送信者: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>
件名 : EEE会議(余談: 情報化時代の軍事革命)
日時 : 2003年4月28日 0:54

各位殿

今朝拙宅に舞い込んできたあるメルマガの一部です。少々長いですが、GW中の読み
物としてどうぞ。SARSについても、中国人民解放軍が開発していた細菌兵器が事
故で漏洩したという説(米国のワシントン・ポスト)を紹介しています。
金子熊夫

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情報化時代の軍事革命(RMA)

イラク戦で登場した軍事革命は、平和と安全保障の概念
を根本から変えつつある。


■1.イラク戦で実証された軍事革命の威力■

 イラク戦争でバグダッドが事実上陥落した4月9日、チェイ
ニー米副大統領はこう語った。

 ラムズフェルド(国防)長官とフランクス(中央軍司令
官)は、12年前(の湾岸戦争)よりもはるかに少ない兵
力を投入して、はるかに困難な任務を達成した。

 21世紀の課題に対処するのに必要なトランスフォーメ
ーションの努力が成功していることを示す明確な証しだ。

 トランスフォーメーションとは変革とか変容を意味し、ここ
では具体的に情報技術の利用による軍事革命、RMA(The Re
volution in Military Affairs) を指す。

「湾岸戦争よりはるかに少ない兵力」で「はるかに困難な任務
を達成した」とは誇張ではない。湾岸戦争では多国籍軍70万
人が43日、すなわち3,010万人日かかって、イラク軍をクウ
ェートから追い出しただけだった。今回のイラク攻撃は米英軍
約30万人が26日間、つごう780万日でイラク全土を掌握し、
フセイン政権を打倒した。約4分の一の動員兵力で、24倍以
上もの領土を制圧したのである。

 これだけの凄まじい威力を発揮したのが現在急速に進みつつ
ある軍事革命である。これによって安全保障の考え方そのもの
も急速に変容しつつある。我が国が21世紀の平和と安全を希
求するためにも、軍事革命を理解し、対応していく必要がある。

■2.工業化時代の消耗戦■

「レスリングの消耗戦から、ボクシングの麻痺戦へ」という表
現が軍事革命の本質を表す最も分かりやすい比喩だろう。工業
化時代における戦争は、国家がその総力をあげて武器弾薬の大
量生産を行い、体力を消耗しつくすまで戦う総力戦であった。

 その最初の例がナポレオン戦争である。産業(というより工
業)革命により小銃の大量生産が可能となり、徴兵制で数百万
の兵士が徴用されるようになった。それ以前の農業時代の戦争
は、君主が少数の高価な傭兵をチェスの駒のように惜しみなが
ら使う流血回避の戦いだったのに対し、ナポレオンは「自分は
1ヶ月に3万人を損耗しても構わない」と言ったと伝えられて
いる。

 消耗戦の典型が第2次大戦だろう。米英両軍がヨーロッパ戦
場に投下した全爆弾量は270万トンにのぼり、そのうち地上
部隊の戦闘支援に約30%、生産手段や輸送手段の破壊に45
%、そしてドイツの都市爆撃に24%が費やされた。まさにレ
スリングのように取っ組み合って、体力を消耗しつくすまで戦
う「消耗戦」であった。

 工業化が武器弾薬の大量生産を実現し、それが国家の総力を
あげての消耗戦を生み出したのである。

■3.戦場を覆う厚い霧■

 膨大な武器弾薬を絨毯爆撃に使うのは、実は本当に攻撃すべ
き目標がどこにあるのか分からないためである。工業化時代の
限られた情報技術では「戦場とは、常に厚い霧に覆われている
ようなもので、敵情は常に不明である」というのが、戦争の前
提であった。目の前に展開されている敵軍ですら、どこに司令
部があるのか、どのような兵力がどう展開されているのか、補
充兵力がどのくらいあるのか、よく分からない。

 本当は敵司令部を攻撃して指揮命令系統を破壊できれば、敵
軍がいかに膨大な兵力を展開していようと、全軍を混乱に陥れ、
あとは個別撃破するか、潰走させるかすれば良い。あるいは敵
国の都市全体を絨毯爆撃しなくとも、発電所や送電ネットワー
クを破壊すれば、軍需生産をストップさせることができる。
敵軍、あるいは敵国の「要」となる点を見いだし、それに攻撃
を集中することは、工業化時代の戦争でも原則とされてきた。

 しかしその「要」は敵の懐深く隠されており、工業化時代の
情報技術では、せいぜいスパイや偵察機を送り込んだり、通信
を傍受する程度で、容易には見つけることができなかった。ま
た敵も見つからないように、暗号を使ったり、偽情報を流した
りする。

 そのために工業化時代の戦争では、まず敵軍の前線から順次
打ち破っていかなければならなかった。しかしその戦況に従っ
て敵軍司令部も移動するので、結局は敵軍のほとんどを打ち破
らなければ勝つことはできない。これが結果的に消耗戦となっ
てしまう理由であった。

■4.「要」へのピンポイント攻撃による麻痺戦■

「敵の『要』を見つけ、精確に打撃する」、これを可能とした
のが現代の情報技術である。湾岸戦争で活躍したランドサット
衛星は30メートルの大きさのものを見分けることができ、港
湾施設や鉄道の操車場を特定することができた。現在では解像
度は10センチまで高まっていると言われている。これなら戦
車や兵員の配置までつかめる。

 偵察衛星で「要」を見つければ、巡航ミサイルや精密誘導弾
でピンポイントの精確な打撃を与える。これらの精密誘導兵器
はインプットされた地形データ、カーナビと同じGPS(衛星
利用測位システム)による位置情報、さらには攻撃目標の映像
とカメラ映像の対比によって、自動的に軌道調整して目標を攻
撃する。

 今回のイラク戦争では「一発の銃弾でことが片づく(フセイ
ン政権首脳らの殺害)なら、一ヶ月90億ドルと見積もられて
いる戦費は必要なくなる」との発言が米フライシャー大統領報
道官からなされていた。フセイン大統領自体が攻撃すべき
「要」だったのである。

 そして現実の戦争も、この考え通りに始まった。3月19日
午後、「今夜、フセイン大統領が2人の息子たちとバグダッド
南部の邸宅に集まる」との極秘情報を得たブッシュ大統領は午
後7時12分に空爆を決断。その時、すでにイラク上空を飛ん
でいたF117ステルス戦闘爆撃機が午後9時半すぎに、フセ
イン大統領の命を狙った誘導爆弾を投下した。

 フセイン大統領の命を奪えたかどうかはいまだ不明であるが、
その後のピンポイント空爆はイラク軍の指揮命令系統を壊滅さ
せ、「自転車による伝令でしか命令を伝えられなくなってい
た」(米ニューズウィーク誌)。イラク軍が散発的な抵抗しか
できなかったのもこのためである。

 相手の体力を消耗させてフォールを奪う工業化時代のレスリ
ング型消耗戦に対して、情報化時代の戦争はボクシングで相手
の脳を狙った一撃でノックダウンを奪う「麻痺戦」であると言
える。

■5.「人命尊重の戦争」■

 情報化時代のもう一つの特徴は、マスメディアの発達だ。戦
場の生々しい映像が衛星放送などでリアルタイムに届けられる
と、国民は嫌悪感や道徳的罪悪感を抱きやすい。今回の戦争で
も、イラク側がさかんに米軍の爆撃による民間人の被害をテレ
ビ報道していたのも、この点を衝いた作戦である。イラクはさ
らに軍の拠点を住宅密集地や文化財、モスク(イスラム寺院)
の近くに設営して空爆への盾としていた。

 日本からも「人間の盾」としてわざわざイラクに行った人び
とがいたが、一人でも米軍の攻撃で怪我でもすれば、イラク側
にとっては絶好の宣伝材料となったろう。また日本の多くのマ
スコミも早々と米国支持を決めた小泉政権に対して格好の攻撃
材料としたであろう。

 こうした戦術も米軍の精確なピンポイント攻撃であまり役に
立たなかった。国防総省で空爆作戦計画を担当したゲーリー・
クラウダー空軍大佐は「本当に必要な攻撃対象と効果を峻別し、
戦争史上最大の配慮をした空爆を行う」と語っていた。

 空爆前には必ず非戦闘員や周辺民間施設の被害を最小にする
ための検討がなされ、ミサイルの侵入角度を綿密に計算したり、
爆薬の代わりにコンクリートをつめた不活性弾も用いられた。
この結果イラク軍の死者も湾岸戦争時の数万〜10万人に対し
て、今回は軍人2320人、民間人1402〜1817人とイ
ラク全土を制圧したわりにはきわめて少なかった。情報化時代
の戦争は「人命尊重の戦争」でもある。

■6.特殊部隊の活躍■

 イラク戦争でのもう一つの大きな特徴が特殊工作部隊の活躍
である。開戦直後にイラク南部、西部、北部から約1万人にも
のぼる特殊工作員が侵入し、あらかじめイラク国内に潜入して
いたCIA工作員と協力して、ただちに工作を始めたようだ。

 バグダッド周辺に配備されていた共和国防衛隊に対する空爆
作戦では、特殊工作員が空爆目標をレーザーで指示してピンポ
イント爆撃をリードした。

 4月4日にバグダッド近郊のサダム国際空港を制圧し、翌5
日には戦車隊が市内に侵入した。大きな民間被害を出しかねな
い市街戦強行を避けて、包囲網を築いて慎重に攻略するという
のが大方の観測だっただけに、この大胆な動きは世界中を驚か
せた。これもいちかばちかの突入ではなく、市内に張り巡らせ
たスパイ網や、夜間停電の際に侵入した特殊部隊員から収集し
た情報に基づいて綿密に組み立てられた作戦だったとの見方が
支配的だ。

 工作は戦闘に関わるものだけではない。たとえば西部では開
戦直後にミサイル発射基地を制圧して、イスラエルなどへのミ
サイル攻撃を阻止した。また各地域を支配する部族に交渉して
米英軍に抵抗しないよう説得を行った。イスラエルがミサイル
攻撃を受けて反撃に出たり、部族が各地で抵抗したりすれば、
戦争は複雑化、長期化を余儀なくされたであろう。こうした事
態を未然に防いだのも特殊部隊の大きな成果であった。

 特殊工作員は情報化時代の戦争の尖兵と言える。

■7.国家全体を麻痺させうるサイバー攻撃■

 情報革命の進展していないイラク相手では目立たなかったが、
サイバー攻撃は先進国相手の戦争に威力を発揮する情報化時代
の攻撃手段である。情報化社会では通信、交通、金融、水道、
電力、ガスなど、国家の重要なインフラストラクチャーがコン
ピュータ・システムに依存しており、ここがトラブルを起こす
と国家全体が麻痺してしまう恐れがある。

 我が国でもコンピュータ・システムのトラブルにより、銀行
の現金自動預払機が動かなくなったり、みどりの窓口での予約
ができなくなったりした事故があったが、サイバー攻撃とはこ
ういうトラブルを意図的に起こす手段である。

 99年春のNATO軍によるユーゴスラビア空爆の際、米軍が
ユーゴ軍のコンピュータ網の攪乱を狙ったサイバー攻撃を実施
している。中国の公的新聞である「解放軍報」には「米国を破
壊しようと望むものは、ハイテク機器を使って銀行のコンピュ
ータ・システムを混乱に陥れるべきだ」と書かれていた由。

 サイバー攻撃の特徴として、きわめて安価に保有できるとい
う点がある。米国国防総省の専門家によれば、1千万ドル(約
12億円)もあれば、コンピュータのプロ30人を雇い、世界
中に配置して、米国に対して一斉にサイバー攻撃をしかけ、米
国を屈服させることができるという。2000年の時点で少なくと
も9カ国がサイバー戦遂行能力を保有し、100以上の国が開
発段階にあったと言われている。

 サイバー攻撃には国境は存在しない。通常の戦争のように敵
軍を水際で撃退するわけにはいかないのである。それどころか、
どこの国が仕掛けたものか、さらには個人の犯罪行為なのか国
家の戦争行為なのかも判別もしがたい。情報化時代には、戦争
の概念自体が大きく変容してしまう。

■8.SARSは細菌兵器の漏洩?■

 軍事革命が戦争の概念を大きく変えてしまうことによって、
安全保障の概念も大きく変容する。情報化時代の戦争から、我
が国の安全と平和を守るためには、どのような課題があるのだ
ろう。

 我が国の安全を脅かすものは、まずは秘密工作員やサイバー
攻撃だろう。現実に北朝鮮の工作員が国内で国民を拉致したり、
また中国のハッカーが政府のホームページを改竄するという事
件が起きている。

 現在、大きな問題となっているSARS(重症急性呼吸器症候群)
も中国が開発していた細菌兵器が事故で漏洩したという説がワ
シントン・ポストなどで追求されはじめた。伝染の速さ、過去
のウィルスとの違い、軍病院での調査拒否などから、自然発生
のウィルスとは考えられない、という説である[3]。その真偽
のほどは分からないが、細菌兵器のテロが起これば、現代社会
がどれほどの打撃を受けるか、我々は身を持って体験しつつあ
る。

■9.ボーダーレス時代の安全保障■

 秘密工作員、サイバー攻撃、細菌兵器テロの共通点は、国境
を自在に越えて、国内に甚大な損害を与えうることである。ま
さに情報化時代のボーダーレス現象は、海外からの脅威を通常
兵器によって水際で食い止めるという安全保障概念を無効にし
つつある。

 従来の敵軍は国境を攻めてくるので、防衛も国境を守ってい
れば良かった。しかし日本国民に化けた秘密工作員は背広姿で
成田から入国し、サイバー攻撃は海底光ケーブルを伝ってやっ
てくる。細菌兵器は観光客が気がつかないまま、海外で感染し
て国内に持ち込む。これらの攻撃に対しては、通常の武力によ
る国境警備だけでは防ぎようがない。国民一人ひとりの危機管
理が求められている。

 またこれらの攻撃は戦争と平和の境界をも無くしつつある。
どこの国からも宣戦布告されず、平和だと思っている所にいき
なり通信や金融がダウンする。それが事故なのか、個人の犯罪
なのか、敵対国家のサイバーテロなのか、分からないまま国内
は大混乱に陥る。

 国境を守る自衛隊と米軍によって平和で安全が保たれる日本
国内にいて、したり顔で反戦平和を説く。それで平和が守れる
と信じることのできた幸福な時代は過ぎ去ってしまったのであ
る。