、リ
スクの大きい実証炉に多
額の建設費を出して建設、運転を引き受けることは難しいと考える。誰が資金を出
し、建設、運転を担当する
かを明確にしておく必要がある。
(3) 実証炉での数年間の運転実績を見た上で、実用炉の建設に踏み切ることになろう
が、この場合にも、同様
の問題があり、運転開始までには、長期間を要する。

以上の点を踏まえて、実用化までの技術開発スケジュールを各段階毎に詳細に作り、
計画通りに確実に実施す
べきである。現在のような責任者不在の技術開発体制で、実施スケジュールもなく、
ただ漫然と研究開発をして
いるのでは、40~50年後にも実用化の見通しは暗いと言わざるを得ない。

2. 使用済燃料の直接処分

取り上げておられる問題点があまりにも初歩的でコメントする気がしませんが、主な
ものについて簡単にコメ
ントします。

(1) 長期貯蔵か永久処分か
長期貯蔵であれば、何も地下数百メートルのところで貯蔵する必要はなく地上で貯蔵
すればよい。問題の先送
りにすぎない。人間環境から隔離するためには、永久処分であるべきである。

(2) 冷却期間
 私個人としては、100年位にするのが処分場の面積も小さくなり、最も経済的であ
ると考えているが、地元住民
には、40~50年後には持ち出すと約束しているのでそれを守らざるを得ないと考え
る。

(3) 処分場の所要面積
処分場の所要面積は、処分概念や岩盤特性、深度などの設計条件によって大幅に異な
るが、これらの設計条件
が同じであれば、主な支配的因子は廃棄体の発熱量(廃棄体が垂直配置の場合には、
単位長さあたりの発熱量)
である。 従って、ガラス固化体でも、使用済燃料でも所要面積にそれほどの違いは
ないはずである。 また、処
分場にはアクセス坑道、連絡坑道などの共通部分があるので、処分される廃棄体の量
が多くなれば、1トンあた
りの所要面積は小さくなる。

(4) 核不拡散、保障措置
使用済燃料の直接処分は、使用済燃料を地下数百メートルに深地層処分し、人間環境
から隔離することであり、
強力な国際テロ組織といえどもこれを取り出すのは、時間、金、被曝などを考えれ
ば、不可能に近いし、作業の
途中で発覚し、成功する可能性も極めて低い。即ち、地下数百メートルの処分場から
放射能の高い使用済燃料
を持ち出すには、地上に大きな櫓を建て、大量の土砂を搬出し、放射線防護措置をし
た上で取り出すことにな
るが、このためには1年以上の歳月が必要であり、周辺住民に気づかれずに作業する
ことは不可能である。それ
よりも、再処理工場からプルトニウムを持ち出したり、MOX加工工場や原子力発電所
からMOX燃料を持ち出すと
か、MOX燃料を輸送途中に奪取する方が遥かに容易であり核拡散の潜在的危険性は高
い。世界の核不拡散論者
によれば、核拡散の抵抗性は、地下に処分された使用済燃料が最も高く、次いで地上
にある使用済燃料であ
り、プルトニウム粉末とかMOX燃料が最も低いとされている。「日本の常識は世界の
非常識」にならないよう
願いたいものである。世界の大部分の国が、直接処分を採用しようとしているのに対
し、ケチをつけるのはど
うかと思う。我が国でも、MOX燃料の使用済燃料は、さらに、経済性が悪くなり、ま
た高速増殖炉も実用化の見通
しがなくなれば、直接処分を採用しなければならなくなる可能性があるので、直接処
分を完全に否定するのは問
題である。むしろ、ガラス固化体とともに処分の技術開発を進めておくべきである。

(5) 立地
現在、世界で進められている処分場計画で最も早く実現する可能性のあるのは、フィ
ンランドであり、次いでス
ウェーデンである。何れも直接処分を考えている。 問題は、わが国にも処分場の適
地は多数あるが、現状では国
民の80~90%が危険であると考えており、これに対して理解活動が不足している上に、
確率論的安全評価により安
全であるとの独りよがりの考えを押し付け、地域住民に如何にして安心して貰えるか
の配慮が足りなければ、処
分場受け入れを了承する知事はいないのではなかろうか。
海外立地については、現にロシア及びオーストラリアで検討されているが、政府レベ
ルで取り上げられるのは難
しい状況にあると考える。しかし、少量の廃棄物しか出さない国では自国のみでは処
分費が高くつくし、処分が
困難である場合には、他国に依頼したいと考えている国もあることは確かである。し
かし、受け入れ側の国民感
情として実現は極めて難しいと考えられる。

3. 海水からのウラン採取及びトリウム発電炉
今世紀後半の原子力エネルギーとして期待されていた高速増殖炉及び核融合炉が何れ
もその実用化の見通しが
不透明となって来ているので、これに代わる選択肢として海水からのウラン採取及び
トリウム発電炉の実現可
能性の検討を進めるベきである。
 海水中には約45億トンのウランが含まれており、仮にその1割の4.5億トンが利用可
能であれば、陸上で経済的
に採掘可能なウラン量500万トンの約100倍となるので数百年間は十分賄えるのではな
いかと考える。その濃度
は、海水1立方メートル あたり僅か3mgであるが、最近、原研により、100万倍の捕集
効率を有する補修材が開発
された。問題は、ウラン回収のインフラ・ストラクチャを如何に安くするかである。
トリウム発電炉については、最も容易に実現できるのは、当面、軽水炉の燃料として
濃縮ウランまたはプルトニ
ウムをトリウムと混ぜた燃料を使用し、燃料のシャフリングを行うことにより、転換
比を高め、燃焼度を
80,000~100,000MWD/T程度まで高め、使用済燃料は直接処分する方法である。溶融塩
方式の場合も、古川氏の提案
しているように、増殖をあきらめ、原子炉寿命中、再処理を行わないで燃料の補給の
みで対処する方法である。
将来は、補給する燃料として加速器や核融合炉により、トリウムから核分裂性物質を
生産して補給するか、高度
再処理技術の開発により再処理費用が安くなれば、再処理によりウラン233を回収し
て利用することが考えられ
る。

 以上は私のアイディアに過ぎず、実現の可能性についてはもっと真剣に検討する必
要がある。詳細は、拙著
「原子力に明日はあるか」の第九章21世紀後半に期待されるエネルギー源p.59~81を
参照されたい。

豊田正敏
toyota@pine.zero.ad.jp