EEE会議(ワークショップ「どうする再処理?」概要報告)............................................2003/7/15
皆様
 
先にご案内しましたように、「地層処分問題研究グループ」と称する民間団体(故高木仁三郎氏の流れを継ぐ反原発・反プルトニウム団体)の主催によるワークショップ「本音で語る原子力政策 Part I どうする再処理?」が、7月12日午後都内で開催されました。 200名近い聴衆を前に4名の専門家がそれぞれの立場から論陣を張り、なかなか白熱した雰囲気でした。小生も途中から傍聴しましたが、非常に有益な議論であると思いましたので、とくに、原子力推進の立場でパネリストを務められた河田東海夫氏(JNC)にお願いし、議事概要メモを作っていただきました。詳細は添付のメモをご覧下さい。ただし、このメモは河田氏ご自身が直接書いたものではなく、また全くの非公式のものでありますので、外部に引用されることはご遠慮ください。
 
なお、河田氏によれば、4人のパネラーの基本的な意見は、以下のとおり要約できるとのことです。ご参考まで。
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藤村氏: 再処理モラトリアムから脱原発へ。しかし推進・反対双方が真摯に議論をした上で現実的な着地点を。
河田:  原子力への永続的利用が必要であり、リサイクル実現に向けての努力継続が必要。
飯田氏: 国のエネルギー政策は空洞化しており、原子力はすでに敗戦処理段階。再生可能エネルギーとエネルギー効率向上で持続的社   会構築を。
長野氏: 原子力推進は必要。しかし不確実な状況の中で、不可逆的選択は避けるべき。再処理については「原子力ビジョン」再構築まで一旦立ち止まるべき。
 
司会の米本さんは、ご当人もおっしゃっていたように、今回はご自身のご意見を述べることは極力差し控え、司会役に徹したご様子。
 
今回は、技術論では反対意見側の迫力不足という気がしました。しかし、本当の議論は、技術論ではなく、価値観の衝突でしょうから、今回はその前哨戦にすぎないということができるでしょう。
 
今回のワークショップの主催者でもあり、パネリストにもなった藤村氏は、ご本人も明言されているとおり、基本的には脱原発ですが、不毛な感情論ではなく、冷静な議論の中で、何とか議論のかみ合う所を見つけつつ、答えに近づきたいという、真摯な姿勢には敬服しております。
 
JNC 河田

 (添付ファイル)

「ワークショップ 本音で語る原子力政策 Part1 どうする再処理」傍聴メモ

 

    平成15年7月12日(土)13:2016:20

    星陵会館ホール(永田町)

    主催 地層処分問題研究グループ

    151名参加 (女性2030名 様々な年齢層)

    司会

    米本 昌平(科学技術文明研究所長)

    パネリスト(50音順)

    飯田 哲也(NPO法人 環境エネルギー政策研究所)

    河田東海夫(核燃料サイクル開発機構勤務)

    長野 浩司(原子力若手技術者勉強会/原子力未来研究会)

    藤村  陽(京都大学/地層処分問題研究グループ)

 

【開会のあいさつ】(志津里:地層処分問題研究グループ)

    HLWの地層処分の問題について本音で議論することを目的とする。

    まず入り口の再処理について本日議論。

    原子力は時期的も重要。

    高木基金により本ワークショップを開催。

 

司会(米本)

    臓器移植問題さらに地球温暖化問題への取り組みからエネルギー政策に取り組む。国際交渉の枠組みにおいて、科学データの重要性を認識。

    本日はパネリスト間のやりとりを中心とする。本日の議論及び今後の議論の場においてフィードバックするため、配布した用紙にご意見を書いて頂きたい。

 

【パネリスト問題提起】(各パネリストが、スライド(パワーポイント)により各10分で論点を説明)

(藤村)

原子力撤退を選択肢に含む可逆路線への転換。全量再処理路線は硬直した不可逆な進めかたであり凍結すべき。最終的には脱原発を目指すべきと考えるが、その過程は民主的に。そのためにも賛成・反対双方の本音の議論の場が必要。

(河田)

原子力の永続的利用が必要であり、直接処分はわが国では両立せず、使用済燃料の長記貯蔵は、判断先延ばしとなる。リサイクル実現に向けて努力を継続すべき。

(飯田)

国のエネルギー政策は空洞化しており、原子力はすでに敗戦処理段階。持続可能な社会の視点から、原子力・再処理によるリスクを事前回避し、再生可能エネルギー+エネルギー効率化を政治的に実現すべき。

(長野)

原子力の短期的な必要性(エネルギー供給)と長期的な必要性(地球温暖化への対策)の変換点を認識した上での原子力政策の見直し、不確実な状況下でのリスク回避のための可逆的な選択を念頭に、再処理については利用形態を検証することにより、原子力政策再構築の時間を確保すべき。

 

【パネリスト討論】

1.         エネルギー政策のあり方

(河田)

化石燃料の有限性と再生可能エネルギーが基幹電源の安定供給源になるには程遠いこと、について追加説明。化石燃料枯渇時代に向けた備えが必要。

(米本)

会場からの「代替エネルギーで見通しが得られるとの根拠が示されていない」との意見を紹介。

(河田)

エネルギーについて市場原理を最優先することには反対。長期的視点が必要。

今後需要側を野放しにするのではなく、コントロールする努力は必要。その上で再生可能エネルギーと原子力が協調して持続可能なエネルギー供給体系を創るべき。

(飯田)

市場原理最優先との意見ではない。諸外国では90年代にエネルギー政策のイノベーションがあったが、米国は今や自然エネルギー利用後進国である。一方、ドイツは原子力を総発電量制限方式で撤退させることを決めながら、世界一の風力発電国となっている。スペインは風力発電は世界第2位の実力、スウェーデンもバイオマスエネルギー活用を進めている。また、エネルギー利用の効率化を図ることで、エネルギーの利便性を向上させながらエネルギー消費量を低減させることが可能。電力、車だけでなく熱利用の効率化も重要。住宅の断熱性改善は熱利用の面での省エネに効果が大きいが、そうした面については日本は全く無策。

(長野)

技術的な理想を社会がすべて受け入れるにはギャップがある。飯田説で全国民を説得して回るわけにもいかない。原子力政策を見直し、新エネルギーの見通しとあわせて実現可能な目標を設定することが重要。

これにより原子力と新エネルギーのシナジー効果(互いに補完しあう)も期待できる。

(飯田)

原子力はこれまで何十年も進めてきたわけであり、新エネルギーとは前提が異なり、対等に比べるのはおかしい。原子力は政治的な現実性に欠ける。また政府の新エネ開発の進め方も空洞化している。NEDOは新エネ版動燃と言われている。

(河田)

飯田氏の意見にほとんどの部分に同意できる。唯一異なるのは原子力から撤退すべきという点。原子力撤退は化石燃料の早期枯渇につながり、円滑な持続的エネルギー供給体系つくりを大きく混乱させる。

(飯田)

新エネとエネルギー利用効率化で原子力を減らすことが可能。

(米本)

推進側と反対側の互いの勝ち負けではなく、論点について認識を共有し、弱点を洗い出し合い、手を抜かないような理論武装に結びつけ、エネルギー政策へと反映させることが重要。

 

2.        再処理をどうするか

(藤村)

プルサーマルの場合、使用済燃料の蓄積は抑制できても、一方で同量の回収ウランが蓄積する。

(河田)

回収ウランは遮蔽の問題がなくコンパクトに貯蔵でき、将来はFBRで利用可能。再処理ではガラス固化体が蓄積するが、使用済燃料に比べはるかに安定で、発熱量も小さいため、少ない面積でより安全に貯蔵できる。六ヶ所では、再処理工場で出るガラス固化体の貯蔵施設を建設する場所もすでに用意されている。

(藤村)

Puをどう使うかに問題が残る。プルサーマルの場合、MOX製造施設や第2再処理工場など、新たな施設が次々と必要となり、路線が硬直する。

(河田)

プルサーマルは完全リサイクル実現のための第一ステップであり、MOX製造施設や再処理工場は、そのサイクル実現のためにはじめから必要とされている構成要素である。それを必要なところから順次実施に移していくということであり、そのことをもって硬直と言うかどうかは考え方の問題。

プルサーマルだけではエネルギーの有効活用の観点で不十分であり、FBRサイクルまで結びつけることが重要。

(藤村)

プルサーマルの使用済燃料を再処理した場合、通常の軽水炉再処理に比べAm-241Cm-244の放射能は約10倍となり、ガラス固化体の発熱量は約2倍となるとの試算結果がある。この場合、ガラス固化体への高レベル廃液の添加量を半分にするか、処分場の面積を何倍にも大きくすることが必要。

(河田)

プルサーマルを行うと、全体の燃料のうち約1割がMOX燃料にとなってバランスするので、再処理の割合もMOX燃料が1割となる。ウラン燃料だけを再処理して得られるガラス固化体の50年冷却後の発熱量とMOX燃料再処理廃液が1割混じった固化体のそれと比べると、後者が若干増えるが、数年冷却期間を延ばせば同じになる。現実には六ヶ所工場ではMOX燃料再処理の許可を取っていないので、MOX燃料の再処理が後回しになる可能性が高い。そこで、MOX燃料の再処理を30年遅延するケースについても評価してみたが、Pu241の崩壊で蓄積するAm-241の発熱増分はあるが、それでも10年冷却期間を延ばせば同じになる。これは受け入れ可能な範囲と考えてよいだろう。

(藤村)

今までの政策のままで、六ヶ所の再処理工場を操業させると、いろいろな問題がある。例えば、I-129TRU廃棄物に含まれ、可溶性で吸着しにくい核種であることから評価上の支配核種となり、高レベル廃棄物なみの対策が必要となる。しかし、TRU廃棄物の処分場は決まっていず、再処理工場やMOX製造施設のすぐそばに処分するのではと懸念される。

長期的なプランを示すという点で、信頼が得られていない。

(河田)

TRU廃棄物への対策については、これまで原子力委員会の場で検討されており報告書が公表されている。現在は安全委員会の場でも検討されている。

I-129の問題についても報告書に言及されている。廃棄物中の濃度に応じて適切な処分深度を選ぶという考え方が示されており、ヨウ素は高レベル廃棄物と同じ程度の深度に処分されることになる可能性が高い。

(藤村)

再処理工場を動かしてみてから処分について決めますよでは今までの失敗の繰り返しとなる。

(河田)

その点については2つの答えがある。

@    後始末の問題については、ほかのすべての産業でも、必ずしも産業が起こった時にすべて始末まで見通していた訳ではない。家電製品のリサイクルもようやく最近始まったところ。

A    拙速に処分を行わなくてよかったという考えもある。倫理的問題を含めて国際的に処分に関する基準や考え方の整理が進みつつある。早い時期から処分を実施した国の中には、今の基準に合わせて環境修復などでやり直しを行なっている例がある。遅いのは事実だが、きちんとした基準や考え方が整理されてきたので、今から地道やっていけばよい。

(長野)

技術の再確認が必要。一端立ち止まるというのが藤村、飯田、長野の見解。

(飯田)

六ヶ所再処理工場と長期的な再処理をどうするのか。これらについて誰がどれだけ金を払うのか。このままの路線で進むことについての論理的な説明がなされていない。

今まで30年をかけてFBRはものになっていない。

六ヶ所再処理工場は、建設費が1900億円から2.1兆円へと増え、運転すると16兆円かかるとの報道がある。オープンな市場主義で誰が最終責任を負い、誰が高いものから買うのか、経済論理からはあり得ない。

(藤村)

私のスタンスは、再処理について不可能と言っている訳ではない。話し合いによりボタンのかけ違いを先に解消すべきであり、それから再処理を運転することでよいか判断すべき。

(河田)

透明性を確保した意思決定のあり方については今後も議論が必要。どういう場でどういう議論をすればよいのかについては今はきちんとした答えを持ち合わせていない。究極的には住民投票という考えもあろうが、公共的に必要であるがNimbyの問題がある件については、住民投票の範囲を細分化していけば必ず反対が成立し得るという意味で、それがよいとは思わない。

(藤村)

現実にあるのはNimbyではなく、Not only in my back yard だと認識している。反対しているのはおかしいとするのではなく、反対意見のあることを理解した上でどう議論したらよいかではないのか。

 

3.       今後のオープンな意思決定に向けて

(米本)

このようなオープンな議論は有益。国の議論の場では賛否の締め付けが厳しい。民主主義が機能するため裾野を広げるインフラ構築のための研究が必要と考えられる。今後の意思形成のためどのようなプログラムが必要か。

(飯田)

再処理の是非やエネルギー政策について経済的、社会的、政治的なオプションについて比較検討することが重要。電事連、NGO、電中研、JNCなどにおいて共通の課題設定で検討し、それぞれの議論の違いについて比較検討すべき。

(長野)

重要な論点についてパネリスト間で共有できた。次の検討の場へとつなげていくべき。

(米本)

その場では「いい話」で終わっても、なかなか次につながらない。

(藤村)

まだ議論をしてもよいのかなという段階。意思決定に向けた議論ができるようにするための事実確認が必要。そのためのモラトリアムの期間を設けるべき。

(飯田)

電力も説明責任を果たすと言っており、国を含めたオープンな議論の場が必要。電力はこのままでは市場原理によって潰れるとの危機感があるが、人、物、技術が電力に囲われており、情報には大きな格差がある。どういう形で今後ルールを作ったらよいか、試算を踏まえた自由な議論により、目に見える形で示していくべき。私の経験からすれば、原子力だけが密室で政策などが考えられている。国土交通省やNTTなど国民の前にオープンにさらされている。

(河田)

先ほどから再処理には16兆円の未算定コストがあり、大変だという話が出ているが、その額だけをとって騒ぐのではなく、その影響度がどの程度かを理解する必要がある。H11年原子力部会モデルによる試算では、原子力の発電原価が5.9/kWhであり、そのうち再処理費は0.63円とされている。仮に報道されているようなコストがすべて再処理費に転化されたとしても、その再処理費がせいぜい倍になる程度。石油や天然ガスによる発電コストの燃料費の変動による変化に比べはるかにマイナー。

(米本)

あらかじめ計画どおりにうまくいくというものは少ない。技術的な失敗があればそこから学びとり、今後どうすべきかに結び付けていくことが重要。

 

4.       パネリストから結びの一言

(長野)

電力自由化にはメリットとデメリットがある。電力自由化と整合のとれた形で原子力のあるべき姿を見直し、その中で再処理はどうあるべきか位置付けていくべき。

(藤村)

電力自由化という考え方だけでよいか。原子力を止めるという立場からすれば、経済面だけではなく、もう少し優しい社会を描いている。反対する側だけで止められる問題ではない。再処理は凍結すべき。

(河田)

私の個人的意見は再処理は止めずに進めるべき。サイクル路線は現状混乱しているが、プルサーマルは1/3炉心2基で年1トンのPuを消費できる。8トンなら16基でバランスがとれる。仏、独でもPuを燃やしている。地元の理解を得てこのような状況に至るまでにしばらく時間がかかると考えられ、再処理開始も多少遅れざるを得ない。この時間的裕度を利用して原子力の必要性や再処理のコストについて再整理し、電力自由化と原子力の両立の問題を含めた、議論を広い関係者間でキチンと行い、その過程が広く国民に見えるようにすべき。

(飯田)

地元リスクという言葉がある。国策に地元が反対することにより受ける地元リスクのこと。自由化は政策決定プロセスを閉鎖的なものからオープンなものへと導き、公共事業を第3セクターが食い破る。これまでは古い政策決定の考えに基づいており、企業のため、経済発展のためという考えで行われてきており、環境や持続性という視点で遅れがあった。政策決定は、地元リスクやNimbyなどという言葉で住民意識を軽視し上から下へ投げつけるようなものではない。

 

【会場からの質問 1件】

プルサーマルの使用済燃料を繰り返し再処理している実績のある国はあるのか。

(河田)

再処理が進んでいる仏でも1回のリサイクルにとどまっている。これは、フランス自身、使用済燃料の排出量より再処理能力が若干下回っているため、当面MOX燃料の再処理は後回しということ。ただし並行してCEAが軽水炉での多重リサイクルについての研究を進めている。究極的にはFBRでの活用が考えられる。

 

【閉会のあいさつ】(志津里)

秋にPart Uとして高レベル廃棄物の地層処分に関するワークショップを予定している。

以上