Subject: EEE会議(Re:軍事評論家諸氏に物申す!)
Date: Sun, 11 May 2003 12:51:10 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位殿

北朝鮮の核開発能力が現時点で実際にどの程度のものなのか、依然としてはっきりせ
ず、一方で既に10発前後の核弾頭を持っているという見方(米国CIA長官ら)、他
方で吉田康彦氏のような否定的な見方もあるわけです。イラクにしても、BC兵器のほ
かに核兵器も実際に持っていたのかどうか未だに判然としません。

ただ、核問題の難しいところは、実際に持っていなくても持っている振りをすること
によって一定の戦略的効果を挙げ得るということで、北朝鮮はまさにそのケースかも
しれませんが、例えば日本の場合でも、非核を国是としながらも、いざとなったらい
つでも核武装できるのだぞというスタイルを取ることに意味があるという意見(中曽
根元首相など)もあります。国民の相当数がそういう気持ちを持っている(だから再
処理・プルトニウムもウラン濃縮も止めるべきでない)という意見もあり、最近で
は、非核三原則自体を廃棄すべしと公言する国際政治学者や外交評論家もかなり出て
来ております。

ところで、一口に核兵器といっても爆発力や命中精度の高くないものもあるわけで、
いわゆる粗製核爆弾も使い方によってはそれなりの効果があり得ます。例えば、9.
11以後米国でとくに問題視されているのは、ご承知のように、いわゆる「汚い爆
弾」(dirty bombs)で、これは放射性物質を通常火薬爆弾と一緒にばら撒くだけです
から、簡単にできるし、材料も病院や工場から比較的容易に窃取できます(とくに途
上国では管理が不十分な所が多い)。北朝鮮がその気になれば、38度線の向こうか
ら、このような粗製核爆弾や「汚い爆弾」を大砲で打ち込むこともできると見られて
います。ソウルまでわずか数十キロですから、それで十分戦略的効果があるかもしれ
ません。そのような爆弾を積んだノドンミサイルが日本に飛んできたら・・・という
懸念も皆無ではありますまい。

こうなってくると、核拡散防止といっても、なかなか防止しきれるものではなく、米
国の専門家の間では、諦めムードすらあるように思います(先日のリバーモア会議で
も然り)。最近ブッシュ政権が、北朝鮮の核開発は「既成事実」としてあえて黙認
し、今後はそれが第3国(ごろつき国家やテロ集団)に輸出されないようにすること
に政策の重点を移しつつあるのはそのためでしょう(5月6日09:31のメールご参
照)。

さて、技術専門家でない小生は大体以上のように考えているのですが、このような考
え方について、是非とも「中性子」先生やその他の技術専門家の方々のご批判やご教
示をいただければ幸いです。匿名でもOKです。
金子熊夫

----- Original Message -----
From: kkaneko
Sent: Friday, May 09, 2003 2:53 PM
Subject: EEE会議(軍事評論家諸氏に物申す!)


各位殿

近時、北朝鮮の核開発問題とか、日本自身の核開発疑惑あるいは核武装論など、か
なりきな臭い話題が内外のマスコミを賑わしており、当EEE会議でも盛んに議論され
ております。かく申す小生自身も「外交評論家」と称して、この問題でしばしば際ど
い発言をしておりますが、もとより技術的素養を欠く者として、常に内心忸怩、隔靴
掻痒の感がありました。しかるところ、偶々ある高名な原子力の専門家から、次のよ
うな適切かつ厳しいご意見をいただきました。お立場上実名は伏せ、ハンドルネーム
「中性子」氏ということで、全文ご披露します。ご参考まで。
金子熊夫
****************************************

最近の「北鮮の核武装」関係のいろいろなニュースや解説を眺めていて、気にな

ことがありますので、金子さんのご注意を喚起しておきたい思います。

 最近の議論では、技術的な背景があいまいで、マスコミもしくは軍事評論家と呼

れる人達の論議では核兵器というものの定義や種類、範囲が明確でないものが多
い。
いわゆる、わかったような一般論が横行していていて、ひょっとしたら意識的に相

や一般大衆が誤解することを狙っているのではないかとさえ思えるものが多いこと

す。傾向としてはどうみても北の技術能力を過大評価しているとしか思えないこと

多いのです。

 臨界安全や安全解析のかなり高度の原子核工学の知識や経験をもっている技術者

あれば、そうした議論の怪しさとか誤解はすぐに見抜けるはずですが、それを具体

に説明して一般の方の誤解を解くためにに説明することで生じる、余計な雑音や別

誤解を考えると口を閉ざすほうが楽だとなって、皆さん黙っておられるようです。

門家同士では,何かの機会にこの種の話題がでて、なんとなくお互いの認識が共通

ていることを確かめあって安心するという場面には,何回か遭遇しましたが、いわ

る暗号や符牒を使った話であり、多分一般の方に通じていないはずです。JCO事

での処理を眺めて、日本の現場管理のずさんさにあきれる一方で、事態の推移を眺

つつパニックも起こさず、淡々と臨界解除の作業をやった技術能力への評価は、日

国内ではさほどではないけれど、国外ではかなり違うようです。国内ではわれわれ

ような専門家が核兵器のことをこっそり議論したとなれば、それこそマスコミのい

餌食になるので,知らん振りをしてはいますが。

 私としては、マスコミをふくみ政治家や評論家の皆さんが、この辺どこまでわ
かっ
ておられる気になるわけです。どうすれば良い対応ができるのか、うまい案が見つ

りませんが、いわゆる軍事通とか情報通の話には意図的なウソが見抜かれないで
残っ
ている可能性がかなりありますから、国として決定的な判断をする必要があるとき

、ちゃんとした複数の本当の専門家の判断を求めなさいといっておくべきでしょう
ね。

     「中性子」