EEE会議(もっとリスク論を! 豊田氏へ天野より)
2003年6月5日



豊田様、ご丁寧な返信ありがとうこざいます。

できれば私の方で、もう少し深めたい議論が二点ございます。
豊田様ご指摘のように、リスクをとり入れたものもございますが、それはPSAなり、放射線の影響を一生懸命問題ないと説明するために用いてきたと理解されているのではないか.それを正当化するために用いてきたのではないか.それよりも相対的に原子力以外のわれわれを取り巻く全体のリスクはどうなっているのだろうか。国民が心配するからといって公表しない・計算しない・計算できないという事は、逆に信頼を損なうのではないでしょうか.1995年1月17日の阪神大地震のリスクがどの程度あったのか?次に予測されている東海地震のリスクはどの程度なのか。日本人はリスクを勉強しない、理解しないわけではなく、リスクを勉強する必要性があるのかという議論も必要です。皆さんが計算して示したリスクを国民が勉強して理解してくれというのではなく、世の中にはこれだけいろいろなリスクがあり、そのリスクに対して正しく恐がりましょうと発信していくこと。そうしていけば、きっとリスクのあらわす意味を感じ、もっとリスクを勉強しよういうことになるのではないでしょうか。国民が混乱するからというフィルターをかけずに、発信していくことが大事だと思います。もし、情報を悪用された・u丘凾タもう一つは、このようなトータルリスクの中で、なぜ国際標準では駄目なのかもう一度考えてみましょう。
我々には、交通事故だけではなくもっと多くのいろんなリスクがあるはずです。 日本は地震大国ですから地震による影響は大きいですし、インフラもあるでしょう。それ以外に我々の知らない、理解が困難なリスクがあるかもしれません。あるいは、迫りつつあるリスクがあるかもしれません。だからこそ、受容する、あるいは低減する努力や費用をかける境界のリスクレベルを議論する必要があります.この判断基準が国際標準では何故いけないのでしょうか.その理由は、何故なのでしょうか.

EEE会議代行

(豊田様のご意見の再掲)
標記テーマに関する天野 治氏の問題提起(5/16  20:10)に対し、豊田正敏氏から次
のようなコメントをいただきました。
原子力のリスク論は難しくなりがちですが、できるだけ、「専門知識を持たない一般
市民に理解、納得してもらうためにはどう説明したらベストか」という視点で論じて
いただきたいと思います。なお、豊田氏の「もんじゅ」判決に関するコメント(再改
訂版)も添付されていますので、あわせてご覧下さい。
KK

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 天野氏の「もっと幅広くリスク論を展開すべきである」との提案にコメントした
い。

先ず、原子力の安全性検討に当たっては、従来から、例えば放射線許容線量を決める
に当たっても、軽水炉の安全設計の場合にも、確率やリスクの考え方は採ってきてい
る。

即ち、安全審査上は、2003年5月号の原子力学会誌の「談話室」(別添ファイル参照)
で述べているように、実際には、例えば、設計基準事象を選定するに当たって、確率
やリスクの考えを取り入れている。

 ただ、「もんじゅ」では、2次冷却材漏洩事故及び蒸気発生器伝熱管破断事故の解
析に当たって、確率の考えが十分考慮されているとは言えないし、JCOの安全設計で
も、臨界の可能性のある施設に対して、人的管理のみに頼り、臨界防止のための施設
面での対策が全く採られていなかった点は、安全審査上も問題があったと考えられ
る。原子力安全委員会の安全審査でありながら、核燃料施設(六ヶ所再処理工場は除
く)は軽水炉の安全審査と安全の基本的考えが異なっているように思われ、改善を要
するのではないかと思う。

 安全審査に当たっては、全ての原子炉施設に対して表向きは決定論的安全解析によ
ることとするが、その裏づけとして確率論的安全評価によって審査することを原則と
すべきである。ただ、その審査結果の詳細を公表することには、無用な混乱を避ける
ために慎重な検討が必要である。

今回の「もんじゅ」の判決において、裁判官と国側の許容されるリスクレベルの考え
方に大きなギャップがあったことが議論が平行線を辿った原因と考えられる。従っ
て、社会的に容認されるリスクレベルについて真剣に議論し、はっきりした見解を示
す必要がある。これは、地域住民に原子力施設が如何にリスクが小さく、安全である
かについて理解を得て、原子力の円滑な推進を図るためにも重要であると考える。

従って、天野氏の考えと基本的には同意見であるが、以下のような問題点ないし弱点
があるのでそれらの解決を図るとともに、同時に、原子炉施設の安全確保のために採
られている多重防護と多重防壁の考え方を判りやすく説明して理解を得ること、地域
住民との双方向対話を通じて信頼を得るよう努めること及びトラブルを出来るだけ減
らすように努めるとともに、トラブル隠しやデータの改ざんなどにより地域住民の信
頼を失うことが絶対ないよう努めることが肝要である。

確率及びリスクの解決すべき問題点ないし弱点としては

(1)    確率やリスクという概念は、一般国民には判りにくく理解を得ることが難し
い。そのためには、学校教育から改善する必要があるが、それだけでは十分でなく、
原子力関係者はどのような方策があるか真剣に検討する必要がある。

(2)    確率論的安全評価に当たっては、機器、装置の不動作確率、誤動作確率や人
為ミスは軽水炉などでデータの蓄積が行われているが十分とは言えず、エンジニアリ
ング・ジャジメントによらざるを得ない場合が多く、解析誤差は避けられない。しか
し、ラスムッセン報告での解析でも綜合誤差は±1桁程度であるとの結論が得られて
いる。

(3)    理工学系の人でも、リスクが10-4/年のタクシーに乗る時には不安を感じない
が、10-6/年の航空機には不安を感じ、その都度、傷害保険に入る人が多く、また、
新幹線で行ける距離であれば、多少時間が余計にかかっても航空機を避けて新幹線を
利用する人もいるという事実を考慮する必要がある。

(4)    リスクのみでなく、ベネフィットと併せて考えるべきである。地域住民は、
大都市の人はリスクを受けることなく、電力利用のベネフィットのみを享受している
との不満をもっている。大都市の人は、地域住民に感謝の気持ちを行動で示す必要が
あるが、地域住民も、照明や電気洗濯機、冷蔵庫、テレビ、冷暖房器などで直接電気
を使うことのメリットを受けるだけでなく、大都市で電気を利用して作られる衣料や
日用品に至るまで大部分の製品の恩恵を受けていることを考慮すべきである。

(5)    低放射線の人体に対する影響について一般国民の間に根強い偏見がある。

(6)    原子力関係者が閉鎖的で、トラブル隠しやデータ改ざんが続いて起こること
によって原子力に対する不信感が高まっている。

(7)    一般国民はリスクのみでなく、その施設に対するイメージによって判断す
る。トラブルが大きくマスコミに報道されるとか、施設が厳重な柵で取り囲まれてい
るとかということはリスク評価にはマイナスになる。

以上のような問題点の改善を図るべきであるが、原子炉施設の社会的に許容されるレ
ベルについては、原子力関係者だけでなく広く一般国民の容認するものでなければな
らないが、私見としては、新幹線や航空機のリスクレベルの10-6/年より一桁低い
10-7/年を提案する。

許容されるリスクレベルは、一般国民の確率やリスクに対する理解度、人命の価値の
レベル及び原子炉施設に対する国民の許容度などにより、国により異なるのは当然で
ある。

ラスムッセン報告当時の米国の軽水炉のリスクレベルが10-6/年であるのに対して、
わが国の軽水炉はその後の国内外の事故やトラブルに対して再発防止対策を採ってい
ることや機器の品質保証を厳重に行って来ているので、私の提案する10-7/年以下に
することは十分可能であると考える。わが国の建設費が高いのは、人件費が高く耐震
設計費が割高であることや安全上重要でない2次系の機器も原子炉級の官庁検査が行
われるなどの理由によるのであって、機器の信頼度を向上することは、これによって
設備利用率を高め、経済性の向上に役立っている。

 この問題についてEEE会議のメンバーから意見を聞かれるのも一案であるが、原子
力学会が自ら、原子力施設の専門家に確率論的安全評価や社会科学特に社会心理学の
専門家の参加を得て委員会または誌上討論によって議論し、原子力学会としての見解
を纏め、提言されてはどうでしょうか。ただし、再処理・プルサーマル問題を誌上討
論で議論した際、原子力委員会の圧力に屈して結論を纏めることが出来なかった先例
があるので、今回の問題も原子力学会の見解を取り纏めて提言できる見通しがなけれ
ば止めた方がよいと考える。

以上

  ----- Original Message -----
  From: Kumao KANEKO
  To: Undisclosed-Recipient:;
  Sent: Friday, May 16, 2003 8:10 PM
  Subject: EEE会議(Re:日本の原子力開発の進め方:もっとリスク論を!)