Subject: EEE会議(Re: 原子力開発の進め方: 豊田正敏氏の提言へのコメント)
Date: Wed, 2 Apr 2003 00:09:26 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位殿

いましがたお送りした下記メールに正しい件名をつけ忘れましたので、新しい件名と
共に全文(添付ファイルとも)を再送信します。悪しからずご諒承ください。
金子熊夫


----- Original Message -----
From: kkaneko
Sent: Tuesday, April 01, 2003 11:59 PM
Subject: Fw: 「豊田正敏氏の提言」への意見送付


各位殿

日本の原子力開発(とくにバックエンド)を今後いかに進めるか、という極めて基本
的かつ重要なテーマにつきましては、先般来豊田正敏氏のご提言をきかっけとして、
当EEE会議やその他の場で活発な議論が展開されておりますところ、この度「エネル
ギー問題に発言する会」の牧 英夫氏(日立製作所 電力・電機グループ原子力事業部
 特別顧問)より次のような貴重なコメントが寄せられました。同氏のコメントはか
なり長文なので、ここではその最初と最後の部分だけのご紹介に留めますが、是非添
付ファイルで全文をご覧いただきたく、また、豊田氏、伊藤氏、牧氏はじめ、これま
でに表明された各氏のご意見に対し反論、異論、補足等があれば、この際どしどしお
寄せください。
金子熊夫
***********************************************

[豊田正敏氏の呼びかけに応えて]

「原子力開発の進め方に関する提言」および「「もんじゅ」の判決に関連して」

03年3月31日 牧 英夫
 原子力推進は、残念ながら世界的な規模で困難な状況にあると認めざるをえない。
折から、豊田正敏氏から貴重なご提言を頂いたので、これを機会に日頃考えているこ
とを述べさせていただくことにした。反論ではなく、追加の提案である。

1.原子力の役割

1.1 公衆が納得するビジョンの必要性

最近、公衆の中でも高い見識を持っておられると考えられる方が、「私たちは世界の
ウラン資源を約100年余で使い果たそうとしている。一方で、発生する廃棄物は数千
年にわたって管理する必要がある。従って、原子力は子孫に負の遺産だけを残すこと
になる」と言っておられるのを知った。まして不特定多数の平均的水準の公衆に原子
力の役割を十分理解してもらうためには、原子力関係者が余程の覚悟をもって望まな
ければならないと感じた。

そのためには、公衆が納得できる明確なビジョンが必要である。そのビジョンは、原
子力はショートリリーフではなく、長い将来に亘って主戦投手になりうることを述べ
るものでなければならない。軽水炉発電と核不拡散に配慮したプルサーマルだけを議
論したのでは、恐らく公衆は納得しないであろう。どうしても再処理とプルトニウム
のリサイクルを正面に据えた議論が必要である。また、原子力が地球温暖化を回避す
る手段として効果が大きいことも言わなければならない。

これまでの解は、「ナトリウム液体金属冷却増殖炉」の開発と早期の実用化であっ
た。しかし、欧米における「ナトリウム液体金属冷却増殖炉」開発の停滞や、今回の
「もんじゅ」裁判の結果などを勘案すると、見通しは決して明るくない。何故このよ
うな状況になったのだろうか。その底流にNa技術の難しさがあるのではなかろう
か。原子力技術の根幹は“封じ込め技術”である。軽水炉は、我が国で商業用発電を
開始されて約30年になるが、その信頼性は確立されたと考えられる。それでも、維持
基準が導入されて、合理的な保守保全がようやく可能になろうとしている段階にある
「ナトリウム液体金属冷却増殖炉」の開発は原型炉の段階で足踏みを余儀なくされて
いる。この難関を突破して、公衆に安心して受け入れられる商用炉の実現に至る道筋
は現状では不透明であり、これだけをビジョンの拠り所とするのは無理がありそうで
ある。

(中略)

2.1 「もんじゅ」の判決に関連して

 豊田氏のご意見、伊藤氏のご意見、伊藤氏のご意見に対する豊田氏のコメント、本
年3月号の原子力学会誌に掲載されている「「もんじゅ」の安全性について」と題す
る可児氏の報告書、「原子力報道を考える会」23報などを拝見した。第一に、深層
防護に基づく原子炉の安全設計の考え方、安全評価の方法、安全審査の制度などは確
立されているものであり、我々の拠り所であるから譲るわけにはいかない。上告すれ
ば正しい判断が示されると思うが、万全を期してもらいたい。第2は、何故このよう
な判決が出て、高速増殖炉の開発だけに止まらず、我が国の核燃料サイクル政策に多
大な損失を及ぼす結果になってしまったのか、その原因を明確にして、今後どうすれ
ばよいかを考えることが大切であろう。

 裁判官が原子力の素人であることは理由にはならない。裁判官に「もんじゅ」の難
解な安全の仕組みを理解するだけの能力がなかったのかもしれないが、そうは思いた
くない。理解はしたが、一般公衆の一員としての裁判官としては「安心」するに至ら
なかったのではないか。そこで絶対安全に限りなく近い安全性を求めたのではない
か。

だとすると、そのリスクがいかにありえないほど低い確率のものかを説明するしかな
い。そのような説明を国側はしたのだろうか。その事実関係の把握が最も重要であ
る。

いずれにしても、「もんじゅ」には多額の資金、膨大な時間、多くの技術者の夢と情
熱が投入されてきた。上告して判決が出るまでどれくらいの時間を見込めばよいのだ
ろうか。そして、国は第4世代の原子力も勘案しつつ、今後どのように進めようとし
ているのか、方針を示すべきであろう。

(中略)

3.3 核燃料サイクルの経済性

 長期的な視点から、原子力は世界のエネルギー供給における主戦投手の一人として
活躍する必要がある。その時には、再処理とPuが主役となる。それまでのシナリオ
は、概略下記のようなものでどうか。

(1) 海外再処理で発生したPuは、核不拡散の観点からプルサーマルとして使
う。使用済みプルサーマル燃料は貯蔵する。

(2) 軽水炉からの使用済み燃料は、中間貯蔵を主体とし、再処理はミニマムに
する。

(3) 「低減速軽水炉」の開発に期待をかける。実用化までに15年を見込む。
その後、新規建設プラントは「低減速軽水炉」にする。

(4) 上記(3)に必要なPuを得るために、必要分を再処理する。

(5) 「高速増殖炉」(第4世代の3つの候補の内の1つ)の開発に期待をかけ
る。実用化までに40年を見込む。その後、新規建設プラントは「高速増殖炉」にす
る。

(6) 上記(5)に必要なPuを得るために、使用済み燃料は全部再処理する。

再処理とPuを主役にする時期を2050年頃に置いたのは下記の理由からである。地球
温暖化はCO2が原因ではないとする意見がある。しかし、もしCO2が原因だと明確に
なった時点では取り返しがつかなくなる。従って、予防原則に従うことにする。もう
一つの理由は、化石燃料は新しい埋蔵の発見があったにしても、地球にはあるだけし
かない。従って、倹約して使う原則に従うことにする。

 もしかすると、上記のシナリオは、天然ウランだけを使い切って、再処理とPuを
子孫の技術力で解決してもらうケースに比べると経済性に劣ることになろう。しか
し、ベストを尽くすのが我々の使命ではないか。

4.国際競争力のあるナショナル・プロジェクトの進め方

 豊田氏より、より経済的な再処理、濃縮、燃料加工の必要性が指摘されており、同
感である。加えて、第4世代の原子炉や低減速軽水炉などの開発も必要となる。これ
らの開発を日本だけで進めるのは不可能だと思う。その理由は下記の通りである。

・ 日本の現在の原子力技術は、第二次世界大戦で欧米やソ連が国の安全保障を
賭けて開発した基本技術の上に成り立っている。今後の開発は、その延長線上のもの
ではなく、非連続な開発である。日本にそれだけの国力はないのではないか。

・ Puリサイクルを考えた原子炉(「高速増殖炉」や「低減速軽水炉」)、新
しい再処理技術、経済的な濃縮技術などは、日本だけの問題ではなく、地球全体の問
題である。地球家族が力を合わせて推進すべきである。

上記のような枠組みの中で、日本も適切な貢献をすることが重要である。また、他国
の開発が遅れても我が国の原子力ビジョンに大きな狂いが生じないような自前の開発
も織り込んでおく必要があろう。例えば、「ナトリウム液体金属冷却増殖炉」(第4
世代構想で日本はこの開発を担当することになっている)と「低減速軽水炉」の開発
を日本が担当し、再処理、濃縮、Pu燃料加工の開発は諸外国に任せてはどうか。再
処理、濃縮、Pu燃料加工などの分野は、環境問題やPAに厳しい日本の国情を考え
ると不得意な分野のような気がする。

また、一応ピューレックス法技術、遠心分離技術を持っているし、Pu燃料加工はい
ざとなれば自前でやれないわけではない。

 今後の開発を国際協力中心に進めるとすると、国内の開発体制は当然産学官一体と
なった体制が必要である。必要な資金は国で確保していただきたい。人材については
官と産が協力し、学が監督官庁を支援と国際協調の枠組みつくりをするような体制が
できないものか。

                                     以