送信者: "Kumao KANEKO" <kkaneko@eeecom.jp>
件名 : EEE会議(Re:北朝鮮の核開発の現状:藤井氏提供情報)
日時 : 2003年5月30日 9:10

各位殿

標記テーマに関する藤井晴雄氏(元海外電量調査会)のメールへの追加および訂正情
報です。
ご参考までに。

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Subject: 北朝鮮II による寧辺の5MW原子炉について

                         
今までにお送りしたメールで「北朝鮮 II」の引用箇所の記載頁に間違いがありまし
たの
で訂正しました。また、今井隆吉氏が調べられたものも参考として記載しておきまし
た。

 寧辺の5MW原子炉および使用済燃料貯蔵施設の概要

寧辺5MWの原子炉の概要

建設開始:1979年(原産原子力年鑑2003,p309)
運転開始:1986年1月
運転停止:1989年春(再処理するために使用済燃料棒約8000体を取り出し)
電気出力  :5MWe
炉心の大きさ:高さ6m、直径6m(今井隆吉氏による)
燃料装荷量 :50トン(今井隆吉氏によると約40〜45トン)
燃料チャンネル数:801(今井隆吉氏による)
  (今井隆吉氏によると1チャンネル当たり10本の燃料棒を装荷する)
 燃料被覆管の長さ:長さ1m
  (ISIS資料によると長さ50cmのウラン棒2本が燃料被覆管に入っている)
 燃料被覆管の直径:2.9cm (ISIS資料によると2.9cm、今井隆吉氏は3cm)
 燃料棒被覆管材料:マグネシウム・ジルコニウム合金
         (今井隆吉氏もマグネシウム・ジルコニウム合金)
  (ISIS資料によるとマグネシウム・ジルコニウム合金で、ジルコニウムの
   含有量は約0.55%である)
減速材の黒鉛:600トン
燃料温度  :最高温度440度C、平均温度420度C
原子炉防護壁のコンクリートの厚さ:3m
原子炉上部のコンクリートの厚さ :3.5m
原子炉建屋のルーフ・クレーン容量:30トン
燃料取替機の大きさ:高さ15m
原子炉制御室の機器:すべて日本の「ホクシン」
 (藤井注:北辰電機であると思う)

上記データに参考となる資料:
 Mg-Zr合金は、炭酸ガス中で450度以下で使用できる
     (出典:原子炉材料ハンドブックp.18)
 仏のChinon-1(別名EDF-1) GCR 1962年運転開始、
                減速剤:黒鉛
                冷却剤:炭酸ガス冷却
                燃 料:天然ウラン・Mo合金、
                燃料被覆材:Mg-Zr合金

原子炉からの燃料棒取出し
 原子炉上部に移動した燃料取替機で原子炉内の燃料棒を取り出し、鉛で遮蔽
 されて垂直の通路を経由して床下に入り、地下の「バスケット」に収納る。
 厚い鉛の大きな容器の中に入っているバスケットは、鉛の台車に乗せられ、
 地下のトンネルを通って原子炉の建物の西側100mにある使用済核燃料貯蔵
 施設まで牽引される。

使用済燃料貯蔵施設(平屋建)
 位置:原子炉建屋から西に100m
 高さ:20m
 形状:L字型
 燃料貯蔵プール:長さ120m、幅60m、水深15m
         プールは中央で2つに仕切られている。
 乾式貯蔵施設 :破損した燃料棒はキャニスターに入れて乾式保管

使用済燃料貯蔵施設から再処理工場までの運搬
 ブリッジ・クレーンが、核燃料棒の入ったバスケットを一つずつプール内の
 東端にある小型のコンクリート製台座の上に移す。
 頭上式クレーンがバスケットを持ち上げてプールから出し、鉛で遮蔽された
 移動用容器の中に置く。
 赤く塗られた平らな荷台の中型トラックが、貯蔵施設内まで入り、貯蔵プー
 ルに横付けする。
 頭上式クレーンが核燃料棒の入ったバスケットを持ち上げ、トラックの荷台
 に降ろす。
 核燃料棒は、使用済核燃料貯蔵施設の北西1kmほどにある再処理工場まで運
 搬する。

再処理工場
 位置:使用済燃料貯蔵施設の西1km


「北朝鮮 II」に掲載されている写真

p.61 :上から見た使用済燃料貯蔵プール(1994年11月撮影)
p.119:寧辺原子力研究センターの招待所全景(1995年1月撮影)
p.141:バスケットに入れた使用済核燃料棒(1995年5月撮影)
p.207:使用済核燃料の貯蔵用キャニスター(1997年1月撮影)
p.222:使用済核燃料貯蔵施設の裏側に設置されたジーゼル発電機小屋(1995
年6月)
p.233:水冷却装置の据え付(1995年6月)
p.237:使用済燃料貯蔵施設、水純化システム建屋と発電機小屋(1996年2月)
p.309:水純化システムの据え付け作業終了間近(1995年9月撮影)
p.343:キャニスター貯蔵用ラックを使用済燃料貯蔵プールに据える(1996年2
月)
p.347:使用済燃料貯蔵プールにスラッジ(へどろ)を吸い込むバキューム・
システムを沈めている(1995年10月撮影)
p.418:5MW原子炉建屋とトラックで到着したばかりの梱包(1996年2月撮影)


「北朝鮮 II」に掲載されている図面

p.132:寧辺原子力センターの平面図
p.133:5MW原子炉の関連地図
p.270:図1 使用済核燃料貯蔵施設の平面図
p.271:図2 使用済核燃料彫像プール
p.272:図3 使用済核燃料貯蔵プールの平面図
p.273:図4 使用済核燃料収納キャニスター垂直断面図
   および使用済核燃料棒垂直断面図(長さ1m)
(藤井注:信頼出来る別資料には、使用済核燃料棒に描かれている横の線は、
フィンを示している)
p.274:図5 貯蔵プールに安置されたキャニスターの状況(貯蔵ラックに収納
し、IAEAが封印した後の写真)


使用した文章と掲載頁

1.「北朝鮮、米国国務省担当官の交渉秘録」2000年11月20日に掲載されてい
  た5MW原子炉の技術データ

p.380
5MW級原子炉
・5MW原子炉は1986年5月に運転を開始した。600トンの黒鉛を収納し、50ト
 ンのウラン燃料を入れることが可能だった。
・燃料の最高温度は440度Cで、平均温度は420度Cだった。
・原子炉の防護壁は側面が厚さ3mのコンクリートで、上部のコンクリートは厚
 さが3.5mだった。
・原子炉の燃料系統は、それぞれ燃料棒を10本収納することが可能だった。
・燃料供給のためには、原子炉の頭上に架装された30トンのルーフ・クレーン
 を使用しなければならない。


2.「北朝鮮II 核の秘密都市寧辺を往く」2003年5月10日発行に掲載されてい
  た5MW原子炉および核燃料貯蔵施設の技術的データ、写真、図

p.56
長さ1mの核燃料棒はウラニウムを一杯に詰めたマグネシウム(マグネシウム
合金のこと)管だ。水中に貯蔵すればマグネシウムはゆっくりと溶解し、最後
にはウラニウムを水中に放出する。
(藤井注:ウラン燃料棒は充填型(中空型ではない)を意味している。「北朝
鮮 II」p.190に燃料被覆管はマグネシウム合金、またマグノックスと記載して
あるが、信頼出来る別資料によると、核燃料被覆管はマグネシウム・ジルコニ
ニウム合金(ジルコニウムの含有率は約0.55%)である)
p.58
 5MW級原子炉について
・この原子炉は50トンのウラニウム燃料棒を入れることが可能。
・遮蔽壁の厚さは3.5mのコンクリート壁
・制御室の機器は単純で技術的に高度でなかった。すべての機器は日本の
「ホクシン」社製だった。(藤井注:「北辰電機」と思われる)
P.59
・制御室建屋から真西に100mほど歩き、L字型の平屋の建物である使用済燃料
 の貯蔵施設の前に立った。建物の内部は天井が2階建ての高さで、サッカー
 場より少し狭い位の広大な部屋があった。右手には乾式貯蔵所があり、正面
 には燃料貯蔵プールがあった。水の色はエラメルド・グリーンで藻が生えて
 いた。
p.78
・水を濾過して視界を良好にしなければ、1mほどの使用済燃料棒を探すことは
出来ない。
p.79
・使用済燃料プールから泡が出ていることは、水がウランと接触し、化学反
 応が起こり、高度の放射能に汚染された水素ガスが水中に放出される。この
 ガスがプール内の泡の正体なのだ。
p.132
・寧辺原子力センターの平面図
p.133
5MW原子炉の関連地図
p.134
・使用済燃料貯蔵施設はL字型の建物で、長さ120m、幅60mのサッカー場の大
 きさの部屋で、外壁は2階建て(20m)で、壁の高い位置にある汚れた窓から
 薄明かりが差し込んでいた。
・水深は15mほどで、コンクリート製の部屋がプールの真ん中を2つに仕切っ
 ていた。
・プールの上には、ブリッジ・クレーンがあった。
・使用済燃料棒は、使用済燃料貯蔵施設から西に1kmの所に再処理工場に運ば
 れる。
p.141
・核燃料棒を覆っているマグネシウム合金の腐食を示す泡の量
p.142
・プールの底を撮影すると181のバスケット(円筒形の鋼鉄製容器)があり、
 それぞれのバスケットには核燃料棒が40本入っていると報告されていた。
・損傷した600本の核燃料棒が、プール室の入って左手にある鉛張りの箱形容
 器に収められ、「乾式」貯蔵されていた等の記述あり。
p.153
・高さ15mの巨大な燃料取替機が原子炉をまたいでいた。この北朝鮮製の機械
 は、長さ1mの核燃料棒を原子炉の垂直の長い管から引き出すために特別に作
 られた。使用済核燃料棒は40本を一組として抜き出される。核燃料棒は、鉛
 で遮蔽されて垂直の通路を経由して床下に入り、地下の「バスケット」に収
 められる。
p.154
・厚い鉛の大きな容器の中に入っているバスケットは、鉛の台車に乗せられ、
 地下のトンネルを通って原子炉の建物の西側100mにある使用済核燃料貯蔵
 施設まで牽引される。
・使用済核燃料貯蔵用の建物の中では、頭上式の30トン・クレーンが、使用済
 核燃料で一杯のバスケットとその容器を台車から引き上げ、短い通路を経由
 して貯蔵プール室まで運ぶ。
・バスケットと核燃料棒は、プール室の北東の隅にある四角いコンクリート製
 の台座の上に置かれる。損傷した核燃料棒は乾式貯蔵され、損傷していない
 核燃料棒はバスケットに戻される。頭上式クレーンが、損傷してない核燃料
 棒の入ったバスケットを貯蔵プールに入れる。それからブリッジ・クレーン
 が作業を引き継ぎ、プールの底からバスケットを持ち上げ、プール内の所定
 の位置まで動かす。
・再処理用の核燃料棒の取り扱いについて
 ブリッジ・クレーンが、核燃料棒の入ったバスケットを一つずつプール内の
 東端にある小型のコンクリート製台座の上に移す。頭上式クレーンがバス
 ケットを持ち上げてプールから出し、鉛で遮蔽された移動用容器の中に置
 く。赤く塗られた、平らな荷台の中型トラックが、貯蔵施設内まで入ってき
 て、貯蔵プールに横付けする。すると、頭上式クレーンが核燃料棒の入った
 バスケットを持ち上げ、トラックの荷台に降ろす。そして核燃料棒は、使用
 済核燃料貯蔵施設の北西1kmほどにある再処理工場まで運ばれる。
・乾式貯蔵容器の中には600本の損傷した核燃料棒が入っている。
 貯蔵プールには、7,600本の貯蔵プールにあった。
p.190
・核燃料棒のマグネシウム・ジルコニウム合金の被覆には腐食が生じている。
 被覆部分の腐食に伴い、チューブの中のマグノックス燃料が水と反応して放
 射能を帯びたガスを放出している。
 (藤井注:マグネシウム・ジルコニウム合金と記載してあるが、マグノック
  スにはジルコニウムが含まれていません。北朝鮮がこの合金を開発し、製
  造したのでしょうか。どなたかご検討下さい。)
・使用済核燃料を安全に保管する方法が「合意された枠組み」に従って検討s
 れ、核燃料棒は特別に設計されたキャニスター(容器)に収納されることに
 なった。我々は、全ての使用済核燃料棒を収納するためには、330個のキャ
 ニスターが必要になると見積もった。

以上
      2003年5月29日
      藤井晴雄