EEE会議(地球温暖化防止: ボン会議の様子)    2003/6/17

各位

先日ベルリンからのEメールでお伝えしましたように、今後の地球温暖化対策を議論
するための国連気候変動条約(UNFCCC)の事務級会合(補助機関会合)が、6月4日
からドイツの旧首都ボンで開催されておりましたが、先週末の13日、閉幕しまし
た。

小生自身は、この会議には直接出席しませんでしたが、旧友のUNFCCC事務局長、その
他の出席者達の話によれば、米国の不参加による京都議定書の将来や、2012年以
後の次期約束期間における排出削減目標の設定問題がどうなるか、益々混沌とした様
相を呈しており、その背後には、イラク戦争で表面化した米国と独仏等の対立が絡ん
でいるように見受けられます。また、削減義務を拒否する開発途上国と先進国の綱引
きも相変わらず激しく、逆に途上国側は、温暖化対策のための財政支援を要求するな
ど、地球環境保護のために必要とされる資金がいかに膨大なものであるかが改めて浮
き彫りになって来たようです。

他方、京都議定書の下で設けられたクリーン開発メカニズム(CDM)では、先進国が途
上国で実施した排出削減事業の削減は移出量を議定書目標達成に編入できることが謳
われていますが、これとの関係でとくに問題となるのは、原子力発電所の建設がこの
メカニズムの対象から外されていることです。周知のように、アジアでは、ベトナ
ム、インドネシアなど今後原子力導入を計画中の途上国がいくつかありますが、こう
した状況を考えると、CDMへ原子力を加えることが望ましく、我が国は、関係するア
ジア諸国とも協調しつつ、その方向で強力なリーダーシップを発揮すべき時期にきて
いると考えられます。 こうした問題点については、今後当EEE会議でも大いに議論
していただき、政府や関係国に対して積極的に政策提言を行ってゆきたいと思います
ので、皆様の一層の奮起を期待する次第です。

なお、今回のボン会議の概要については、「国際環境NGO FoE Japan 気候変動とエネ
ルギープログラム」(http://www.FoEJapan.org/climate/)の報告が良くまとまって
いますので、参考までにご紹介します。

金子熊夫
(フランクフルトにて)

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<曇時々雨、国連温暖化会議終わる>

 六月四日から十三日まで、独ボンで開かれていた国連気候変動条約の事務
級会合(補助機関会合)が閉幕しました。米国の不参加から来る京都議定書
の将来、とりわけ2012年以後の時期排出削減目標の行方への不透明感が
募る十日間でした。ロシアは九月にモスクワで大きな地球温暖化の国際会議
を予定しており、その前後に批准表明をするのではという期待が一部で取り
上げられています。もし九月十三日までにその手続きを終えれば、次回条約
本会議(ミラノ、十二月一日から十二日まで)は議定書の最初の締約国会議
となることができます。また、それが遅れた場合、失われた勢いを回復する
ため、条約事務局では来年の本会議と議定書会合を年半ばに開催することも
考慮されているようです。

■浮上する適応問題

 国連科学者機関・気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2007
年に予定する第四次評価報告の準備が既に始められていますが、2001年
に出された第三次報告の内容を、今後如何に継続的に政府間交渉の議題に組
み込んで行くかが交渉されました。日欧が求めた将来の交渉のための作業計
画は米・途上国の反対で落とされました。また、議題案として、温暖化の悪
影響への適応と、排出量抑制・削減がそれぞれ議題化される一方、先進国が
求めた両者を統合して考慮する第三の議題は、排出抑制義務を恐れる途上国
の反対で、今後考慮するとの表現に留まりました。この件で、国別意見提出
と次回十二月会合直前の非公式交渉が予定されています。この第三次評価報
告の扱いは、条約二条の危険な気候変動を防止するとの根本目標と併せ、現
在の2012年までの国際対策を越えた次の道程を公式議題に載せるため、
重要と見られています。

■小島諸島国連合の訴え

 条約の四条八項及び九項は地球温暖化の悪影響に対する適応能力への支援
強化を定めています。またこの二項は、先進国が依然拒否する、先進国の対
策で失われる産油国の収入の補償の議論を含んでいます。深刻化する海面上
昇や自然災害増加の脅威に直面するツバルやサモアなど南太平洋を中心とし
た小島諸島国連合(AOSIS)は、この面での研究、適応能力育成、監視
などの体制強化のため、合意を図るよう訴えましたが、サウジアラビア、ク
ウェート、リビアなど産油国が途上国全体を抑え、欧州、日米の小島諸島国
への支持にも拘わらず、交渉部会は決裂、次回会合は白紙から再開する異例
の結果となりました。

■地球環境の変化への適応には膨大な資金が必要

 京都議定書の運用規則を定めた二年前の条約会議では、最後発開発途上国
基金、特別気候変動基金、適応基金の三つの新たな資金援助機関が、条約の
公式の資金機関、地球環境ファシリティ(GEF)の下に設けられました。
既に運用が始まっている最後発開発途上国基金に続き、特別気候変動基金が
次回本会議で運用を開始することは既に昨年の本会議で決まっています。し
かし、この基金の優先対象や運用則はまだ詰められていませんでした。今回
の途上国提案では、適応への資金援助を最優先することを求めています。排
出量が急増する一部途上国では排出削減への支援も含めるべきとする日欧に
対し、排出削減へのいかなる言及も受け付けられないとする途上国が対立、
合意された交渉部会案では排出削減支援の可能性を僅かに残す表現に留まり
ました。先の合意に沿って早急に運用を開始すべしとする途上国の意見で、
12月本会議前の更なる国別意見提出や非公式交渉は削除されました。

 適応の範囲は、急増する自然災害への予防能力強化のため、エネルギー関
連のインフラや農業改革から廃棄物処理、生態系保護まで広範囲、深刻かつ
潜在的に膨大な額に上ります。先進国がよほどの巨額の拠出に合意しなけれ
ば、この基金は大海の一滴ともなりかねません。この為、本会議期間中、政
府間交渉と別に設けられた世界銀行、オランダ政府、欧州連合がそれぞれ開
いた講演会で、先進国の開発援助政策に地球温暖化の悪影響への適応を組織
的に組み込んで行く方向が示され、参加者の活発な議論を呼んでいました。
またこの関連で、別途議定書を作る、地球的な災害予防・救助の体制の可能
性なども議論に挙がっています。

■途上国での森林吸収源事業

 京都議定書の下で設けられたクリーン開発メカニズムでは、先進国が途上
国で実施した排出削減事業の削減は移出量を議定書目標達成に編入できるこ
とが謳われています。運用規則では、これに植林・再植林事業による二酸化
炭素吸収量を含めることができることになり、植林・再植林活動の定義や事
業規則を十二月の本会議で採択することになっています。主に先進国の温室
効果ガス排出が起こしてきた温暖化の問題を途上国の土地を長期間占有して
解決の一助にするという倫理上の問題の他、森林火災や気温上昇で蓄えた二
酸化炭素が最終的には大気に戻ってしまうという永続性の問題、社会・環境
影響評価を国際規則に組み込むかどうか等が焦点となりました。欧州は五年
毎の更新を要する暫定削減認定を提案しています。二酸化炭素が大気中に戻
ってしまう危険を保険で補う加提案は、投資国と実施国間の取引を担保しま
すが、環境面の永続性の問題を何ら解決していないと見られています。欧州
は環境影響評価を事業手続きに含めるよう求め、具体的な要点一覧を提出し
ましたが、加日やブラジル、ボリビア、セネガル、マレーシア等の反対で義
務とはならず、事業準備文書の自主項目の一つとして附記(ANNEX E)され
るに留まっています。これら諸国はこの附記も長すぎるとして、削除若しく
は前文で短く言及するに留めるよう求めています。今回は以上の点を中心に
各国の見解が併記された交渉部会議長案が用意される所までで、決定は次回
に先送りとなりました。

現在の議長案は以下で見れます:
http://unfccc.int/resource/docs/2003/sbsta/l13.pdf

■貿易体制と環境条約

 昨年のヨハネスブルグサミットでも取り上げられたように、二国間多国間
の貿易協定から成る国際貿易体制と、貿易制限を実施手段に取り入れた国連
環境条約との間の潜在的な衝突の可能性が高まっています。既に世界貿易機
関(WTO)が、貿易促進の観点からこの問題を協議中で、環境条約を中心
とした国連体制の合法性が問われています。京都議定書の名前が挙がる中、
国連気候変動条約側は世界貿易機関での議論を報告しましたが、本会議では
各国政府内での貿易、環境担当間での協調強化を述べるに留まりました。簡
単な事務局報告は以下で見ることができます(英語):
http://unfccc.int/resource/docs/2003/sbsta/inf07.pdf


飛び火し深まる国際対立のなかで

 前号で紹介した条約事務局の2004−2005年予算案が今会議、最後
の最後まで、最も対立した議題となりました。米国が、議定書関連の支出を
禁じる議会決議の下に強硬に求めていた京都議定書の支出分の分離は交渉部
会議長案から消え、末尾脚注で一定の割合で同国の条約への拠出額を引込む
旨が明記されています。日本は議定書への米拠出が望めないまま日本への国
連基準を越えた拠出を求められる懸念から、予算額全体の圧縮を求めていま
す。欧州連合内部では、かつての東西対立の様な両極化を避けひとつの世界
を追求する英国と、国連の多国間主義の原則を守り、超大国米国へ対抗でき
る統合欧州を目指す仏独との間で議論が分かれ、真に今後の世界観の対立と
なっています。合意の見通しが立たず、次の会合まで結論を先送りする議論
が出る中で、事務局長はもし今回予算に合意できなければすぐにも職員の解
雇を始めねばならず、2月には事務局自体の閉鎖に追い込まれる旨を通告し
ました。この間、仏代表団に仏首相が直接指示を与えていると言われる一方、
露は状況が代表団に委ねられた権限を越えているとしてモスクワの指示を仰
がねばならないと述べました。結局、予算案は合意できず、次回十二月に先
送り、それまで事務局長に各国に暫定的に請求する権限を与えて終わりまし
た。安全保障理事会のイラク問題で表面化した欧米間の対立が続く中、この
ような国連システムへの影響の深刻化が予想されます。

                     (六月十五日 ロンドン)

お問い合せ:気候変動プログラム・小野寺ゆうり
      energy@foejapan.org

ソース:「持続可能で公平な世界を目指すニュースマガジン」
      vol.16 16 June 2003 http://www.FoEJapan.org/climate/