Subject: EEE会議(Re:「ふげん」の運転停止)
Date: Mon, 21 Apr 2003 22:37:20 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位殿

去る3月末運転停止した「ふげん」に関する小生のメール(4月2日)に対し、澤井
 定氏(元日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団)
から次のメールをいただきました。ご参考まで。
(金子)

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「ふげん(165、000kW)」の運転停止に関連して、日米原子力交渉における
「ふげん」の存在について回顧されたことに、
「ふげん」に長年関係してきた一人として、厚く御礼申し上げます。
先生の回顧を拝読して、USDOE が行った INFCE に関する委託調査のなかで、日本の
新型転換炉の開発について下記の
報告書が USDOEに提出されたこと、および INFCE においてアメリカが、「軽水炉に
Pu利用を禁止すること」を提案した後に、
日本が「新型転換炉のPu利用」を発表した巡り合わせを思い出しました。
  "FUGEN: A MIRROR OF JAPAN'S NUCLEAR POLICY ; THE SIGNIFICANCE FOR THE
U.S. AND INFCE"
By Kramish, RDA-TR-149203-002(Rev.-2), July, 1979

「ふげん」は、世界初のPu利用を主体にした熱中性子発電炉として生まれ、特に地元
のPublic Acceptance と産業界・官界
・学会・国民の御理解に支えられ、2003.03.29 に運転を停止するまで、MOX燃料集
合体の破損を経験することなく、わが国
のPu利用技術の礎を築くとともに、次の実績を挙げ、国際的にも寄与することができ
ました。
  総発電電力量  :219億kWh
  設備利用率   :62.2%
これは、地元・関係各界・国民の暖かい御支援・御指導の賜と、深く感謝しておりま
す。

そして、この実績の達成に、大洗工学センターを中心に行った開発・実証試験ととも
に、次のことも大きな力になったと思って
おります。改めて、感謝の念を強くしております。
(1) 先行炉のトラブル対策・予防対策の積極的採用 :
  @ カナダが経験した圧力管とステンレス鋼管の接合部の圧力管割れが、大きな
残留応力による「水素遅れ割れ」との
    技術情報を受け、実証試験を行って、圧力管接合部の残留応力低減工事を、
運転開始前に行いました。
  A ステンレス鋼管の「応力腐食割れ」に対しては、軽水炉で開発された技術と
材料を活用させて頂き、さらに「応力腐食
    割れ」のリスクを低減し予防する「1次冷却系連続水素注入」について、イ
ンプラント試験などの実証試験・海外炉の実績
    調査を行い、1985 年から実施してきました。
(2) 国際協力における相互支援:
  @ JUICE Meeting (Japan-United Kigdom-Italy-Canada Exchange Meeting)
を主体にした国際協力.
  A イギリスが、「ふげん」のMOX燃料集合体の先行照射を引き受けたこと
  B カナダ・イギリスとの「圧力管材料の特性と圧力管集合体設計」に関する研
究開発

重ねて、厚く御礼申し上げますとともに、今後本格的に展開されます「ふげん」の廃
止措置の開発に、暖かい御支援と御指導を
賜りますよう御願い申し上げます。

澤井 定 拝
(元日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団)

追記
  「ふげん」に関係したOBと現役は、「ふげん」運転終了の夜、「ふげん」に心か
らの感謝の気持ち(感謝状)を贈りました。



----- Original Message -----
From: kkaneko
To: Undisclosed-Recipient:;@m-kg202p.ocn.ne.jp;
Sent: Wednesday, April 02, 2003 4:11 PM
Subject: EEE会議(日本の核燃料サイクル計画:「ふげん」の死)


各位殿

新型転換炉原型炉「ふげん」が、3月28日、その24年の生命を終えました。孝
行息子然と最後まで奮闘したものの、武運つたなく天寿を全うすることは叶いません
でした。たまたまその日小生は、日本原子力学会春大会での招待講演のため九州・佐
世保にいてこの「訃報」を聞きました。1970〜80年代の日米原子力交渉の過程
で「ふげん」の存在がどれほど役立ったか、当時の交渉担当者として誠に感慨無量な
ものがあります。問題は、しかし、「ふげん」だけではありません。後に残った「も
んじゅ」には是非とも天寿を全うしてもらいたいという気持ちは決して小生だけでは
ありますまい。京都新聞の関連記事をどうぞ。
金子熊夫
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(京都新聞、2003年4月1日“凡語”)

 釈迦三尊像のうち両脇の二菩薩が倒れてしまっては、まん中に残るお釈迦さまは
さぞ心
細かろう。国宝や重文ではなく原子炉の話だ。
 
 倒れたのは、核燃料サイクル開発機構の新型転換炉原型炉「ふげん」と、高速増
殖炉原
型炉「もんじゅ」。共に慈悲の普賢菩薩、知恵の文殊菩薩にちなんで命名された。
取り残
されたお釈迦さまとは、日本の核燃料政策そのものだ。

 「ふげん」は3月末、実用化できぬまま誕生から二十四年で運転を終えた。二千
七百億
円の赤字を残し、解体には二十五年の歳月と一千億円が必要という。「もんじゅ」
は一九
九五年のナトリウム漏れ事故で停止のまま。ことし一月には名古屋高裁から国の設
置許可
を無効とする判決が出た。
 
 使用済み燃料からプルトニウムを取り出し再び燃やす核燃料サイクルは、夢のエ
ネル
ギー供給システムだ。プルトニウムの混合燃料を使う二つの原子炉は、その夢を実
証する
はずだった。何が欠けていたのか。

 事故隠しや、ずさん検査など原子炉の周辺には問題が多すぎる。だが、それより
もシス
テム実現が技術的に可能かどうかが、怪しく思われる。人間の知恵はまだ浅い。

 普賢菩薩には増益、文殊菩薩には物事を深く判断する徳がそなわるという。失敗
した原
子炉の名称に、苦笑してはおられまい。進むか引くか。国は、原子力政策の根本的
見直し
を迫られている。