Subject: EEE会議(エネルギー外部性評価問題)
Date: Sat, 26 Apr 2003 17:55:17 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位殿

近年我が国でも原子力を含むエネルギー利用の「外部性」(externalities)の評価と
いう、一般には必ずしもなじみのない問題が盛んに議論されております。この問題に
関して、先日、伊東慶四郎氏(政策科学研究所)が「エネルギー問題に発言する会」
の運営委員会で講演をされましたので、同氏のご了解を得て、講演概要をご紹介いた
します。ご参考まで。
金子熊夫

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 本会の第15回運営委員会において、政策科学研究所・伊東慶四郎氏による「リス
ク論に基づくエネルギー外部性研究のスコープとその現状」と題する講演が行われ
た。エネルギー利用に関しては、市場経済性のみならず環境・健康影響、エネルギー
セキュリティ関連リスクなど4領域の「外部性」(*末尾に注釈) を考慮して評価す
ることが重要であると言われており、本講演はこの分野の研究スコープ・現状を展望
したものである。講演の概要は以下のとおり。
 なお、伊東氏は第41 回原子力総合シンポジウム(2003 年5 月22 日・内幸町ホー
ル)のセクション「エネルギー外部性評価と原子力の役割」において、本題目で講演
する。 
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 信頼される科学技術の前提として、それが齎すリスクの包括的な波及影響評価とこ
れについての公衆との対話が重要であり、エネルギー利用に関してもそれに付随する
リスクなどの外部性の研究は重要である。外部性の定量評価は、欧州委員会による
ExternEプロジェクトなど欧米では既に10年以上前から実施されている。我が国に
おいても、エネルギー利用の外部性、それに関わるガバナンスのあり方、社会の理解
へ向かっての政策対応などについて、研究・対応を充実していくことが必要である。

 エネルギー外部性研究が対象とする領域は、エネルギー利用に関して、人の健康や
環境におよぼす影響、供給途絶などのセキュリティに関するリスク、事件・事故や人
・組織の行為がおよぼす社会的影響、核拡散・核テロなどの安全保障に関わるリス
ク、エネルギー開発への投資リスク、など広範である。

 上記ExternEプロジェクトによる欧州の発電システムの外部コストの試算は、発電
システムが排出する公害に伴う環境コスト(地球温暖化、騒音、建築材料、農作物、
職業人の健康、公衆の健康など)を算出したもので、国別に石炭、石油、ガス、原子
力、バイオマス、水力、太陽光、風力、都市ゴミなどによる発電シテムの比較がなさ
れている。英国の場合は外部費用の大きい方から以下のようになる。(単位はミリ
ユーロ/kWh)
石炭:55、石油:42、オリマルジョン:42、ガス:17、バイオマス:5.5、原子力:
2.6、風力:1.4

 社会的外部性の典型例として、放射線による現実の健康影響を評価する際に、安全
規制上のICRPのLNT(線形、しきい値なし)仮説を用いているため、健康影響
を過大評価し、原子力の平和利用に重大な外部性をもたらしている例が挙げられる。

 日本原子力学会は昨年、この分野の研究の展開に資するため、外部性研究専門委員
会を発足させた。近時、我が国の内外でエネルギー利用に関して、社会的、政治的、
制度的、あるいは安全保障に関わる様々の社会リスクが多発して社会問題化してい
る。これらは環境外部性とは異なる領域であり、これからは科学技術と社会に関わる
リスクとそのガバナンスを指向したした研究も重要な課題になってこよう。


* 「外部性」とは、ある経済主体の行動が他の経済主体に影響を及ぼすことで、金
銭的(市場的)外部性と技術的外部性に分類される。金銭的外部性とはある経済主体
の行動が市場を介して波及する影響のことで、技術的外部性とはある経済主体の行動
が市場を介さないで他の経済主体に影響を与えることである。近年は、これら経済学
の範疇のみでは位置付け難い社会的・政治的・制度的な外部性問題が重視されてきて
いる。