Subject: EEE会議(Re:日本の原子力開発の進め方: 高温ガス炉問題)
Date: Mon, 12 May 2003 08:56:28 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位殿

先日来、高温ガス炉問題に関し、豊田正敏氏、「ピノチオ」氏(某有名研究所部
長)、益田恭尚氏(エネルギー問題に発言する会)等から色々なご意見をいただきま
したが、これに対し、西郷正雄氏(日本原子力産業会議)から次のようなメールをい
ただきました。ご参考まで。
金子熊夫
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原産で、「原子炉熱利用に関する将来展開検討会」(高温ガス炉に絞った検討
をしています)の事務局をしている西郷より、意見を入れさせていただきます。

ゴールデンウイークの前にEEE会議で配信頂いた豊田様の高温ガス炉へのご質問に
対して、「ピノチオ」氏のコメントは正しいものと思います。

前記「原子炉熱利用に関する将来展開検討会」での原産の事務局をしている立場
から得ました高温ガス炉に関する私の知識について、以下に記載しますので、
間違いがありましたら、コメントをお願いします。


原子力になじみの無い分野で、まだ化石燃料が安い状況の時には、
最近話題になっている環境問題を念頭に入れなければ、年1回の定期検査を
行わなければならないなど厳しい規制(取扱い辛い)を受けている原子力設備を
今まで取扱っていない熱利用企業では、利用しないと思います。
相当のメリットが無ければ、原子炉熱利用への移行は難しいものと思います。

そのために、日本においては、高温ガス炉は、そっぽを向かれましたが、
ただ、水素製造を目的に開発することで、(発電を目的にしないことで)
何とか原研のHTTRは認められたと伺っています。
[以前(5年ほど前)、吉田邦夫東大名誉教授より聞きました]

海外、特に独国では、大型の蒸気タービンの高温ガス炉は、コスト的に軽水炉
に勝てないと考えて、安くて且つ、受動的安全性を備えた高温ガス炉
の開発を進めていたと伺っています。特に、チェルノビルの事故以降は、
安全について従来の動的安全性の考え方から受動的安全性の考え方を
取り入れて、住民に受け入れやすいであろうと考えられる原子炉の開発に目を
向けることになったと聞いております。

また、ガスタービンが、火力等で開発されているのもあって、蒸気タービン
からガスタービンに切り替えた検討が行われました。それは、システムが
相当簡単化できるためにコスト削減に繋がることになります。(中間熱交換器
も不要になりますので、2次系ループは不要になり大幅に簡素化されます)

受動的安全性を取り入れますとシステムが、中小型化されますので、
モジュール化、標準化することで、設計費の削減、製作過程でも現地でなく
工場で多くのところを製作できるメリットも引き出すことが出きるように
なります。(現地工程の短縮)

さらに、固有の安全性に基づく安全機器の削減、可能な範囲で原子力機器でなく
一般機器の適用などにより、コスト削減に努めています。 

従来の大型志向のスケールメリットについては、受動的安全性を確保できる
レベルで行うこととして、システムの簡素化が可能な取組みにしています。

その他、運転、保守については、原子炉の動特性が、緩慢であるために
取扱いが楽であることと、システムの簡素化による保守のやり易さが
コスト削減に繋がってきています。(事故時についても、熱容量の大きい
黒鉛により、温度挙動も緩慢になり、さらに受動的安全性をもっているために
対応がやり易い)

ドイツ自国では原子力発電が、段階的取りやめになりましたので、彼らは
その技術を持って、南アに乗り込んだと伺っています。その原子炉がPBMR
と呼ばれているものです。
(仁丹粒程度の大きさの被覆燃料粒子をテニスボール程度の大きさに
  黒鉛で丸めたペブルベッド燃料を使用)

一方その間に、米国のGAでも中小型モジュール高温ガス炉として、
GT−MHRの開発を進めており、ロシアの解体プルトニウムの燃焼用として
米(GA)/ロ/仏(フラマトム)/日(富士電機)の4国で検討されている
と伺っております。(燃料は、仁丹粒程度の大きさの被覆燃料粒子を黒鉛で
柱状(ブロック)にしたものでHTTRと同様のタイプです)
現在、ロシアの解体プルトニウムの燃焼用には、既存の高速炉を用いるように
伺っています。

従いまして、現在海外で開発されている高温ガス炉は、直ぐにでも
実用化することを狙った発電用であって、
将来向けとして水素製造用などの熱利用があると考えた方が良いと思います。

日本の場合、このような革新炉については、開発の意義があるとは言って
いますが、軽水炉−高速炉路線の中で、どのように位置付けるのか?

最近の電力自由化のもと、初期投資の小さいものとして、中小型炉
が見なおされて、大型の軽水炉の導入が厳しいがために、取り入れるといった
発想なのか、火力の代替として、環境に優しい原子力発電として、規模的に
また、需要地近接に向いているものとして考えるのか、あるいは、将来アジア
等の途上国向けに中小型炉が適しているから取組むのか、核不拡散に適した炉の
開発を考えるのか、それともこれらに対して全て満足できるものとして、
革新炉を開発するのか、早く意思決定をしてもらいたいものと思います。

原子炉の開発には、「もんじゅ」に見られますように、ちょっとしたトラブル
で、5年以上も時間を費やしてしまいますので、今、最も真近にある高温ガス炉
は、多くの魅力も持っていますので、革新炉の最有力候補として考えては良い
のではないかと思いますが、如何でしょうか。

皆さん(特に革新炉にご関心の方々)のご意見を御聞かせ下さい。

西郷正雄
日本原子力産業会議