各位殿

 
バグダッドが陥落しイラク戦争が事実上終結してから早くも1ヶ月。米英を中心とする戦後復興作業も徐々に進行しているようですが、一方でイラクの石油問題を巡る米英対仏露の確執は相変わらず水面下で続いている模様です。複雑に絡み合う各国の利害関係を手っ取り早く理解する上で、次の分析は有益と思われますので、ご参考まで。
金子熊夫
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    ◆イラク占領を盾に米英が新決議案提示◆
                                                  (2003/05/10)

 国連による従来からの対イラク人道支援計画「石油・食糧交換プログラム」
が期限切れとなる6月3日を前に米国は5月9日、英国、スペインと共同で、
1)対イラク経済制裁解除2)イラク石油事業の円滑な復興を目指す支援基金
創設―などを基軸とする新決議案を正式に提示した。

 同日開催された国連安保理非公式協議で示されたもので、米英はイラク戦争
後の戦後統治を少なくとも1年間は継続する必要があると指摘。旧フセイン・
イラク政権の独裁継続に利用されていた「石油・食糧交換プログラム」に代え
て、実質的に米英が管理する支援基金で、石油売却益を復興の財源に充てる腹
づもり。

 イラクの石油事業については、戦争前はフランスとロシアが「石油・食糧交
換プログラム」に基づき、フセイン政権との大口契約国となっていた。フラン
スは主に確認埋蔵量100億―300億バレルと推測されるマジュヌーン地区
で事業契約を推進。ちなみにロシアが事業契約を結んでいた西クルナの確認埋
蔵量は180億バレル前後。

 1995年4月14日、国連安保理において、第1次湾岸戦争に伴う経済制
裁を一部解除し、人道目的の食料輸入目的に限ってイラク産石油の輸出を認め
る安保理決議986号が採択。「石油と食糧プログラム」がそれである。狡猾
なフセイン・イラク政権が取った戦術は一つ。石油を売却する相手を巧妙に選
択するというものだった。

 当然、ロシア、フランスの石油企業が真っ先に選ばれる。イラクの石油はガ
ソリンなどに精製がしやすい軽質油。決議986号は、石油価格を市場価格よ
りも低く設定してあるが、第3国経由となると値段は当然高くなる。が、少々
高くても、質がいいため世界中から引き合いがくる。そしてその最大の顧客が
米国だった。ロシアの場合、その6割が米国向けに輸出されているとされてい
た。

 いずれにしても、新決議案に対しては、仏ロが相当激しく抵抗するとみられ
ているが、実際のところイラクは米英の占領下にあり、抵抗したところで米英
に押し切られるのは確実。仏ロとも、「名を取るより実を取る」ことに努力を
傾注する公算が大きい。(了)

    国際情報ファイル・深層海流主幹 石川純一(文責)
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