送信者: "Kumao KANEKO" <kkaneko@eeecom.jp>
件名 : EEE会議(Re:日本核武装論など)
日時 : 2003年5月22日 22:03

各位殿

北朝鮮核問題に連動して、米国で最近日本核武装論が浮上していることは既に当EE
E会議で度々お伝えしているとおりです。また、この問題で日本の一部の政治家や軍
事専門家が無責任な言動を繰り返していることに対する厳しい批判も当会議で表明さ
れています。この関連で、神田啓治氏(武蔵広大教授、京大名誉教授)の次のご意見
は示唆に富むものと思います。なお、この情報は、澤田哲生氏(東工大。同大学術
フォーラム主宰者)から提供していただいたものです。ご参考まで。
KK
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4月18日に東京工業大学にて第7回学術フォーラム「多価値化の世紀と原子力」を
開催し、京大名誉教授の神田啓治氏にご講演いただきました。演題は「日本のエネル
ギー安全保障と核武装の現実・効力」でした。講演録はいずれ作るかも知れませんが
いつのことになるやら知れませんので、EEEに関連がありそうなポイントをいくつ
か挙げておきます。(尚、当日のメモと記憶に頼って書き下しましたので、必ずしも
精確でない点が含まれている可能性があることはお含みおきください。)


1)北朝鮮が現実に核武装した際に、米国は日米安保を発動すべきかどうかが昨年末
ごろ上院で議論になったが、結果は‘発動すべきでない’との意見が主流であった。
理由は:日本は既に核武装しているはずだからその必要がない。
上院の半数以上が既に55才以下で、彼らのセンスからすれば、日本のような国が核
武装していないはずがないという。同様に‘米国が広島・長崎に原爆を落とした’と
いう歴史的事実さえも殆ど認識されていないとか。このような事態に長老議員などが
焦って巻き返しをはかり、その後大分このような認識・趨勢は改善され、最近では議
会の認識(安保発動)は逆転しているという話でした。

2)フランスが最後に行った核実験シリーズの4番目以降は、原子炉級Puの起爆性に
関するものだった。
240Puの同位体比を徐々に上げていって、240Puの同位体比と起爆性能との関係を(外
挿性的に)導出しようと試みた。最後の7番目のケースでは 240Puの同位体比を20

以上に上げてその起爆性を否定する目論見だったようですが、諸外国特に日本からの
強い反対圧力に押されて、この最も重要な7番目のケースは実施されなかった。
他の実験結果を外挿すれば、240Puの同位体比が約22%以上になれば、まともな起
爆はしないであろう。

3)最近の高性能Pu爆弾の最小臨界質量に関しては、IAEAが言う8kgよりも少
なく出来る可能性があるが、それでも6kg位がいいところではないか。2kgとい
うのはちょっと聞かない。

4)米国議会が2月13日に予算を付けたAFCI(Advanced Fuel Cycle
Initiative)は、有り体に言えば高温化学法(pyrochemical process)開発研究支援
予算であり、この動きの余波はまもなく日本にも現れる。つまり、日本でもAFCI
に連動する研究開発の動きがぼちぼち現れてくるはず。
これに関連して‘もんじゅの再開には核不拡散上特に問題を見ないが・・・’などと
(米国関係者が)いっていたが、下北(ピューレックス)の将来はどうかなあとの
ニュ
アンスがある、すなわちピューレックス法は核兵器製造のために開発された技術であ
り、‘核不拡散の立場からはパイロプロセシング(乾式再処理)の方がよい’云々。

5)仮に日本が独自に核武装したときの、日本の原子力平和利用への影響は?
濃縮ウランが調達できなくなるだろう。

以上のうち、1)、2)、4)は神田先生が直接当事者からお聞きになった話という
ことです。

また、講演の前段の日本のエネルギー安全保障の歴史と意義については、「エネル
ギー
政策研究」誌第1号に、 入江 一友氏(経済産業省原子力安全・保安院、放射性廃
棄物規制課)による非常に明解で意義深い分析が論文になっておりますのでご参照さ
れることをお奨めいたします。


余談ですが、2)の実験責任者はレジオンドヌール勲章を授与されたそうです。ま
た、
4)のAFCIが議会に認められたことは、2月14日に当事者が、米国から直々に
日帰りで日本の関係筋(神田先生を含む)に伝えにきたとのこと。
    

以上、文責・澤田哲生(東工大)