Subject: EEE会議(Re:日本の原子力開発の進め方について)
Date: Mon, 21 Apr 2003 23:59:16 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位殿



2月以来当EEE会議で、豊田正敏氏を中心に進められてきた日本の原子力開発の進め
方(六ヶ所再処理工場、もんじゅ、プルサーマルなど)に関する論争は、小生の訪米
のため一時中断しておりましたが、以下にご紹介するメールは、小生訪米中に豊田氏
からいただいていたもので、牧 英夫氏のご意見(4月2日付けメール)に対するコ
メントです。若干以前の議論とダブっているところもあるように見受けられますが、
いただいたメールのまま、ご参考まで。

金子熊夫



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 3月31日の牧氏のコメントは具体的提案が含まれている点評価しますが、原子燃料
サイクルの現在の実態についてやや詳しく説明した後、討議する必要があると感じま
したので若干のコメントをしたい。



1. ビジョンの必要性

原子力の役割としては、電力を安定的に供給することが出来、かつ、地球温暖化防止
に有効であるので、当面、電力供給の主軸に位置付けられるべきである。しかし、将
来に亘って主力電源に位置付けられるためには、既に述べたように経済性の確保と一
般国民の信頼を得ることが肝要である。信頼の確保策については、月刊誌「エネル
ギー」1月号に詳述しているので参照されたい。



牧氏が指摘しておられるように、明確なビジョンを持つ必要のあることは同感であ
る。

わが国では、昭和30年代初頭より、ウラン資源が60~70倍、有効活用されるとの期待
の下に高速増殖炉・プルトニウムリサイクルを原子燃料サイクルの基本に位置付けて
きた。しかし、それから約50年経った今日、原型炉「もんじゅ」が運転停止のままの
状態である。        高速増殖炉実用化のためには、その経済性が軽水炉並
になることが前提条件であるが、その前提である実用化の見通しが何時まで経っても
不透明であることが問題である。


高速増殖炉の実用化のために最も重要なのは、経済性の見通しのある単純化された設
計概念とコンパクトなプラント・レイアウトの確立であり、地域住民の安心が得られ
る安全性の確保である。このような実用化のためには、
(1) 高度の高速増殖炉技術ではなく、特許に近い新しいアイディアに基づくブレイク
スルーによる設計概念、プラント・レイアウトを確立し、それに基づく要素技術開発
による実証確認によって実用化の見通しを得ること。
(2) それに基づき、実証炉を建設すること。
現状では、新設の軽水型原子力発電所の場合でさえ、計画決定から運転開始までに20
年近くかかっていることを考慮すべきである。
 また、電力会社は、電力自由化による電力コスト低減の要請の厳しい現状では、リ
スクの大きい実証炉に多額の建設費を出して建設、運転を引き受けることは難しいと
考える。誰が資金を出し、建設、運転を担当するかを明確にしておく必要がある。
(3) 実証炉での数年間の運転実績を見た上で、実用炉の建設に踏み切ることになろう
が、この場合にも、同様の問題があり、運転開始までには、長期間を要する。



以上の点を踏まえて、実用化までの技術開発スケジュールを各段階毎に詳細に作り、
計画通りに確実に実施すべきである。現在のような責任者不在の技術開発体制で、実
施スケジュールもなく、ただ漫然と研究開発をしているのでは、40~50年後にも実用
化の見通しは暗いと言わざるを得ない。従って、これに代わる選択肢についてその実
現可能性を検討すべき段階に来ていると考える。



高速増殖炉の技術開発が思うように進まない理由としては、大量にプルトニウムを使
う高速増殖炉であって、正の温度係数を有し、かつ化学的に活性なナトリウムを使う
などにより、一般国民に受け入れ難いことの他、JNCが実施スケジュールもなく、無
責任体制でただ漫然と技術開発を進めており、技術開発のテンポが遅すぎることが挙
げられる。今回程度のトラブルは、実用化までには何回か経験するであろうが、その
都度、運開までに10年以上かかるようでは、何時になったら実用化出来るか見通しは
暗いと考えざるを得ない。

これに代わる選択肢としては、現段階では一つに絞るのではなく、2~3の選択肢の実
現可能性を検討し、その中から選択すべきである。



2. 原子燃料サイクルの経済性

今後の選択肢を検討する際、原子炉だけでなく、原子燃料サイクル・コストも含めて
その経済性の検討が必要である。現在採用されているピューレックス法再処理では、
燃焼度の増加とともに再処理費が高くなり、それに放出放射能のレベルも厳しくなっ
たこともあり、燃焼度の増加以上に再処理コストが高くなってきている。しかも、燃
焼度45,000MWD/T以上では、さらに高くなるものと想定される。また、プルトニウム
燃料の成型加工費も燃焼度の増加とともに、放射能の高いPu-238が増加するため、ウ
ラン燃料の約4倍と推定されているが、燃焼度45,000MWD/T以上では欧州でも、現段階
ではそれに対応する施設はない。従って、現段階では、燃焼度を45,000MWD/Tに抑え
てプルサーマルをするか、燃焼度を60,000~80,000MWD/Tまで高め、使用済燃料は長期
貯蔵するかであるが、後者のほうが遥かに経済的である。



   従って、使用済燃料の燃焼度や出力密度にあまり左右されない乾式高度再処理
技術の技術開発が緊急の課題である。また、その再処理に当たっては、再処理システ
ムを単純化し、再処理費を低減するため、FPの不純物が多少入ってくるとか、UやPu
の未回収のものが多少あることは許容すべきである。次に、プルトニウム燃料の成型
加工に当たっては、施設や装置にプルトニウム粉末の付着し難い材料や構造を採用
し、トラブルの際の自動遠隔保守方法について予め十分検討しておくとともに、プル
トニウム・ペレット及び燃料棒の官庁検査は、肉眼による検査を止め、自動検査装置
の記録確認のみとしコスト削減を考えるべきである。



このような技術開発は、JNCのみに任せていたのでは、何時になったら実用化出来る
か判らないので、英仏及びロシアも含めて国際協力によって進めるべきであるが、肝
心の英仏は何れも海外からの再処理委託に悪影響を及ぼすような技術開発に積極的に
取り組むかどうか懸念される。



3. 21世紀後半に期待される選択肢

詳しくは、拙著「原子力に明日はあるか」 第12章21世紀後半に期待されるエネル
ギー源p.59~81を参照されたい。

先ず、牧氏の推奨しておられる低減速軽水炉であるが、技術開発すべき項目が数多く
あり、Pu含有量がプルサーマルに比して大量であり、炉特性が従来の軽水炉とは全く
異なる中速中性子炉とみなされるもので、一般国民に受け入れられるかどうかという
問題がある。   問題点としては、

@ 正のボイド係数を避け、また転換比を高めるため、炉心を偏平にし、か
つ、中間ブランケットを採用することにより、建設費及び発電原価が高くなる可能性
がある。

A 熱中性子炉とは異なる中速中性子炉であり、正の温度係数は避けられるに
しても、自己制御性は劣る。

B 稠密炉心を採用せざるを得ず、崩壊熱除去及び緊急停止時の熱除去の安全
余裕が小さくなる。

C 燃料被覆管の耐久性の確認が必要である。

D 炉心が偏平となり、かつ、中性子の減速距離が長くなるので、100万kW級原
子炉の場合、Xeによる中性子束の空間振動の起こる可能性について検討しておく必要
がある。

従って、技術開発に時間もかかるし、実証炉、実用炉のステップを踏む必要があると
考えられ、また、軽水炉に比べて割高となることは確実である。わが国では、かっ
て、原子炉物理の専門家のいうことを信用して、電力やメーカーの反対を無視して
ATRの技術開発を進めてきたが、その轍を踏まないよう願いたい。



次に、高速増殖炉については、私は、上述のように今の無責任体制で、実施スケ
ジュールもなく、ただ漫然と進めていたのでは、40~50年経っても実用化の見通しは
暗いと考えているが、牧氏は、どのような根拠により40年間で実用化出来るとお考え
か、責任ある具体的実施スケジュール及び体制を示して説明されたい。



私が21世紀後半に期待できる高速増殖炉に代わるエネルギー源として期待しているの
は、海水からのウラン採取とトリウム発電炉である。

@ 海水からのウラン採取

海水中には、約45億トンのウランが含まれているが、その濃度が、1立方メートルあ
たり、僅か3mgである.しかし、最近になって原研により、捕集効率100万倍の捕集材
が開発され、津軽海峡で実規模実験によって実地で確かめている。また、海水温度が
10℃上昇すれば、捕集効率が2倍になる。その上、バナジュウム、コバルト及びチタ
ンも副産物として回収される。問題は、ウラン回収のためのインフラストラクチャー
の建設費が高くつくのでその低減を図る必要があり、そのためには、コンサルタント
会社またはジェネコンの積極的な協力が必要と考える。

A トリウム発電炉

私の提案は、軽水炉の燃料としてトリウムにプルトニウムまたは、濃縮ウランを混ぜ
たものを使用し、燃料のシャフリングにより、運転に伴なって発生するウラン233も
利用するもので、原子炉特性も熱中性子炉であって従来の軽水炉とそれほど違いはな
く、かつ、転換比を高め、燃焼度も高くすることができると期待される。主な技術的
開発項目は燃料の成型加工のみである。プルトニウムをプルサーマルで燃やすよりは
プルトニウムの有効活用が図られ、遥かに経済的である。使用済燃料は当面長期貯蔵
し、将来、高度再処理技術が実用化された段階に、再処理し、ウラン233を回収して
利用することが考えられる。

もう一つは、古川氏の提案されているトリウム溶融塩炉である。これは従来の増殖
型熔融塩炉ではなく、系統を単純化し、建設費を安くすることと技術開発項目を減ら
すために、増殖をあきらめ、運転中、再処理しないこととする。運転当初に、ウラン
233または、プルトニウム装荷は必要であるが、その後はトリウム熔融塩の補充で対
処出来る。熔融塩炉の技術開発に残されている課題は多くあるが、熱中性子炉であ
り、厄介なPuも生成されないし、TRU廃棄物も殆ど生成されない。燃料の成型加工も
必要なく、再処理も当面必要ない。原子炉寿命後の再処理の場合にもせん断溶解が必
要ないなどの利点がある。

以上何れの案も今後百年程度の燃料供給には、対応出来るが、その後の供給をどうす
るかを考えておく必要がある。このことは、高速増殖炉の場合でも、倍加時間が50年
程度であることを考えれば、必要である。

このためには、上述の海水からのウラン採取の他に

(イ) 大電流陽子加速器による陽子とトリウムとの核スポレーション反応によって生
成された中性子がトリウムに吸収され、ウラン233を作る。

(ロ) 核融合炉(核融合発電炉ではなく、核分裂性物質の生成を目的とした小型炉で
ある)の高速中性子をトリウムに照射し、ハイブリッドによりウラン233を作る。

(ハ)長期貯蔵の使用済燃料を再処理することにより、ウラン233またはプルトニウム
を回収する。

  これらの方法は、何れも経済性のある実用化が実現出来るとしても、実現までに
少なくとも50年はかかると予想される。

      豊田 正敏
----- Original Message -----
From: kkaneko
To: Undisclosed-Recipient:;@m-kg202p.ocn.ne.jp;
Sent: Wednesday, April 02, 2003 12:09 AM
Subject: EEE会議(Re: 原子力開発の進め方: 豊田正敏氏の提言へのコメント)