EEE会議(Re:核燃料サイクルオプションと地層処分)
2003/7/4

各位
 
標記件名の永崎隆雄氏のメール(7/1)に対し、豊田正敏氏からさらに次のようなコメントをいただきました。ご参考まで。
 
因みに、現在進行中の「核燃料サイクルオプション」論争は、本年3月末から4月末にかけて行われた「日本の原子力開発のあり方」を巡る一連の論争とも関連があると思いますので、これらのバックナンバー・メールを随時再読、吟味されるよう申し添えます。これらのバックナンバーは、当EEE会議のホームページ(http://www.eeecom.jp) にすべて掲載されており、どなたでも自由にご覧になれます。ユーザー名はbacknumber, パスワードはroseです。
--KK
 
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 永崎隆雄氏の質問に対して次のように解答します。

1. 再処理・プルサーマルの経済性
先ず、永崎氏が、「私が日本原燃社長時代に、六ヶ所再処理工場の建設費が3兆円に膨らみ,その後2兆円に削
減された」と述べておられるが、どのような根拠によって、このような誹謗中傷をされるのか釈明されるよう
要求します。
  私の社長時代に、六ヶ所再処理工場の詳細設計がほぼ固まった段階に、同工場を受注していたメーカー各
社から見積価格を徴収したところ、2兆円を超えるという結果になったので、私自らメーカー各社の社長と直
接、価格削減の折衝を行い、もし、当方の削減の要求に応じなければ受注を辞退してもらうという態度で折衝
した結果、1.7兆円に抑えることが出来ました。しかし、この金額では、再処理工場の建設を続けるべきかど
うか判断に迷い、電事連の社長会議に判断を仰ぎ、続けるべきであるとの結論を得ました。その後、私の後任
の社長がメーカーになめられ、私とメーカー各社の社長との約束を反故にされ、2兆円を超えることになって
おります。この辺の経緯については、一緒に価格折衝をされた当時の日本原燃の伏谷副社長(東電出身)、伊藤
常務(関電出身)、米田資材部長(関電より出向)の3氏のいずれかに確認されたい。
 フランスの再処理工場UP-3の場合は、建設資金を再処理を委託した西独、日本など各国に全額支出を求めて
いるので、建設利息などが含まれておらず、実際にわが国が負担する再処理費は2.4億円/トンと推定されてい
ます。
  再処理工場の建設費が、フランスに比べて割高になっている理由は、為替レート、人件費が高いことのほ
かに、土地取得費、耐震設計費、航空機衝突対策、建設利息、本社費、土木建設費が割高なことなどによるの
でやむをえない点もありますが、国際価格並に近づけるようさらにコストダウンに努めるべきであると考えま
す。
 プルサーマルが高くなっている原因は、再処理費の他にMOX燃料の加工費が予想外に高くなったことにより
ます。特に、わが国の場合はウラン燃料の成型加工費が諸外国に比べて割高で700ドル/トン程度であり、MOX
燃料の加工費は、燃焼度の増加とともに、強い中性子線を放出するPu-238が増えるため、ウラン燃料の場合の
約4倍になると想定されております。従って、現段階では、プルサーマルは経済的に全く成り立たないことに
なります。プルサーマルが直接処分と経済的に比肩するためには、ウラン価格が、40~50年後には、現在の2~3
倍の100~150ドル/kgUに上昇するとの前提で、再処理費及びMOX燃料加工費について、第1表のようなコスト低
減を必要とするが、その実現は不可能ではないにしても、現在のような進め方では容易に達成出来ないのでは
ないかと考えます。
コスト低減のための技術開発をどの機関に担当させ、どのような再処理方式により、何時までに実用化するか
について、具体的な実施スケジュールを明確にし計画通りに進めるべぎあり、現在のような技術開発の実施主
体もはっきりせず、ただ漫然と進めていたのでは実現は難しいと考えます。

  第1表 再処理費及びMOX燃料加工費(燃焼度
      45,000MWD/Tの場合) 
ウラン精鉱費   再処理費    MOX燃料加工費
(ドル/kgU)    (ドル/kgHM)    (ドル/kgHM)
 100ドル/kgU   700ドル/kgHM  1,650ドル/kgHM
         1,000ドル/kgHM  1,400ドル/kgHM
 150ドル/kgU     700ドル/kgHM  1,95 0ドル/kgHM
          1,000ドル/kgHM  1,600ドル/kgHM

 フランスのUP-3の場合、金利、償却費は必要なく、運転維持費のみを考えればよいので、再処理費は1億円/
トン程度と考えられます。しかし、フランスの場合もMOX燃料の加工費はウラン燃料に比して約4倍となるの
で、プルサーマルが直接処分より安くなるとは考えられません。おそらく再処理輸出国であるための政策的な
説明と考えるべきです。この点については、EDFと本音の議論をしたいと考えております。

2. 原子力発電の経済性
原子力発電の発電原価が、コンバインド・サイクル火力に比べて高いのは周知の事実であります。原子力5円
/kWh、コンバインド火力10円/kWhという説明を今なお信じておられるのでしょうか。
しかし、原子力発電は、大量の電力を安定的に供給出来る電源であり、また、CO2を排出しないので、地球温暖
化の解決策としても有効でありますので、電源多様化の観点からもコンバインド・サイクル火力とともに、電
力供給の主軸に位置づけられるべきであると考えます。しかしながら、電力自由化の時代に対応し、電力費を
出来るだけ安く抑え、わが国産業の国際競争力を高めるよう努力すべきであると考えます。

3. 核兵器解体に伴うPu
わが国には、英仏への再処理委託に伴って回収されるPuがあり、それをプルサーマルによって燃やすことが緊
喫の課題でありますが、地域住民の十分な理解が得られず、思うように進んでいない状況であります。原子力
産業会議としても、他国のPuの心配をする前にわが国のプルサーマルの実現のために全面的に協力すべきであ
ると考えます。
 ロシアの核兵器解体に伴うPuは、Pu239が大部分で、中性子線の強いPu238は殆んど含まれていないので、
MOX燃料の加工費はウラン燃料に比べてそれほど高くならないので、経済的に十分採算が採れると考えられま
す。しかし、自国のプルサーマルも思うように進まない状況で、他国のPuの処理について論議すること自体ど
うかと思うし、地域住民及び一般国民の理解が得られるかどうかという問題もあります。輸送の際の厳重な物
的防護対策が必要なことなどを考えれば、ロシアに近いフランスやドイツに検討を任せるべきではないでしょ
うか。
 なお、A-BWRやA-PWRでも全炉心のプルサーマルをするためには、原子炉の製作段階に制御系の改造が必要で
す。しかし、地域住民の理解を得ながらプルサーマルを進めるためには、先ず、1/3炉心から初め、炉心特性
を確かめながら段階的にプルトニウム含有量を増やしてゆく方法を取るべきであると考えます。 以上