EEE会議(Re:核燃料サイクル政策論争:豊田氏→永崎氏).......2003/7/8

皆様
 
標記テーマに関する永崎隆雄氏(原子力産業会議)の再コメント(7月6日)に対し、再び豊田正敏氏から次のようなメールを頂きました。ご参考まで。 なお、現在の核燃料サイクル政策論争は3月初めに「ふげん判決について」とか「日本の原子力開発の進め方」とかいう表題で始まり、以後今日まで断続的に続いているもので、途中からEEE会議に参加された方には分かりにくい場合があると思いますが、これらのバックナンバーは当会議のホームページ(http://www.eeecom.jp) にすべて掲載されておりますので、必要に応じ適宜ご参照ください。ユーザー名はbacknumber, パスワードはroseです。
--KK
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 永崎氏からの再質問に対して以下のように回答します。
先ず、私の核燃料サイクル政策に関する考え方及び従来の経緯については、月刊誌「エネルギー」の昨年10月
号に詳述しているのでそれをよく読んでいただいてから議論されたい。
私の考えを要約すると、
『英仏への再処理委託に伴って返還されるプルトニウムは、米国始め関係諸国の核転用に対する疑念を晴らす
ため「余分のプルトニウムは持たない」との国際約束をしていることからも出来るだけ早くプルサーマルで燃
やさざるを得ない。
また、六ヶ所再処理工場は、現在、原子力発電所に大量の使用済燃料が貯まりつづけており、もし、再処理し
なければさらに使用済燃料が貯まり、大部分の原子力発電所が停止に追い込まれ、大停電となり、国民生活及
びわが国経済に深刻な打撃を与えることになるので、当面、再処理を続けざるを得ない。
然しながら、ウランの需給は緩んでおり、価格は安い状態が当分続く見通しであるのに対し、再処理費及び
MOX燃料加工費が、従来予想値の数倍になっているので、プルサーマルは従来の予想より極めて割高となって
来ている。しかも、高速増殖炉は実用化の見通しが不透明になっている。このような現状を考慮すると、中長
期的には、ウラン価格が安い間はウランを燃やし、使用済燃料は40~50年間長期貯蔵し、長期貯蔵された使用
済燃料は、
40~50年後の時点に、ウラン価格が上昇し、かつ、高速増殖炉またはプルサーマルが経済的になっておれば、
再処理・プルトニウムリサイクルを行い、それらが経済的になる見通しがなければ、直接処分を選択肢とすべ
きである。このためには、先ず、原子力委員会が、長期貯蔵を有力な選択肢とする政策変更を行い、ついで、
地元に原子力発電所の敷地内に貯蔵施設を作ることを了承してもらい、電力会社が貯蔵施設を完成させるとい
う3段階が必要である。従来原子力委員会が地元に使用済燃料は必ず再処理工場に運び出すとの約束をしてい
る経緯もあり、地元の了承を得て貯蔵施設完成までには、少なくとも10~15年かかると考えられ、その間は
再処理を続けざるを得ない。』

1&2. 私が東電の原子力本部長時代に日本原燃(株)より六ヶ所再処理工場の計画建設費は、8,400億円との説明
を聞き了承した。その後、日本原燃に移って詳細設計が進んだ段階で建設費を見直したところ、どうしても約
2倍の1.7兆円になるので、8,400億円の内訳を問いただしたところ、内訳は何ら根拠のないでっち上げのもの
で通産省の役人から再処理プロジェクトを進めるためにはそのくらいの金額にしなければ進められないとの指
示に基づいた数字であることが判り、おまえたちは電力会社を騙していたのかと激怒したが後の祭りであっ
た。
 1.7兆円の建設費で進めるべきかどうかについては、判断に迷い電事連の社長会議の判断を仰いだことは既
に述べたとおりである。当時、原子力委員会は、原子炉設置許可申請にあたり使用済燃料の再処理の当てのな
いものは申請を受け付けないとの態度で、私も何回か電力会社からの要請により、六ヶ所で再処理を引き受け
るという確約書に署名した記憶がある。中間貯蔵が出来ない当時の状況では、使用済燃料の量を減らすために
再処理せざるを得ないという事情があった。また、当時は、MOX燃料の加工費はウラン燃料の2~2.5倍に収まる
と考えており、かつ高速増殖炉の実用化の可能性もあると考えられており、高速増殖炉の実用化までの10~15
年程度の期間であれば、プルサーマルもやむをえないと考えた。
 しかし、その後、MOX燃料の加工費がウラン燃料の4倍となり、プルサーマルが極めて割高となる一方、高速
増殖炉の実用化の見通しが40~50年後にも不透明になっている現状では、40~50年の長期間に亘り、極めて割高
なプルサーマルを続けることになるが、これは社会的に許されることではなく、当然見直しを行うべきである
と考える。
  私が今回、不退転の決意でこの問題に取り組む契機になったのは、上述のような状況変化が起こっているに
も拘わらず、原子力委員会が、福島県知事の「ウラン価格が安い間はウランを燃やすべきであり、核燃料サイ
クル政策を国民レベルで論議して見直しを考えるべきである」との意見を全く無視して、理由にならない理由
を並べ立てて従来の政策に固執し続けておられることにある。地元住民特に知事の意向を無視しては、原子力
開発の円滑な推進は出来ないことに対する認識が全くないことに問題がある。

3. 私の経済計算は、OECD/NEAと同じ計算手法によって計算している。この計算手法について勉強されること
をお薦めする。なお、西独の電力会社がケルン大学、エネルギー経済研究所に委託して試算した結果、MOX燃
料の加工費を2350ドル/kgHMと仮定すれば、再処理費が200DM/kgU(1500万円/kgHM)以下でなければ、プルサー
マルは経済的にならないとの結論を得ている。これが西独の電力会社が2000年以降の英仏への再処理委託の新
契約をペナルティを払ってまでもキャンセルし、直接処分に切り替えた理由である。なお、私の計算には、
MOX燃料を採用することによる燃料税の増加分(税率を同じとすれば4倍)、保障措置費及び厳重な物的防護対策
費特にMOX燃料輸送にあたっての巡視艇または軍艦による護衛費は含まれていない。
なお、私は経済性のみが判断材料であるとは考えていないが、電力自由化により、電力コストの低減の要請が
高まる中で、経済性に十分配慮すべきは当然である。従来、原子力委員会がプルサーマルについてメリットと
して主張してきたエネルギー・セキュリティ、核不拡散、環境負荷低減などは何れもその理由が不適切であ
り、経済的に極めて高いのに対し、何らのメリットも無い。再処理・プルトニウムリサイクルは、高速増殖炉
が実用化されて初めて意義がある。この実用化の見通しが40~50年後にも不透明なところに問題がある。 この
高速増殖炉の実用化時期については、原子力委員会及びJNCに対し具体的実施スケジュールを示した上で確約
できる実用化時期についての見解を再三にわたり要求しているが、今なお明確な解答がない。先般の私のJNC
の中神氏へのコメントに対する返答もまだ頂いていないので中神氏に是非解答されるよう要請する。特に、高
速増殖炉の実用化時期に関する部分を再掲すれば、『私は、各段階ごとの確信の持てる詳細なスケジュールを
お聞きしております。例えば、要素技術開発では、各要素ごとにどのくらいの期間に安全性、信頼性の確認が
出来るか、見積価格徴収後の見積審査及びメーカー選定、詳細設計、立地選定、地元了解、安全審査、建設据
付、試運転、運転開始後の実証期間等を示して欲しい。軽水炉でさえ、新設プラントの場合、計画から運転開
始まで少なくとも20年かかっていると言う事実を考慮されたい。また、新しいプラントの場合、運転開始後数
年間はトラブルが多発し、その際、今回の「もんじゅ」のように長期間停止することもあり得ることを考慮す
べきであります。
 また、私は、「もんじゅ」に続き、実用化までに実証炉、実用炉(パイロットプラント)の2段階が必要と考
えておりますが、実プラントのみでよいと考えられた理由をお聞きしたい。それで電力会社が高速増殖炉の商
業プラントに踏みきれるとお考えでしょうか。』

4. 原子力発電がコンバインドサイクル火力に比べて高いことは電力会社に聞いてもらえれば判ることであ
る。原子力発電原価特に燃料サイクル費が国際価格に比していずれも約3倍である現状を改善するためにはど
うすべきかについては、月刊誌「エネルギー」6月号の「原子力開発の進め方に関する提言」を参照された
い。
 私は原子力は危機的状況にあり、今のような状態が続けば、原子力産業は衰退の一途を辿ると危惧してい
る。原子力産業会議も具体的打開策を真剣に検討すべきではないでしょうか。

5. わが国には、英仏への再処理委託に伴って回収される32トンのPuがあり、米国初めアジア諸国の核兵器転
用の疑念を晴らすため、「余分のプルトニウムは持たない」との国際約束からも出来るだけ早くプルサーマル
によって燃やす必要があるが、地域住民の十分な理解が得られず、思うように進んでいない。おそらく、3~4
年後に3~5基は可能になるであろうが、32トン全部を燃やすには10年程度かかるのではないかと考えている。
 ロシアの核兵器解体に伴うPuについては、自国のプルサーマルも思うように進まない現状では、他国のPuの
処理について論議すること自体どうかと思うし、地域住民及び一般国民の理解が得られるとは考えられない。
また、核兵器解体までは、プルトニウムないし濃縮ウランを厳重の管理するのが核保有国の責務である。プル
サーマル及びMOX燃料加工の経験はフランス及びドイツのほうが遥かに豊富であり、かつ、距離的にもロシア
に近いので、核拡散防止の観点からもこれらの国に任せるのが適当と考える。この点は見解の相違で、これ以
上論議するつもりはない。なお、「わが国には、ABWRやAPWRのような世界一の優れた技術がある」と
いっておられるが、プルサーマルの全炉心は他の炉でも制御系を変更すれば十分可能で難しい技術ではない。
むしろ、豊富な経験のほうが重要と考える。                           以上

豊田正敏
toyota@pine.zero.ad.jp