送信者: "Kumao KANEKO" <kkaneko@eeecom.jp>
件名 : EEE会議(Re:北朝鮮の核開発の現状)
日時 : 2003年5月29日 13:59

各位殿

標記テーマに関するの藤井晴雄氏(元海外電力調査会)からのメールです。ご参考ま
で。

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                       2003年5月27日
                         藤井晴雄


メールでお教え頂いた、中央公論社が最近発行した「北朝鮮II 核の秘密都市寧辺を

く」Dr. C.Kenneth Quinones著(2003年5月10日発行)を早速購入し、また「北朝
鮮、米
国国務省担当官の交渉秘録」(2000年11月20日発行)も読み直し、これらの本に書い
てあ
る寧辺原子力研究施設の技術的事項をまとめましたので、概要および使用した文章
(掲載
頁を記入)をお送りしますので、ご活用下さい。(多少転記間違いがあるかも知れま
せん
がご容赦下さい)
                         
 <寧辺の5MW原子炉および使用済燃料貯蔵施設の概要>

寧辺5MWの原子炉の概要

建設開始:1979年(原産原子力年鑑2003,p309)
運転開始:1986年1月
運転停止:1989年春(再処理するために使用済燃料棒約8000体を取り出し)
電気出力   :5MWe
燃料装荷量  :50トン
燃料棒 長さ:長さ1m(藤井注:長さ50cmのウラン棒2本から構成)
    直径:約3cm (藤井注:信頼出来る別資料による)
燃料棒被覆管材料:マグネシウム・ジルコニウム合金
(藤井注:p.190にはマグネシウム・ジルコニウム合金およびマグノックスと記載し
てあ
るが、信頼できる別資料によるとマグネシウム・ジルコニウム合金で、ジルコニウム
の含
有量は約0.55%である)
減速材の黒鉛:600トン
燃料温度  :最高温度440度C、平均温度420度C
原子炉防護壁のコンクリートの厚さ:3m
原子炉上部のコンクリートの厚さ :3.5m
原子炉建屋のルーフ・クレーン容量:30トン
燃料取替機の大きさ:高さ15m
原子炉制御室の機器:すべて日本の「ホクシン」
 (藤井注:北辰電機と思ってほぼ間違いない)

原子炉からの燃料棒取出し
 原子炉上部に移動した燃料取替機で原子炉内の燃料棒を取り出し、鉛で遮蔽されて
垂直
の通路を経由して床下に入り、地下の「バスケット」に収納る。
 厚い鉛の大きな容器の中に入っているバスケットは、鉛の台車に乗せられ、地下の
トン
ネルを通って原子炉の建物の西側100mにある使用済核燃料貯蔵施設まで牽引される。

使用済燃料貯蔵施設(平屋建)
 位置:原子炉建屋から西に100m
 高さ:20m
 形状:L字型
 燃料貯蔵プール:長さ120m、幅60m、水深15m
         プールは中央で2つに仕切られている。
 乾式貯蔵施設 :破損した燃料棒はキャニスターに入れて乾式保管

使用済燃料貯蔵施設から再処理工場までの運搬
 ブリッジ・クレーンが、核燃料棒の入ったバスケットを一つずつプール内の東端に
ある
小型のコンクリート製台座の上に移す。頭上式クレーンがバスケットを持ち上げて
プール
から出し、鉛で遮蔽された移動用容器の中に置く。
 赤く塗られた平らな荷台の中型トラックが、貯蔵施設内まで入り、貯蔵プールに横
付け
する。
 頭上式クレーンが核燃料棒の入ったバスケットを持ち上げ、トラックの荷台に降ろ
す。
 核燃料棒は、使用済核燃料貯蔵施設の北西1kmほどにある再処理工場まで運搬す
る。

再処理工場
 位置:使用済燃料貯蔵施設の西1km


「北朝鮮 II」に掲載されている写真

p.61 :上から見た使用済燃料貯蔵プール(1994年11月撮影)
p.119:寧辺原子力研究センターの招待所全景(1995年1月撮影)
p.141:バスケットに入れた使用済核燃料棒(1995年5月撮影)
p.207:使用済核燃料の貯蔵用キャニスター(1997年1月撮影)
p.222:使用済核燃料貯蔵施設の裏側に設置されたジーゼル発電機小屋(1995年6月)
p.233:水冷却装置の据え付(1995年6月)
p.237:使用済燃料貯蔵施設、水純化システム建屋と発電機小屋(1996年2月)
p.309:水純化システムの据え付け作業終了間近(1995年9月撮影)
p.343:キャニスター貯蔵用ラックを使用済燃料貯蔵プールに据える(1996年2月)
p.347:使用済燃料貯蔵プールにスラッジ(へどろ)を吸い込むバキューム・システ
ムを
沈めている(1995年10月撮影)
p.418:5MW原子炉建屋とトラックで到着したばかりの梱包(1996年2月撮影)


「北朝鮮 II」に掲載されている図面

p.132:寧辺原子力センターの平面図
p.133:5MW原子炉の関連地図
p.270:図1 使用済核燃料貯蔵施設の平面図
p.271:図2 使用済核燃料彫像プール
p.272:図3 使用済核燃料貯蔵プールの平面図
p.273:図4 使用済核燃料収納キャニスター垂直断面図
   および使用済核燃料棒垂直断面図(長さ1m)
(藤井注:信頼出来る別資料には、使用済核燃料棒に描かれている横の線は、フィン
を示
している)
p.274:図5 貯蔵プールに安置されたキャニスターの状況(貯蔵ラックに収納し、
IAEAが
封印した後の写真)


使用した文章と掲載頁

1.「北朝鮮、米国国務省担当官の交渉秘録」2000年11月20日に掲載されていた5MW
原子
炉の技術データ

p.380
5MW級原子炉
・5MW原子炉は1986年5月に運転を開始した。600トンの黒鉛を収納し、50トンのウラ
ン燃
料を入れることが可能だった。
・燃料の最高温度は440度Cで、平均温度は420度Cだった。
・原子炉の防護壁は側面が厚さ3mのコンクリートで、上部のコンクリートは厚さが
3.5m
だった。
・原子炉の燃料系統は、それぞれ燃料棒を10本収納することが可能だった。
・燃料供給のためには、原子炉の頭上に架装された30トンのルーフ・クレーンを使用
しな
ければならない。


2.「北朝鮮II 核の秘密都市寧辺を往く」2003年5月10日発行に掲載されていた5MW
原子
炉および核燃料貯蔵施設の技術的データ、写真、図

p.56
長さ1mの核燃料棒はウラニウムを一杯に詰めたマグネシウム(マグネシウム合金の

と)管だ。水中に貯蔵すればマグネシウムはゆっくりと溶解し、最後にはウラニウム
を水
中に放出する。
(藤井注:ウラン燃料棒は充填型(中空型ではない)を意味している。「北朝鮮
II」
p.190に燃料被覆管はマグネシウム合金、またマグノックスと記載してあるが、信頼
出来
る別資料によると、核燃料被覆管はマグネシウム・ジルコニニウム合金(ジルコニウ
ムの
含有率は約0.55%)である)
p.58
 5MW級原子炉について
・この原子炉は50トンのウラニウム燃料棒を入れることが可能。
・遮蔽壁の厚さは3.5mのコンクリート壁
・制御室の機器は単純で技術的に高度でなかった。すべての機器は日本の「ホクシ
ン」社
製だった。(藤井注:「北辰電機」と思われる)
P.59
・制御室建屋から真西に100mほど歩き、L字型の平屋の建物である使用済燃料の貯蔵
施設
の前に立った。建物の内部は天井が2階建ての高さで、サッカー場より少し狭い位の
広大
な部屋があった。右手には乾式貯蔵所があり、正面には燃料貯蔵プールがあった。水
の色
はエラメルド・グリーンで藻が生えていた。
p.78
・水を濾過して視界を良好にしなければ、1mほどの使用済燃料棒を探すことは出来な
い。
p.79
・使用済燃料プールから泡が出ていることは、水がウランと接触し、化学反応が起こ
り、
高度の放射能に汚染された水素ガスが水中に放出される。このガスがプール内の泡の
正体
なのだ。
p.132
・寧辺原子力センターの平面図
p.133
5MW原子炉の関連地図
p.134
・使用済燃料貯蔵施設はL字型の建物で、長さ120m、幅60mのサッカー場の大きさの
部屋
で、外壁は2階建て(20m)で、壁の高い位置にある汚れた窓から薄明かりが差し込ん
でい
た。
・水深は15mほどで、コンクリート製の部屋がプールの真ん中を2つに仕切ってい
た。
・プールの上には、ブリッジ・クレーンがあった。
・使用済燃料棒は、使用済燃料貯蔵施設から西に1kmの所に再処理工場に運ばれる。
p.141
・核燃料棒を覆っているマグネシウム合金の腐食を示す泡の量
p.142
・プールの底を撮影すると181のバスケット(円筒形の鋼鉄製容器)があり、それぞ
れの
バスケットには核燃料棒が40本入っていると報告されていた。
・損傷した600本の核燃料棒が、プール室の入って左手にある鉛張りの箱形容器に収
めら
れ、「乾式」貯蔵されていた等の記述あり。
p.153
・高さ15mの巨大な燃料取替機が原子炉をまたいでいた。この北朝鮮製の機械は、長
さ1m
の核燃料棒を原子炉の垂直の長い管から引き出すために特別に作られた。使用済核燃
料棒
は40本を一組として抜き出される。核燃料棒は、鉛で遮蔽されて垂直の通路を経由し
て床
下に入り、地下の「バスケット」に収められる。
p.154
・厚い鉛の大きな容器の中に入っているバスケットは、鉛の台車に乗せられ、地下の
トン
ネルを通って原子炉の建物の西側100mにある使用済核燃料貯蔵施設まで牽引される。
・使用済核燃料貯蔵用の建物の中では、頭上式の30トン・クレーンが、使用済核燃料
で一
杯のバスケットとその容器を台車から引き上げ、短い通路を経由して貯蔵プール室ま
で運
ぶ。
・バスケットと核燃料棒は、プール室の北東の隅にある四角いコンクリート製の台座
の上
に置かれる。損傷した核燃料棒は乾式貯蔵され、損傷していない核燃料棒はバスケッ
トに
戻される。頭上式クレーンが、損傷してない核燃料棒の入ったバスケットを貯蔵プー
ルに
入れる。それからブリッジ・クレーンが作業を引き継ぎ、プールの底からバスケット
を持
ち上げ、プール内の所定の位置まで動かす。
・再処理用の核燃料棒の取り扱いについて
ブリッジ・クレーンが、核燃料棒の入ったバスケットを一つずつプール内の東端に
ある
小型のコンクリート製台座の上に移す。頭上式クレーンがバスケットを持ち上げて
プール
から出し、鉛で遮蔽された移動用容器の中に置く。赤く塗られた、平らな荷台の中型

ラックが、貯蔵施設内まで入ってきて、貯蔵プールに横付けする。すると、頭上式ク
レー
ンが核燃料棒の入ったバスケットを持ち上げ、トラックの荷台に降ろす。そして核燃
料棒
は、使用済核燃料貯蔵施設の北西1kmほどにある再処理工場まで運ばれる。
・乾式貯蔵容器の中には600本の損傷した核燃料棒が入っている。貯蔵プールには、
7,600
本の貯蔵プールにあった。
p.190
・核燃料棒のマグネシウム・ジルコニウム合金の被覆には腐食が生じている。被覆部
分の
腐食に伴い、チューブの中のマグノックス燃料が水と反応して放射能を帯びたガスを
放出
している。
 (藤井注:マグネシウム・ジルコニウム合金と記載してあるが、マグノックスには
ジル
コニウムが含まれていません。北朝鮮がこの合金を開発し、製造したのでしょうか。
どな
たかご検討下さい。)
・使用済核燃料を安全に保管する方法が「合意された枠組み」に従って検討され、核
燃料
棒は特別に設計されたキャニスター(容器)に収納されることになった。我々は、全
ての
使用済核燃料棒を収納するためには、330個のキャニスターが必要になると見積もっ
た。

以上

(このメールはJNCの小原勝昭氏あてのものです。-KK)