送信者: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>
件名 : EEE会議(Re:日本の原子力開発の進め方について)
日時 : 2003年5月7日 0:28

各位殿

標記テーマに関して、中神靖雄氏(核燃料サイクル開発機構副理事長)から再び次の
ようなコメントをいただきました。ご参考まで。
金子熊夫

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平成15年5月6日


   高速炉及び核燃料サイクル実用化への取り組みについて

                             
  核燃料サイクル開発機構 中神靖雄



豊田正敏様、牧英夫様、益田恭尚様から実用化への懸念やご質問、ご意見(激励を含
め)を頂いており、現在の取り組みと課題について、ご指摘にお答えするような形で
補足したいと思います。なお経済性の数値や評価は既に公表しているものが大部分で
すが、今後の進め方には国のオーソライズを得ていない部分もあり、私個人の責任に
おいて申し述べる所のあることをご了承下さい。またテーマも広範のため、若干冗長
になることをお許し下さい。



1) 次世代原子炉及び核燃料サイクル研究開発への取り組み

実用化されるべき「競争力ある高速増殖炉及び核燃料サイクル」はどうあるべきか、
幅広い選択肢を比較評価し、有望技術については技術成立性も実証しつつ候補を絞り
込み、実用化技術体系を提示すべく、1999年から、サイクル機構及び電気事業者、研
究機関、メーカーの研究者・技術者約80名を茨城県大洗に結集し「実用化戦略調査研
究」を開始しています。

ナトリウム冷却炉だけでなく、ガス冷却炉、水冷却炉、鉛(鉛ビスマス)冷却炉等の得
失、可能性ある概念や要素技術、その成立に向けての課題等を比較評価し、また核燃
料サイクルについても、湿式/乾式の再処理技術、MOX/窒化物/金属等燃料製造技術の
国内外最新の知見で比較評価し、2000年度末にフェーズ1のFeasibility Study(F
S)結果を取りまとめ、外部評価を得ました。

フェーズ2(2001?2005年度)では、これらの候補概念について実験データも踏まえて
評価した上で、有望概念(複数)を選定することとし、本年度末に中間報告を纏める予
定です。

その後、概念設計と工学規模での実証を行う等、5年毎のチェック&レビューを経
て、2015年には「競争力ある技術体系」を提示することとしています。



2) FBRは軽水炉なみの経済性は無理か?

FBRの経済性について、フェーズ1の評価結果は次の通りです。

原子炉について:

・ 物量による評価では、ナトリウム冷却FBR、鉛冷却FBR等の主要機器物量は
軽水炉(PWR)と比べてもこれを下回る物量にできる見通しを得ています。

・ 建設単価予測比較では、ナトリウム冷却FBRは他のFBRと比べて建設単価が
最も安く、軽水炉の単価をも下回る見通しを得ています。今回の経済性評価には、電
気事業者が有している経済性評価コードを導入するなど、評価が独善的にならないよ
う努めています。 

・ ナトリウム冷却FBRの場合、新材料(12Cr鋼)の採用により熱膨張への配慮
が緩和できるので機器/配管はコンパクトになり、またループ数削減、中間熱交・ポ
ンプ一体化等大幅な合理化により、「もんじゅ」と比べて1次系配管は約1/3(ホット
レグ配管:39mが12mに)、原子炉建屋と格納容器はそれぞれ約1/10の体積(格納容器:
13万m3が1.33万m3に)に、合理化されます。

・ 現在、各概念の設計検討を進めるとともに更に魅力ある概念となるよう検
討を進めていますが、経済性に関してはフェーズ1での概略評価結果と同様あるいは
多少改善した結果を提示できるとの見通しです。

燃料サイクル:

・ これまでの評価では、従来のピューレックス法を大幅に改良した先進湿式
法或いは乾式法の採用により、燃料サイクル費は目標値(後述)を満たす見通しです。
現在、施設の規模が小さくなっても経済性が得られるような魅力ある概念とするため
の検討を実施しています。



3) 2030年実用化に向けての各段階ごとの実施スケジュール

前述実用化研究フェーズ2では、実用化に向けた具体的研究開発計画を提示する予定
ですが、大筋以下のように考えております。

・ 2030年頃の軽水炉のリプレースが行われると考えられる時期に、技術実証
されたFBRが準備されていることが重要。

・ そのためには、経済的で信頼性あるFBRプラント技術と低除染燃料サイク
ル技術(核不拡散性を高めた)を準備する必要がある。

・ 高いプラント稼働率を達成するためにはプラントの信頼性及び運転補修体
制の確立と運転経験の蓄積が重要。そのため「もんじゅ」の早期運転再開を図る。一
方低除染サイクルの達成には、燃料取り扱い技術等を含めた運転体制の確立も重要。
遅くとも2015年頃までにこれらに必要な技術を確立し、2015〜2030年の間、実プラン
ト(パイロットプラント的なもの)を用いた技術実証を進める。

・ 2015年までの進め方としては、2005年の技術選択を下に、約5〜10年をか
けて個別要素技術の実証と実プラント(パイロットプラント)の検討を実施。

フェーズ3(2006〜10):工学規模の要素技術実証とプラント概念設計

フェーズ4(2011〜15):技術体系確立と実プラント(パイロットプラント)の設計



4) 再処理・核燃料製造高度技術の実用化実施スケジュールと体制

再処理/燃料製造高度化技術についても、原子炉からの核生成物(TRU、FP)を含んだ
低除染燃料を低コストで扱えるシステムを完成させるべく、炉と同様のスケジュール
で考えています。

ちなみに米国ではAFCIと称する開発プログラムを立ち上げ、核不拡散抵抗性の高い技
術に基づく軽水炉用燃料の処理を目的としたシリーズ1研究が、2015年の実用化を
ターゲットに開始されており、シリーズ2研究として、2030年の実用化をターゲット
に、高速炉用燃料の処理を可能とする研究が開始されています。



5) 再処理費・MOX燃料加工費コスト目標値

FSでは、将来のTRU低除染燃料サイクル費の開発目標は、軽水炉のワンススルー利用
の際の燃料費と同等のリサイクル燃料費となるように約1円/kwhとしており、これを
もとに、FBR燃料の高燃焼度特性等を考慮し、燃料サイクル費目標は43万円/kgHM(再
処理費としては27万円/kgHM、燃料加工費としては16万円・kgHM)としています。

注 HM:Heavy Metal(重金属)



6) 民間活力導入の考え方と責任体制

前述のFSは、オールジャパン体制で進めており、電力等民間からも約30名が参加して
おり、今後の具体的な研究開発でも民間の力が期待されます。明確なプロジェクト計
画がなければ、メーカーを含め産業界も本気で優秀な人の新規投入や研究に投資はし
ません。現在、国の予算、電力の予算ともに厳しい環境の中で、プロジェクトを進め
ることは難しい状況ではありますが、2030年頃の実用化を可能とするべく、2015年頃
までの技術体系の確立、その後のパイロットプラントによる総合的な技術実証に向け
てナショナルプロジェクトとして、明確な方針の下、官民協力して着実に推進・実現
していくことが、民間の活力を引き出し、原子力産業を活性化させる上で重要と考え
ています。実用化の明確な方針がなく先延ばしになるようでは、これまで培ってきた
技術の継承はされず、将来他国の後塵を拝するものと懸念されます。

なお「JNCには高度な学術論文を書くには熱心だが、実用化技術開発には不向きな人
が多いように見受けられる」とのご指摘がありました。原研との統合・独立行政法人
化した後の業績評価の中で、学術論文での評価の比重がより大きくなると、ご指摘の
懸念も確かに心配として残りますが、これまでも、「ふげん」に始まり官民共同での
大型プロジェクトには多くの経験もあり、また今後実用化に向けて、要所要所には電
力やメーカーからも参加しますので、ご心配の点は払拭されるものと思っています。
但し今後のメーカーを含めた開発体制や責任体制(Single Responsibilityが好まし
い)は大いに検討されるべきと思っています。



7) FBRの温度係数について

FBRも軽水炉等と同様に温度係数は負です。仏国のSuperPhenixは出力が124万KWeの
大型炉ですが、温度係数は負になっています。従って、FBRでも軽水炉等と同様に温
度が上昇すると負の反応度フィードバックにより出力が低下し、これに伴い温度が低
下する自己制御性を有しています。

一方、冷却材密度係数については正の特性を有しており、FBRでは冷却材ナトリウム
の沸点(約880℃)よりも十分に低い温度で運転し、プラントの異常や事故が起こっても
冷却材が沸騰して正の反応度が入らないようにしています。



8) ナトリウム冷却炉以外の選択肢についての検討

前述の通り、現在幅広い選択肢から、フェーズ2では複数の有望概念を選定していく
こととしており、ナトリウム冷却炉以外の選択肢、ガス炉、水炉についての評価・課
題は次の通りです。

ガス冷却FBR:

ナトリウム冷却FBRに比べ視認性に優れるものの、燃料被覆材料の開発と事故時の炉
心冷却性が課題です。経済性については、ナトリウム冷却FBRに比してやや高い見通
しになっています。また燃料サイクル技術に関しては、再処理の前処理としての燃料
被覆材の除去等に課題があります。

水冷却FBR:

TRU低除染燃料の場合には、1.0以上の増殖比を維持することは難しくなります。ま
た、プルトニウムの含有率増大を要するため、それに対応した炉心損傷時の安全性確
保方策の検討が必要と考えられます。また、低減速スペクトル炉概念では、稠密炉心
の機械的/熱的成立性、被覆管材料の開発、超臨界圧炉では、耐腐食性のある被覆管
材料の開発がそれぞれ課題です。

今後は、国際協力を最大限活用して、限られた経営資源の中で、効率的に研究開発を
進める方策を考えつつ、実用化戦略研究を進めて参ります。



9) 原研との統合を視野に入れた今後の研究開発

原研は高温ガス炉を使っての研究、低減速スペクトル炉の研究の他、FBRや再処理
・核分離変換・核燃料製造についても、基礎研究を行ってきており、統合により相乗
効果を発揮できる分野が多いと考えています。低減速スペクトル炉等については、よ
り広い視野での実用化戦略/次世代原子力システム検討の土俵で議論されていくこと
になると思われます。


以上