送信者: "Kumao KANEKO" <kkaneko@eeecom.jp>
件名 : EEE会議(Re:日本の原子力開発の進め方:FBR問題等)
日時 : 2003年5月20日 20:01

各位殿

標記テーマに関し、これまでEEE会議での議論を大いに刺激し、精力的にリードされ
ている豊田正敏氏から、更なる問題提起を期して、次のようなメールが寄せられまし
た。皆様方からの積極的なリスポンスを期待しております。
金子熊夫

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次世代原子炉型式(高温ガス炉及び低減速軽水炉)やその技術開発の進め方について多
くの方から傾聴すべきコ
メントないし意見をお伺い出来て非常に参考になりました。さらに、超臨界軽水炉や
トリウム発電炉などの有
望と考えられる原子炉型式についても、これらを手がけておられる方からのご意見や
技術開発の進め方につ
いての追加のご意見ないしご提案をお聞かせ下さるよう御願いします。その上で私か
らもコメントないし問題
提起をしたいと考えております。

今回は5月7日付の中神氏のコメントに対して、次のような意見を述べさせていただき
ます。

1.次世代原子炉への取り組み
わが国では、高速増殖炉が実用化されればウラン資源が60~70倍有効利用されるとの
期待から、高速増殖炉、
プルトニウムリサイクルを原子力政策の基本に位置付け、増殖比の観点からナトリウ
ム冷却型の高速増殖炉を
本命として、その技術開発を進めてきているので、何故今になって他の形式について
も検討対象に加えるよう
な回り道をする必要があるのか理解出来ません。問題はJNCの技術開発のスピードが
あまりにも遅く、
2040~2050年になっても実用化できるかどうか不透明なことです。JNCとしては、高速
増殖炉と高度再処理技術
の実用化に向けた技術開発に集中して取り組み、もっと技術開発のスピードを上げ、
経済性のある実用化が計
画どおりできるように全力をあげて取り組むべきであると考えます。

高速増殖炉の実用化が何時出来るのか不透明でありその見通しが暗いため、これに代
わる次世代原子炉型式と
して、高速増殖炉に限定せず、有望と考えられるものについて、その実現可能性を検
討する必要があると考え
ますが、これについてはJNC以外の別の機関または審議会で厳正中立の立場から、検
討すべきであると考えま
す。これについては別の機会にコメントすることを考えております。

2. FBRの経済性
 「FBRの建設費が軽水炉並になる」との推定には、現段階では納得出来ません。
A-BWRと比較した系統システ
ム及び寸法の入ったプラントレイアウトを示した上で、物量比較をし、新しく選択し
た材料の価格や機器、装
置の成型加工費をA-BWRのそれと比較して示したものを例えばサイクル機構技報に公
表されてはどうでしょう
か。私の経験では、新しいプラントの場合、詳細設計になるに従って、建設費が高く
なり、当初の推定値の
1.5~2倍になることは珍しくなく、このことはATRの例でも明らかであります。
 2015年(フェーズ4)までに実プラントの設計に基づき原子炉メーカーより競争入札
により、建設費の見積価
格の提示を求め、その結果、軽水炉並みの価格にならなければ、直ちに中断すべきで
あると考えます。

3. 実施スケジュール
 私は、各段階ごとの確信の持てる詳細なスケジュールをお聞きしております。例え
ば、要素技術開発では、
各要素ごとにどのくらいの期間に安全性、信頼性の確認が出来るか、見積価格徴収後
の見積審査及びメーカー
選定、詳細設計、立地選定、地元了解、安全審査、建設据付、試運転、運転開始後の
実証期間等を示して欲し
い。軽水炉でさえ、新設プラントの場合、計画から運転開始まで少なくとも20年か
かっていると言う事実を考
慮されたい。
また、新しいプラントの場合、運転開始後数年間はトラブルが多発し、その際、今回
の「もんじゅ」のように
長期間停止することもあり得ることを考慮すべきであります。
 また、私は、「もんじゅ」に続き、実用化までに実証炉、実用炉(パイロットプラ
ント)の2段階が必要と考
えておりますが、実プラントのみでよいと考えられた理由をお聞きしたい。それで電
力会社が高速増殖炉の商
業プラントに踏みきれるとお考えでしょうか。
何れにしても、2030年頃の軽水炉のリプレース時期に間に合わせると言うのは夢物語
であると言わざるを得ま
せん。

4&5. 再処理、核燃料製造高度技術
わが国の場合、高度再処理技術として、どの方式を何時までに選定するのか、実用化
のための実施体制及び実
施スケジュールの詳細をお聞きしているのであって、米国の例を聞いているのではあ
りません。再処理の経験
が不十分な米国で、2030年までに高度再処理技術が実用化出来るとは到底考えられま
せん。
高速増殖炉を立ち上げる際には、初装荷燃料として大量のプルトニウムが必要であ
り、そのためには、軽水炉
の使用済燃料の再処理によって回収されるプルトニウムを充当する必要がありますの
で、先ず、軽水炉使用済
燃料の再処理費の大幅な低減が必要になりますが、その目標コストターゲットと実現
の見通しについて、実施
体制と実施スケジュールを示して欲しい。
また、プルサーマルが経済的になるためには、MOX燃料の成型加工費のコストダウン
が必要でありますが、そ
の目標ターゲット、実施主体及び実施スケジュールをお聞きしたい。もし、JNCで実
施するのに時間がかかり
すぎるのであれば、選択と集中の観点から、民間の燃料成型加工会社に国が実用化の
ための技術開発を委託す
ることについて検討すべきであると考えます。

6. 民間活力の導入
貴説のように、電力、メーカーなどの民間の活力を十分活用することが必要でありま
すが、電力会社は電力自
由化により、また、メーカーは経営状態の現状から判断して、40~50年後に実用化で
きるかどうか不透明なプ
ロジェクトの技術開発に積極的に協力することは期待できないのではないかと考えま
す。従って、民間の活力
を引き出すためには、委託費など国による資金的援助が必要であります。

「もんじゅ」の設計、建設に当たって、原子炉メーカー4社(富士電機を含む)よりな
る高速炉エンジニアリン
グ会社が設立され、プラント設計を含む詳細設計、機器、装置の発注、製作段階の品
質保証を請け負うことを
期待していたが、いざ、「もんじゅ」の受注になると3社が自社の利益確保のため、
それぞれ受注することを
主張し、分割発注せざるを得なくなった。この点、BWR及びPWRの技術開発にGE社及び
WH社が社運を賭して、実
用化に漕ぎつけたのと比較して、わが国のメーカーの取り組み姿勢に問題があると考
えられます。しかし、
メーカーの厳しい経営状態の現状を考えると、積極的な協力は難しいのではないかと
考えられますが、これに
対してどのような対策を考えておられるのかお伺いしたい。

また、貴説のとおり、国が明確な方針を示し、その方針の下に計画どおり着実に推進
する必要がありますが、
現状のように明確な実施スケジュールもなく、ただ漫然と「柔軟に」進めているので
は実用化は期待できない
のではないでしょうか。
JNCの技術開発のスピードが、多くの優秀な人材がいるにも拘わらず、あまりにも遅
すぎる理由は、原子力行
政、官僚への予算の説明や専門部会資料の作成や説明にキーメンバーが時間を取られ
すぎていること、卓越し
た指導者に欠けること、研究指向が強すぎることなど多くの問題があると考えられま
すが、私から指摘するま
でもなく、内部からもっと積極的な改善策が出てくるべきであり、それらを経営層が
実施に移すようもっと努
力すべきであると考えます。何れにしても現状に対してあまりにも楽観的な見通し
持っておられることを憂慮
しており、敢えて苦言を呈する次第です。

7. FBRの温度係数
 「高速増殖炉は、軽水炉に比べてエネルギーの高い中性子を利用しているため、大
型炉心では冷却材のナト
リウムのボイド反応度が炉心中央部において正となるので、炉心がボイド化すると正
の反応度が加わる。従っ
て、炉心流量減少事故の場合、炉停止系の不動作または動作の遅れが重なると炉心損
傷の可能性がある。従っ
て、現実的な範囲でナトリウムボイド反応度を抑制する設計を採用する必要がある。
このためには、ナトリウ
ムボイド反応度を低く(例えば5$以下)抑えるように炉心設計を行うとともに、ガス巻
き込み防止対策を取るこ
ととしている」というのが私の理解であって、設計によって安全の確保を図っている
と言うべきであると考え
ます。また、冷却材、減速材が負の反応度温度係数を有する軽水炉のように自己制御
性を有していると言うの
は問題であると考えます。なお、フェニックス原子炉における反応度事故について、
その後原因がはっきりし
てきているのであれば、説明していただきたい。

私は、東海1号炉の場合に、自己制御性があるとは決して言わず、「燃料の負の温度
係数によって当初の出力
上昇は抑えられるが、その後、原子炉停止系が万一不動作の場合には、黒鉛の温度が
上昇し、その反応度温度
係数が正のため、出力が上昇する可能性があるが、黒鉛の熱容量が大きいので運転員
が停止系を手動で操作し
て原子炉を停止する時間的余裕は十分あり、安全は確保出来る」と説明して一般国民
及び批判派の学者の理解
を得た記憶があります。

何れにしても、ごまかしとは言えないまでもごまかしに近い説明をするのでなく、技
術的に正確で、かつ一般
国民にも判りやすく安心して貰えるような説明をして理解を得るよう努めるべきであ
ると考えます。もし、そ
れが難しい場合には、20~30万kW級の高速増殖炉を採用することによって、ボイド反
応度を負または小さくす
ることによって安全を確保するとともに、系統の単純化と量産化による建設費の低減
を図ることについて検討
すべきであると考えます。

8.ナトリウム冷却炉以外の選択肢
私も増殖比の観点からナトリウム冷却型の高速増殖炉を本命と考えているし、JNCが
中心になって検討したの
では結論は明らかであるので、無駄な回り道をする必要はなく、ナトリウム冷却型高
速増殖炉の実用化のため
の技術開発に全力で取り組み、一刻も早く実用化されるよう期待しております。それ
が期待通り進みそうにな
いのが問題ですが・・・・

9. 原研との統合
当面最も緊急を要する課題は、高速増殖炉と高度再処理技術(高速増殖炉だけでなく
軽水炉の使用済燃料の再
処理も含む)の実用化であり、そのために集中的に取り組むべきでありますが、その
観点からは明らかにマイ
ナスであると考えます。基礎研究に偏ることなく、実用化に専念できる方策について
真剣に検討すべであると
考えます。以上

豊田正敏
toyota@pine.zero.ad.jp