Subject: EEE会議(Re:日本の原子力開発の進め方について)
Date: Fri, 25 Apr 2003 01:52:31 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位殿

標記テーマに関し、中神靖雄氏(核燃料サイクル開発機構副理事長)から、次のよう
なメールをいただきました。ご参考まで。
金子熊夫

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4月21日付けでお送り頂いた「日本の原子力開発の進め方について」のEEE会議
メールに関し、
高速増殖炉及び核燃料サイクルの開発の現状について、当事者として皆様方に現状を
ご報告
するべきと考え、メールにて拝送申し上げますので、宜しくお願い致します。
                                      
中神靖雄
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高速増殖炉と核燃料サイクルの開発について
2003年4月24日

                          JNC 中神靖雄



核燃料サイクル開発機構副理事長を務めております中神です。

「もんじゅ」について多くの方々にご心配をおかけしています。行政訴訟については
国が上訴しており、最高裁で適切な判断が出るよう、サイクル機構として今後とも国
をサポートして参ります。

「もんじゅ」は温度計折損によるナトリウム漏れを起こして以来停止し、既に7年4ヶ
月が経過しており、昨年12月に信頼性向上のための改造工事について国の設置変更許
可が出され、やっと工事にかかれる直前まで漕ぎ着けたところでの高裁判決でありま
した。サイクル機構関係者の落胆は大きいのですが、国が上訴したことで昭和58年の
設置許可と昨年の設置変更許可は法的に有効であり、安全協定に基づく地元の事前了
解を得た上で、なるべく早期に改造工事に着手し、運転再開を目指していきたいと考
えており、「もんじゅ」の安全性と必要性について地元理解促進活動に努力している
ところです。

牧英夫氏や豊田正敏氏をはじめ高速増殖炉の実用化への見通しについてご心配を頂い
ていますが、現在の取り組み状況についてご報告いたします。

「もんじゅ」(注)は高速増殖原型炉発電プラントとして信頼性の実証、ナトリウム
取り扱い技術の確立とともに、実用化に向けての新技術実証の役割を担っています
が、「もんじゅ」は原型炉ということで建設費が嵩高になっているところがあり、こ
のままでは商用化は出来ませんので、実用化のためには革新技術を取り入れることが
必要です。

(注:なお 日,米,仏、露の高速炉の温度係数は「負」です。念のため。)

1999年から、サイクル機構及び電力各社、研究機関、メーカーの研究者、技術者約
80名を茨城県大洗に結集し、オールジャパン体制により、軽水炉に比肩する「経済競
争力ある高速増殖炉サイクル(燃料サイクルも含めて)の実用化」を指向する「実用
化戦略調査研究チーム」を発足させ、「安全性」「経済性」「資源の有効利用」「環境
負荷低減」「核拡散抵抗性」のそれぞれに達成目標を設定し、幅広い選択肢の比較評
価と実用化検討を進めてきました。

2〜5年毎のチェック&レビュー(外部評価を含む)で見直しつつ、2015年までには
「競争力ある実用化技術」を提示し、軽水炉の本格的リプレース時期である2030年頃
の実用化を目指しています。(なお電気事業者の中には、高速増殖炉商用プラントの
必要時期は2050年頃と言われる方もおられます。)

経済性については、豊田氏から「単純化された設計概念とコンパクトなプラント・レ
イアウトの確立」とのご指摘がありましたが、中間熱交換器と1次ポンプの合体化や
系統数削減等により、経済性目標達成の見通しを得るに至っています(別図参照)。
現在は技術成立性を確認するための要素試験等を進めているところです。

まだまだ技術開発や工学規模の試験を行う等課題はありますが、着実に研究開発は進
んでいます。前出の実用化目標に対し、2015〜2030年の間には当然実証炉の導入が考
えられますが、現時点で電気事業者にそのような考えがあるわけではなく、国として
のオーソライズも今後の課題です。

「JNCには実施スケジュールが無い」といったことは決してありません。「実施スケ
ジュールが長すぎる」というのは同感ですが、原子力長計の議論の中で「スケジュー
ルありき」の開発を戒める声もあり、中長期計画に基づき着実に推進し、上記の如く
定期的に成果と方向性について評価を行いつつ進めることとしています。

核燃料サイクルの経済性向上と核拡散抵抗性向上についても着実に進めており、従来
のピューレックス法再処理がウラン、プルトニウムを一旦純粋に分離する技術である
のに対し、プロセスを簡素化しウラン、プルトニウムを分離せず、核分裂生成廃棄物
も混入した低除染状態から燃料製造する先進湿式再処理と共に、乾式再処理について
も電中研と共同で東海事業所の施設を使って取り組んでいます。

再処理及び核燃料製造技術についても大幅な経済性向上の見通しを得るところまでは
至っていますが、今後工学規模での実証が課題です。革新的な核燃料サイクル技術
は、高速増殖炉だけでなく、将来の軽水炉燃料サイクル高度化にも対応できるもので
す。

使用済燃料中の核生成廃棄物として扱われているマイナーアクチニドや長半減期核種
を高速増殖炉で燃焼或いは核変換する技術も研究開発中です。現在、高レベル廃棄物
については、数万年以上に渡り人間生活から隔離させる必要があるものを、将来的に
は千年以下とすることも可能です。またこのようなリサイクルにより、高速増殖炉は
高レベル放射性廃棄物を究極的には1/10に出来るポテンシャルを持っています。

1980年代は、世界各国が夫々独自に原子力の研究開発を進めていましたが、原子力が
逆風の中、現在は国際協力のもとに推進していく機運にあります。米国主導の
Generation-4もその一つで、2030年までの実用化を目指し、国際協力のもと、研究開
発を推進していこうとしています。日本もナトリウム冷却・MOX燃料高速炉の研究
推進リード国として、米仏等と協力しつつ、「もんじゅ」を研究開発の中核と位置付
け、研究開発を進めています。

「責任者不在の技術開発体制」とのご意見も頂きました。自らが生じた問題に起因す
るところも確かにありますが、国の政策・行政や電気事業者の意向等々に振り回され
てきたところもあったと思います。地方自治体の理解を得ることも必須です。民間企
業から移ってきた私の印象として、自ら進める開発に対して、裁量の余地が民間の場
合に比べかなり小さいと感じています。また動燃のある時期は、数年単位の出向で多
方面から来られた方々も含め、組織が必ずしも一元的でなく、意思の疎通の問題もあ
り、経営不在と言われたこともありました。

動燃改革の中で、反省すべき所は改善し、内部は勿論のこと外部との風通しも良く
し、管理者が責任と権限を持って、適正かつ効率的な運営の出来やすい組織体制とな
るよう努力してきたつもりです。

皆さん色々ご批判はあろうかと思いますが、サイクル機構の役職員一同、力を合わ
せ、「もんじゅ」の早期復帰、高速増殖炉と核燃料サイクルの実用化に向け真剣に取
り組んでいるところであり、温かい目でご支援下さいますようお願い申し上げる次第
です。                  以上


----- Original Message -----
From: nakagami
To: kkaneko
Sent: Thursday, April 24, 2003 5:16 PM
Subject: Re: EEE会議(Re:日本の原子力開発の進め方について)