EEE会議(イラク戦争後の世界と日本の安全保障:民主党前原氏の講演概要)
2003/6/24

各位殿

イラク戦争後の世界と日本の安全保障体制に関して、民主党の若手議員として期待さ
れている前原誠司氏が、最近東工大の学術フォーラム(澤田哲生氏主宰)で講演を行
いました。以下は、この講演会に出席された林 勉氏(エネルギー問題に発言する会
の代表幹事)による概要報告です。ご参考まで。
--KK
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私は先日、第8回の学術フォーラムの講演会に参加しましたので、その概要報告をし
ます。イラク戦争後の世界をどう見るかという点で、大変に参考になりました。

演題:「安全保障体制の変容に対する日本の新政策」

講師:民主党の衆議院議員の前原誠司氏(若手(40歳)論客の一人、外交、安保の
エキスパート、民主党「次の内閣」の安全保障担当相)

1.対イラク戦争の評価
  @戦争の法的正当性:
    ・国連安保理決議(678、687、1441)には今回の戦争を正当化す
る根拠はない。−民主党の主張の繰り返し。
    ・自衛権の行使(米国の9.11テロの類似テロに対する自衛権)のために
は国際法では,次の3用件が必要。
     @急迫不正の侵害.、A他に手段がない場合、B必要最小限の行使

     これ等の要件が今回備わっていたか疑問であるという民主党の主張と同
じ。
  A戦争の背景
    ・米国の「国家安全保障戦略(ブッシュドクトリン)」が2002年10月
に制定された。ここでテロ支援国家への「先制攻撃」が認められた。
    ・イラクの石油問題への米国の介入。
    ・イスラエルへの支援(中東和平の促進)。イラクがパレスチナ支援の隠れ
た存在であったが、イラクを倒すことでブッシュ、シャロン、アッバス会談
     が実現し、対話が持たれるようになった。
2.アメリカは何処へ行くのか(国防総省と国務省との対立)
  @単独行動主義(ニューラテラリズム)の追求
    ・ネオコン(新保守主義)路線。今回のイラク戦争における圧倒的な軍事力
で米国は世界で唯一の軍事超大国であることを世界に知らしめ
     た。どの国といえどもこれに対抗出来ない。国連をも超える存在になっ
た。ーチエイニー、ラムズフェルド、ウオルフォビッツ等。
    ・ヨーロッパ(主に独、仏)との距離感(古いヨーロッパ)
    ・国連軽視
  A国際協調主義への回帰
    ・単独行動主義の抑制。アメリカ一国主義は世界から反発を買う。また国内
世論(良識者)の反発も買う。これでは来年の大統領選に勝て
     ないという認識。パウエル、アーミテージ、ライス等。ブッシュも最近は
こちらに軸足を置いている。
    ・国連の再構築。
3.北朝鮮問題の行方
  @イラク戦争のインパクト。アメリカの最新兵器の威力に驚嘆。危機感の増大。
→柔軟な姿勢への変化の兆し。米のみとの対話の固持から日、
    韓含むに変化。
  A北朝鮮の内政問題。反体制運動組織が中、朝国境付近にでき初めている。
  B核開発とアメリカの動向。北には核しか外交カードが無い。米国は北朝鮮はイ
ラクとは比較にならに軍事強国であるとの認識があり、米国に到 
    達できるミサイル開発も可能と見ている。これに核を搭載されたらとの恐怖
と、他国、テロ組織等への大量破壊兵器の流出の恐れも抱いてお   
    り、断固核廃棄を求めていく。このためにはある程度の強行路線もいとわな
い。
4.日本の安全保障政策の現状と課題
  @アメリカに対する過剰依存→日米安保条約の再定義。旧来からの流れに沿って
安心しているが、時代はどんどん動いている。現実に即した対
    応が必要。自分の国は自分で守る視点も必要。
  A冷戦思想から脱却できない部隊編成→北方(ロシア)からの大規模上陸振興阻
止を未だに前提としている。現実は北朝鮮からのミサイル攻
    撃が可能性が最も高い。こちらには無防備に近い。
  B新たな脅威に対するためのシステム導入に関わるハードル
    ミサイル防衛→日米安保条約では、日米間の役割分担は、米:矛(攻撃)、
日:盾(防衛)となっている。防衛ではミサイルが飛んでくるのを落
    とすしかない。北朝鮮は日本を射程圏にしたノドンミサイルが数百発持って
いるという。最初のミサイルを打ち落としても相手は間髪をいれず打
    ち込んでくる。これに対抗するには相手のミサイル基地を攻撃するしかな
い。しかし日本は攻撃は出来ないシステムになっている。これをできる
    ように法改正をすべきである。(この点は民主党の正式見解ではあく、前原
氏個人の見解とのこと。)
  C不十分なソフト面の整備→有事法制を含む緊急事態対処
    ミサイルを迎撃するにしても高度な技術開発が必要。ハード技術のみではな
く、これを有効にするためのソフト面の開発が急務。日本は決
    定的に遅れている。例えば、日本の情報衛星は4基しかない。米国はペンタ
ゴンだけで200基持っており、その他もくわえれば1000基近く持 
    っている。こういう近代軍事状況については現状では100%米国依存であ
る。国家の安全を100%他国にゆだねている状況は異常であ
    る。世界でそんな国は他にない。


以上ですが、日本の安全保障のあり方について考えさせられる講演でした。

           林   勉
hayashi-tsutomu@mwe.biglobe.ne.jp
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