EEE会議(Re: 核燃料サイクル・オプション論争:永崎氏→豊田氏).....2003/7/18
皆様

標記の件に関する豊田正敏氏の再質問(7月16日)に対し、永崎隆雄氏から次のような回答をいただきました。ご参考まで。
--KK
 
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以下のとおり回答いたします。
 
<豊田様の質問>「私の説明ないしコメントに対し、賛成か反対かを各項目毎に明確にし、反対のものについては、私の説明を理解した上ですれ違いにならない反論をされるよう要請します。」
 

<回答>私の言っている反論の要約は以下です。豊田様との不同意と同意を明記しました。
 
@ 石油火力や石炭火力や水力に比べプルサーマルは安いし、ワンススルーより将来世代に残す高レベル廃棄物の量と無害化時間がはるかに優れている(豊田様不同意)。
 
A プルサーマルが1円/kWh高くなるからと現世代の後始末を長期貯蔵で回避し、将来世代に残すのはおかしい。(豊田様不同意)
 
Bプルサーマルの価値は単なる大停電防止にとどまらず、国産エネルギーであり、ウラン価格を値上げさせないバーゲニングパワーとなり、燃料の多様化による経営の安定化や解体核の燃焼処分や高速炉の初装荷Puの供給や科学技術立国の新原子力産業作りに役立つ(豊田様不同意)。
 
C 経済性第1だけが経営ではない(豊田様同意)。将来世代の繁栄、社会責任も果たさねばならない(豊田様無回答)。電事連の経営者はプルサーマルを実施するといっている(豊田様不同意)。
 
D再処理が安くなるまで貯蔵し、待つのでは安くならない。事業をしながら改善し、新しい価値を創造して行く中に他国との国際競争力が生まれる(豊田様無回答)。
 
E総括原価主義的に国民に追加負担をまわさない(豊田様無回答)。
高価な石油火力を、安価な原子力に転換するなどの経営改善でコストを下げて、将来世代に使用済み燃料の処理負担を残さない(豊田様無回答)。
 
Fプルサーマルはわが国エネルギー自立という高速炉プロジェクトの不可欠のステップであり、長期対策である。よって揺るぎなく実施するべきである(豊田様不同意)。
 
 
以下豊田様の各質問にお答えします。
 
1. 「日本原燃の社長豊田様が激怒した相手は通産省でなく日本原燃である事」
<回答>
訂正とお詫びをいたします。勘違い、申し訳ありません。
 
2. 「総括原価主義でいくら高くなってもよいと考えていたなどという失礼な質問は取り下げられたい。」
<回答>
失礼いたしました。いくら高くなってもよいとは考えてはいませんでした。
ただ、豊田様はその負担が国民に行くという風に無意識的に総括原価主義の考えが残っています。
国民には負担増を求めない以下のようなコストダウン策があるのではないでしょうか。これが今後の市場経済の自由化ではないですか?
@高価な石油、石炭、水力の発電割合を減らし安価な原子力、天然ガスの比率を増やす。
A米国のような合理的法規制を導入して、保修工事を合理化し、稼動率を米国並に92%にする。
 
以下に原子力の比率を上げたときの平均発電コストの試算をしました。
原子力を51%、天然ガスを30%にし、プルサーマルを採用した場合の全電源平均発電コストは6.86円/kWhになり、2001年電源構成でのワンススルー方式の平均発電コストは7.12円/kWhより安くなります。
 
 原子力発電比率上昇による平均発電コスト低減
            石炭  石油  天然ガス  水力  原子力(ワン/プル)    
                                  
発電コスト円/kWh   6.5   10.2   6.4   13.6  5.67/6.15  
                                      平均発電コスト円/kWh       
                    発電 割合%        ワンススル−  プルサーマル
 2001年実績       21     8    27    9    35     7.12      7.29
 2011年電事連    19     8    23    9    41     7.07      7.27
 コスト低減策       10       2     30     7    51      6.62      6.86 
 
 
3.豊田様の考え「プルサーマルは著しく高くなっており、使用済み燃料は長期貯蔵し、安くなるまではプルサーマルをやらない。“余分のプルトニウムを持たない”との国際約束もあり、プルトニウムを回収しない。」に反対します。4点指摘いたします。
 
@ プルサーマルの経済性は既に商業化できるまでになっている。
何故ならば原子力のプルサーマル約6円/kWhは今でも、10円/kWhの石油火力や13円/kWhの水力に比べ遥かに安い。
 
A 再処理をして行くうちに経験が蓄積され、又、競争相手も出てきて、改良が進み、価格が安くなる。起業なくして、コストダウンなし。
 
B 我々の世代では高いといって将来世代に我々世代の使った使用済燃料の処理を押し付けるべきでない。
 
C北朝鮮は貯蔵していた使用済み燃料からプルトニウムを回収し、原爆を造ろうとしている。この事実より使用済燃料の長期貯蔵は核不拡散上良くない。
 従って早く、プルサーマルで焼却処分するか直接処分するかが望ましい。
 核燃料サイクルの確立を目指すのなら直接処分はありえず、プルサーマルが好ましい現実的手段である。
 フランスはサイクル政策国であるためプルサーマルを採用している。ロシアの解体核はプルサーマルで処分する。
 
 
4.「小生の計算をチエックするつもりはないが、MOX燃料加工費及び高レベル廃棄物処分費の計算方法または前提条件に誤りがあるのではないかと思う。」
<回答>
私は豊田様の計算が間違っているとは言っていません。豊田様の数値を使って、一体、発電量当り幾らコスト上昇するのですか?といっています。以下の2点を考えていただくとkWh当たりそれほどの上昇にはならないことが分かります。
 
@プルサーマルの中でのMOX燃料は10%に過ぎません
A更に、石油や水力や石炭やガスの構成の中で平均化される
 
 そして電力もプルサーマルの実施が経営に支障はないといっています。安価な原子力の比率を上げるとか原子力の効率を上げることで充分コストアップは吸収できるはずです。

 
5.「再処理を今後も続ける必要があるのは、使用済燃料の量を減らし原子力発電所の停電を避けることが本音の理由であり、それ以外は考えられない。『将来世代への負の遺産を減らす』というのはどういう意味か私には判らない。」
<回答>
我々世代の使用済燃料を処理し、子孫に処理処分の高負担を残さない事です。
そして国際緊張をもたらすプルトニウムを含む使用済燃料を減らす事です。
何もしなくて自然に安くなる訳はないでしょう。再処理事業もこれから運転操業して、磨きをかけねば、
 
@安価で合理的な再処理技術や
A放射性廃棄物の短寿命無害化や
B解体核処分や
C高速炉への初装荷Puの供給や
D新アクチニド元素の製造や
E高レベル放射性廃棄物の放射線有効利用
 
等、新しい価値も生まれないし、新しい価値にも巡り合えないと考えます。
 
6.「プルサーマルが出来ない状況で、六ヶ所再処理工場で再処理を開始し、プルトニウムを回収すれば、国際信義に反しないといえるのか」
<回答>
 「使用目的のない余剰プルトニウムを持たない」という方針ですから、少なくとも電力はプルサーマルや核燃料サイクルを実施すると宣言しなければなりません。今、日本の原子力政策が「核燃料サイクルを実施しない」と方針をふらつかせるはずはありません。政府や電力は方針変更をしていません。プルトニウムの使用は日本の生命線です。日本は資源のない非核兵器国として大変な苦労をしてプルトニウムの利用が認められた国です。
 
7. 「電力自由化の時代を迎え、電力経営者は電力費を1銭/kWhでも安くし、日本経済の国際競争力を高めることがその責務であると考える。ウランが安い現段階ではウランを燃やし、長期貯蔵した使用済燃料は、40~50年後にウラン価格が上昇しかつ、プルサーマルが経済的になれば、その時点でプルトニウムを燃やす方が遥かに経済的に得策であると提案しているのである。」
<回答>
 現在だけでなく将来の準備もやらないと経営者ではないでしょう。
 イソップ物語の蟻さんとキリギリスさんです。
 ウランが安く、資金に余裕がある時に再処理事業を起こし、事業に磨きをかけ、将来に備えないと再処理も安くはならないし、ウランも安くならないし、競争力のある他国との差別化もできないでしょう。
 
8. 「わが国の核燃料政策の基本は、高速増殖炉・プルトニウムリサイクルであって、プルサーマルはそのつなぎとしてごく短期間しか許容されないと考えている。…・・プルサーマルが安くなるまでの間、長期貯蔵することを提案しているのである。」

<質問>
 短期のプルサーマルを長期貯蔵で安くなるのを待つ?矛盾しています。

<回答>
 プルサーマルが短期ではありません。
高速炉の導入は初装荷のプルトニウムが1GW当たり約6dPufくらい必要になり、軽水炉再処理からそれを供給せねばなりません。六ヶ所の800dの六ヶ所再処理工場がフルに動いて年間4.8dPuf位しか生産できませんから大雑把に言って1.2年間で1GWの高速炉導入の程度になります。
日本の原子力電源構成を50%程度まで上げるとして、原子力を約70GWとしますと大雑把に言って70年から100年は軽水炉再処理が必要になります。だから軽水炉再処理はそんなに短期にはならないでしょう。(別添図参照)
 
9.「MOX燃料加工費がウラン燃料の4倍のままであれば、再処理費が0.7億円/トン円程度でもプルサーマルは経済的にならないことは既に述べたとおりである。」
<回答> 
 豊田様の主張は使い捨て方式に比べ安くならないと言う事。私の主張は10円/kWhの石油等と比較したらプルサーマルは遥かに経済的であり、平均発電コスト7円に比べても、ずっと安いということです。
 確かに環境対策を実施しない使い捨てやそれさえも先延ばしする長期貯蔵は安い。しかしそんな事は許されません。脱硫装置をつけない石炭火力は日本では認められないでしょう。
 
10.「フランスの将来の再処理は放射能の放出基準がわが国並に厳しく規制されるので、UP-3よりも建設費が高くなると考えられる。今のような進め方で、六ヶ所再処理工場の寿命が来る20年後に、誰が第二再処理工場を作ることが出来るとお考えなのかお聞きしたい。」
<回答>
 第2再処理工場を安く作るには、まず第1再処理工場を運転して、設備の故障率や漏洩率のデータを採取し、初期の過剰設備を取り除く等が必要です。そして適切な利潤を確保しなければなりません。
 そのためには新しい設備維持基準等を導入し、設備建設者の一部を保修改善社員化し、設備の保修をしっかりとやり、故障トラブルを未然防止し、稼動率を向上させ、設備寿命を延長させる事が必要で、トラブル経験者による従業員訓練やフランスのローベルジョン・アレバ会長のようなしっかり利潤を確保できる経営者を招かねばなりません。
 そうして利潤と信頼性と新たな合理化のデータを獲得すれば、第2再処理工場が建設できます。運転放棄ではそもそも改良も利潤も生ぜず、何もできません。
 建設に当たっては従来のような20年に1基の巨大プラントにせず、1基の規模を小さくし、モジュ?ラ化し、メーカ側の受注を5年に1回程度に平準化し、習熟効果によるコスト低減と技術維持、雇用維持を図るべきだと考えます。そもそも再処理のような臨界管理制限で大型化が困難な工場にスケールメリットを適用してもそんなに効果はないでしょう。
 工場分散によるトラブル停止のリスク回避もできます。
 
 誰ができるかは勿論現在の日本原燃ですが、フランスのコジェマだって、イギリスのBNFLだって、ロシアのMINATOMだって狙っていませんか?
 
11 「状況変化により、柔軟かつ機動的に政策変更すべきである。ウランの需給が逼迫し、ウラン価格が異常に上昇すれば政策を見直すことは当然である。」
<回答>
 遠い将来を見ると安い石油も天然ガスも陸上ウランもなくなることははっきりとしています。そのため、高速炉開発等の長期の対策・準備は近時の出来事に一喜一憂せず、堅持していかねばなりません。
 原子力が停止したから石油を臨時に燃やすとかの今日明日の状況を見る部分もありますが、プルサーマルは高速炉に到る準備段階に位置付けられ、長期対策の一環ですから、方針をふらつかせてはいけません。
 
12. 「高速増殖炉の実用化時期については、権限も能力もない貴殿と討論するつもりはない。」
<回答>
私も税金を払っています。開発の時間短縮と経費節約を!
 
13. 「『原子力委員会が核燃料サイクルの意見を聞く意向である』のであれば、原子力会議に原子力委員、福島県知事、原子力未来研究会に私を加えたメンバーとの間で公開討論会を開催されることを要請する。」
<回答> 参考までに
原子力委員会の核燃料サイクルのあり方を考える会は昨年11月から9回開催されており、立地市町村長、電気事業者、ジャーナリスト、消費者、専門家、研究機関、及び行政庁からご意見を伺ったと原子力委員会ホームページに載っています。豊田様と同一意見の山地様も意見を述べていました。
 
14.「何故、中間貯蔵はよくて、原子力発電所敷地内の長期貯蔵は認められないのかお聞きしたい。また、貴殿が『長期貯蔵を認めないというのは事実に反する』といわれているのはどういう意味か聞きたい。」
<回答>
 発電所サイトでの使用済燃料貯蔵の増設に地元が了解していますか?
 豊田様のような経済性第1の人が言っているのでは、その時の経済性第1で長期貯蔵は永久貯蔵になってしまうと地元はとらないですか?これでは地元の了解は得られないと思います。
 中間貯蔵の貯蔵期間は40〜50年で豊田様の長期貯蔵の期間と一致しています。
 フランスでも中間貯蔵といっています。
 
15. 「前回、『地域住民の理解を得ながらプルサーマルを進めるためには、全炉心からではなく、先ず、1/3炉心から始め、炉心特性を確かめながら段階的にプルトニウム含有量を増やしてゆく方法を取るべきである』という私のコメントに同意されたと理解しているが、そうではないのでしょうか。」
<回答> 
 同意しています。しかし私は開発時間を短縮し、全炉心MOXに早く進め、コストダウンすべきだと考えています。豊田様は如何ですか?
新型転換炉ふげん等でもMOX燃料の世界一の使用実績もあり、軽水炉でもかなり試験データも取っています。それからABWRやAPWRは旧式軽水炉に比べ設計上、全炉心MOXが安全に容易にできます。又、日本全国にPuが拡散するより、数ヵ所で燃やした方が核不拡散上も良いのではないでしょうか?
 
以上