EEE会議(Re:核燃料サイクル・オプション論争:永崎氏→豊田氏)
2003/7/6

皆様
 
標記テーマに関する豊田正敏氏のメール(03/7/4)に対し、永崎隆雄氏(日本原子力産業会議)から重ねて次のようなメールをいただきました。ご参考まで。
 
非常に重要なテーマであると思いますので、なるべく多くの方々の議論へのご参加を期待します。部分的(個別的)なコメントや問題点の指摘等でも結構です。状況により匿名(ハンドルネーム)での配信もお引き受けします。
 
なお、7月5日までに配信されたメールはすべて当会議のホームページ(http://www.eeecom.jp)に掲載されておりますので、自由にご覧下さい。ユーザー名はbacknumber、パスワードはroseです。キーワード(件名、送信者名など)での検索も可能です。
--KK
 
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 豊田様 

 私の質問が誹謗中傷と取られた事に対して深く陳謝いたします。 

 私の本意とするところは何故、日本の再処理費が高くなったか、渦中におられた豊田様から真相をお聞きし、その中に潜む日本の原子力の課題を探り出し、日本の原子力を健全に発展されたかったからで、以下の点、お詫びいたします。

  @6000億の再処理工場建設予定価格が豊田様の社長時代に3兆円に膨らみではなく、詳細設計の結果、2兆円を超えたということ。

Aそれから、豊田様の代で工事中断を切り札に1.7兆円迄値下げ交渉をされた事。

Bその価格での建設について電事連の社長会で諒承を取られた事。

 

 私の分からない点は以下の5点です。ご意見をください。

 

1.プルサーマルは高いと反対される豊田様はなぜ再処理建設予定価格6000億円の3倍の1.7兆円で満足されたのか?

2.なぜ、豊田様は社長時代に工事を中断されず、退任後プルサーマルは高価だから成立しないと反対されるのですか?

3.MOX燃料加工費が予想外に高くなったのでプルサーマルが全く成立しなくなったのは正しいのですか?

4.原子力発電の経済性がコンバインドサイクルに劣るとは思えないのですが?

5.核兵器解体に伴うPuを他人事に済ませていいのですか?

 

以下質問の趣旨を説明いたします。

 

1.プルサーマルが高いと反対される豊田様がなぜ再処理建設予定価格6000億円の3倍の1.7兆円で満足されたのか?

 

 電事連が約2兆円でやむなしとするのは分かります。原子力5円/kWhに再処理工場約2兆円による1円/kWhの値上りは石炭火力6.5円/kWh、石油火力10.2円/kWh、水力13.6円/kWhLNG火力6.5円/kWh(原産原子力ハンドブック)からすると充分経営の中に収まるし、経営というものは何も経済性だけではなく、社会的責任、将来世代に対する責任、国家の生存戦略などもあるからです。

 

  しかし、豊田様の主張は経済性が全てと見うけられます。しかも現世代だけ。

 軽水炉のワンススルーに比べると火力も、水力も再処理リサイクルも経済的に負けるわけですから存在が許されません。

  しかし、現に石炭21%、石油8%、水力9%、LNG27%で存在しています。経済性は大切な要素ですが全てではないと思いますがこの点お答え下さい。

 

2.なぜ、豊田様は社長時代に工事を中断されず、退任後プルサーマルは高価だから成立しないと反対されるのか?

 

 この時期はバブルの時期でメーカ?も仕事が混んでおり、工期を急がせる事は火に油の如く値上がりをもたらしたのではないでしょうか。

 しかし、結局、豊田様は建設に踏み切ったわけですが、これは以下の通り、工期優先の考えが背景にあったのではないかと私は思いますが如何でしょうか?

  

@電力供給ストップはわが国を重要な混乱に陥れます。なんとしても避けなければならなかった。

A当時は使用済み燃料の中間貯蔵が無いから、使用済み燃料がはけないと原子力発電が止まることが考えられた。

B日本の原子力発電は以下の通り、年間約6兆円の売電売上を上げており、再処理工場の2兆円はそれから比べると安いと考えられた。

 

わが国原子力の年間売上

  約6兆円=20円/kWh×4500万kW×0.8×365日/年×24h/日

 

Cそして、電力の地域独占と総括原価方式の電力価格制度により追加負担は回収できると考えた。

  

3.MOX燃料加工費が予想外に高くなったことで、プルサーマルが全く成り立たなくなったとは本当か?

 

 

私の計算では豊田様のご提示なさったわが国ウラン加工コスト700000ドル/トンUの4倍のMOX燃料コストにしてもプルサーマルの値上がり分は0.017円/kWhにしかなりません。

 その理由はプルサーマルでのMOX燃料は濃縮ウラン燃料の約1/10の量しかありません。それが4倍になったところで(4−1)/10=3割の上昇でしかなく、4倍にはならないのです。しかもそれを発電単価に換算するともっと小さくなります。

 

100万kWのプルサーマルの場合はウラン燃料16トンU、MOX燃料1.6トンUが必要です。ウラン燃料の使用済み燃料16トンUは再処理して核分裂性Puを約80kg回収し、これを約5%になるようにUと混ぜて1.6トンUのMOX燃料にし、リサイクルします。

MOXによるの増加分は次のように計算できます。

 1.6d×700000×3×120÷70億kWh=+0.058円/kWh 

 天然ウランの節約は約30トンUで価格が50000ドル/トンUなので

 30×50000×120÷70億kWh=−0.026円/kWh

 濃縮役務の節約は約8トンSWUで価格が110000ドル/トンSWUなので

 8×110000×120÷70億kWh=−0.015円/kWh

即ち差し引きのMOXによる増大は+0.017円/kWhに過ぎません。

 

 なお、使用済燃料の輸送・貯蔵・直接処分量の節約は約16トンで価格が約20〜100万ドル/トンなので

16×20〜100万×120÷70億kWh=−0.055〜0.27円/kWh

です。

 

4.原子力発電の経済性がコンバインドサイクルに劣ることは本当か?

  原子力発電の発電原価が、コンバインド・サイクル火力に比べて高くなるであろうということでフランスでは原子力も反撃に出ています。しかも核燃料サイクルをやってです。

コンバインドガスタービン火力発電所は、フランスの原子力発電に比べて、約20〜25%のコストメリットを有しているというのでフランスのEDFでは、2002年までに原子力発電コストを少なくとも20%削減して、現在の19.2サンチーム(3.07円)/kWhから15.4サンチーム(2.46円)/kWhにするとともに、2003年までに30%の経費を削減すると公式に発表しました。

わが国の場合は天然ガスが海上輸送になるため値段がヨーロッパの3倍になります。またパイプラインも未整備で、熱利用との併用も難しく、そんなに簡単には安く普及しないのではないでしょうか?

又、原子力もAP1000やABWRなどが1000〜1250ドル/kWと現在の半額の値段を提示してきています。こうなれば原子力はコンバインドサイクルに経済上も勝てます。

 

電力自由化の時代に対応し、電力費を出来るだけ安く抑え、わが国産業の国際競争力を高めるよう努力すべきであるとの考えはまったく賛成いたします。EDFでもやったのですから。

豊田様にお聞きしたいことは以下のことです。

@どうして原子力が一般の火力などと同じ部品を使っても3倍になるのですか?

A経営者はそれでもなぜ文句を言わないのですか?

 

5.核兵器解体に伴うPuを他人事に済ませていいのか?

  「産業会議としても、他国のPuの心配をする前にわが国のプルサーマルの実現のために全面的に協力すべきである」とのご指摘ですが、原産会議は本年の年次大会をプルサーマル実施の渦中である福井県で開催し、核燃料サイクルの推進をアッピールし、関電の藤社長の福井県知事へのプルサーマル申し込めを背後で支援いたしました。そうして、私はプルサーマルに反対する豊田様の説得に当たっています。張本人の電力よりちゃんとやっています。

 

 ロシアの解体核問題はわが国の安全上の重要な問題ですし、テロが横行する世界の重要な安全問題です。他国のプルだといって、ドイツやフランスだけに任せ、他人事でいいのでしょうか。被爆国日本は原爆の悲惨さを知っています。わが国原子力の原点は平和利用でこの悲惨さを償おうとしたのではないでしょうか。わが国もABWRやAPWRのような世界一の優れた技術があるのですから、早く、プルサーマルを実現して積極的に協力していくべきと考えますが。プルサーマルは何も経済性だけではなく世界平和に役立つものです。如何でしょうか。

 

  地域住民の理解を得ながらプルサーマルを進めるためには、先ず、1/3炉心から初め、炉心特性を確かめながら段階的にプルトニウム含有量を増やしてゆく方法を取るべきであるという事は全く同意いたします。 ただ、日本はフランスやロシアが今だできないフルMOXの技術を持っていると言うことを誇りにすべきで、これを世界平和に役立てることが大切と思います。

                       以上