送信者: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>
件名 : EEE会議(Re: 日本の原子力開発の進め方:豊田氏のご意見に答える)
日時 : 2003年5月3日 23:33

各位殿



日本の原子力開発の進め方につきましては、この2、3ヶ月、豊田正敏氏を中心に非
常に熱の入った議論が展開されており、小生自身も啓発されるところ大なるものがあ
ると考えております。皆様はいかがお考えでしょうか?



折りしも、今年は、アイゼンハワー大統領の「平和のための原子力」(Atoms for
Peace)提案から丸50年という節目の年。同提案に呼応してゼロからスタートした日本
の原子力にとっても、山あり谷ありの50年でしたが、この辺で立ち止まって、来し
方行く末をもう一度じっくり考え直すべき時期だろうと思います。その意味で、当
EEE会議でのご議論は大変貴重であり、さらにいろいろな角度からの突っ込んだ論争
を期待する次第です。



さて、豊田氏の累次のメールに対し、新たに「エネルギー問題に発言する会」の益田
恭尚氏より、次のようなコメントをいただきました。反論、異論を歓迎します。

金子熊夫



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豊田様が幅広い原子力問題に専門誌、或いはEEE会議上で意見を述べておられること
に、後輩の一人として常々敬意を払って見せていただいておりますが、感じました点
に付きまして、本会議の場をお借りして私なりの意見を申し述べさせていただこうと
思います。

主張しておられる問題が多岐にわたりますので、私なりに整理して、順次述べさせて
いただこうと考えております。



先ず、新型炉についてであります。本EEE会議に出ただけでも、従来からの路線であ
る“Na冷却高速増殖炉”の開発についての意見に始まり、“ガス冷却高速炉”、“中
小型モジュール高温ガス炉”、“低減速軽水炉”、“超臨界軽水炉”、“トリウム
炉”、“ガス冷却トリウム発電炉”、“トリウム熔融塩炉”等が挙げられておりま
す。それぞれ特徴がありますが、各炉のメリットだけ主張していても問題解決には繋
がらないでしょうし、読者の理解も得られません。



原子力の開発が始まった当時は、実に多くの炉型が開発され、中にはちょっとしたト
ラブルから消滅してしまったもの、核加熱炉のように臨界にも達しないうちに問題が
指摘され止めてしまったものなどもありました。夢があったとはいえ、良くあれだけ
の開発費が出たものだと今更ながら感心します。

その中で、微濃縮ウランの解禁を受け、一番使い慣れ、炉内も容易に観察できる水を
冷却材として使った軽水炉の開発が進んだのはある意味では自然であったのでしょ
う。

将来を考えた時、何時までも軽水炉だけに頼っていられない事情は理解できます。当
時から見ると技術も進歩し、原子力を取り巻く情勢も変化しています、新しい炉型に
ついてのアイデアが出るのは当然のことでありましょう。



しかし、現在の原子力は逆風の中にあり、原子力を取り巻く情勢も複雑を極めており
ます。新しい炉を新に開発するために膨大な資金を使う時期でもないでしょうし、そ
のような環境にもないでしょう。せめて、軽水炉の建設の継続と、もんじゅの再立ち
上げに向けて努力を続ける時期であると思います。



一方、このような時にこそ、近い将来、原子力を必要とする時に備え、率直な意見交
換を行い、将来開発すべき炉について整理しておくことが必要な時期ではないでしょ
うか。これは、現在の技術を継承する上からも、減少続けている原子力技術者を繋ぎ
とめ将来に備えるためにも良い方策だと考えます。

整理に当たっては、50年100年先を見通して、原子力の環境変化や、原子力に求めら
れる姿を想定する必要があることは勿論です。そして、各炉についての詳細報告の他
に、各炉型の現在までの経験、メリットだけでなく、特にデメリットと開発を要する
重点項目についてできるだけ客観的に、かつ、誰にでも分かる形で残しておくべきだ
と考えます。



検討と整理の中心はどうしたら良いかは大きな問題でありますが、原子力開発の推進
役としての原子力委員会が音頭をとり、何れかの学会などが中心になって、初心に
帰って進めるのが最も順当ではないでしょうか。今無理に開発の順序等は決めない方
が好ましいのではないかと思います。



検討に際しての技術上の考え方について、あえて意見を述べさせていただきます。技
術には予想を超えて進歩する分野と、根本的な改良・開発がなかなか進まない分野が
あります。例えば高温の冷媒の中で耐える材料、漏れないが必要な時に間違いなく開
くバルブ等はその例でしょう。気体・液体は設計者の注意と保守管理により相当程度
防ぐことはできますが、絶滅はできないと言っても過言ではないと思います。技術と
はそのような条件の中で、如何にしたら信頼性を高める設計ができるかということで
ありましょう。そのような観点に立って将来に向けての炉型を整理して頂きたいと思
います。



「エネルギー問題に発言する会」会員

 益田恭尚
 takmasudajp@ybb.ne.jp