EEE会議(Re:燃料電池=水素エネルギー開発の問題点)近藤駿介氏............2003/7/19
 
標記メール(7/19)に関し、早速近藤駿介氏(東京大学大学院教授)から、次のようなコメントをいただきました。ご参考まで。 --KK
 
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原子力水素に関する堀様のご講演におけるご指摘の今後の課題の一つについて、最近の情報をお伝えします。
 
昨18日開催の総合エネルギー調査会基本計画部会においてエネルギー政策基本法の定める「エネルギー基本計画」素案の審議が行われました。これは今後、パブリックコメントに付されるとともに、引き続き審議され、省庁協議を経て数ヶ月のうちには閣議決定されるものですが、このうちの将来に掛る事項の節に分散エネルギー社会と並んで水素エネルギー社会という見出しのもとに以下の記述が入りました。
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3.水素エネルギー社会の実現に向けた取組
 水素は、その利用段階でゼロエミッションのエネルギー媒体であり、原理的には非化石燃料からも製造が可能で、その意味で環境的に望ましい二次エネルギーである。また、水素を利用した定置用の燃料電池の開発が進めば、電気と熱のバランスの取れた併給により高効率の分散型エネルギーシステムの構築が可能となる。一方、燃料電池自動車の開発が進めば、運輸燃料の代替化・エネルギー消費効率の向上が可能となり、NOxやPM等の有害物質を発生せず、二酸化炭素の排出も抑えられることとなる。
 さらに、パソコン、携帯端末といった電子機器への利用等、幅広い分野で燃料電池の利用が進むことが期待される。今後、水素を有望なエネルギー供給手段として位置付けていくため、大幅なコストダウンや長寿命化を目指した燃料電池本体の開発に全力をあげて取り組むとともに、水素を供給するためのハード面でのインフラ整備や、水素の製造・貯蔵・利用に係る規制の見直しを含めたソフト面でのインフラ整備のあり方を探求する。また、併行して、化石燃料の改質による水素製造技術の改善を進める。
 さらに、将来的には、例えば、原子力や太陽光、バイオマスを活用した水素の製造等、化石燃料に依存しない水素の製造が実用化することが期待される。
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この原子力水素については、審議の場で秋元委員(原文振)、西室委員(東芝)、柏木委員(農工大)から原子力による水素供給の可能性に留意するべしとのご発言がなされたことにもよるものです。ただ、小生としては、我が国においてはHTTRでの天然ガス改質による水素製造実証とIS法のプロセス実証試験が先駆的に計画され、今日これが世界の注目を集めていることを評価すると同時に、この計画活動が世界の最近の動きと離れていいることはもとより、国内のエネルギー研究開発活動からも孤立しているのではないかとの危惧の念を抱いています。この計画は少なくとも我が国の新エネルギー技術開発の一つに位置づけられ、今後はそこで切磋琢磨するべきでありましょう。そうでない限り国内的には展開が困難でしょう。実際、この基本計画でも技術開発の項目にはこれが取り上げられていません。
 
勿論、この基本計画における地位を確固とするためにも、現在計画中のデモンストレーション計画は重要ですが、その狙いは現在水素インフラを主催している組織が原子力利用に特別のリスク(地域社会の合意、廃棄物処理等のビジネスリスク)を過大に感じなくていいことを示すことにおかなくてはいけません。このためにもそうした人々との共同作業の重要性を改めて強調するまでもないでしょう。ネットワーキングの時代:ネットワークを通じて学習してイノベーションとそのリスク管理を行うことの重要性が強く認識されている時代です。特に巨額の公的研究資金を使っている原子力研究開発活動は、京都議定書のJIやCDMから原子力が除かれてしまったようなことが再現しないためにも、このことに敏感であるべきと考えるものです。
 
小生も、この記述の基本計画への織り込みを機会に、技術開発項目としても記載を求め(パブリックコメントの機会にコメントをよろしくお願いします)、HTTR計画が新エネルギー技術開発活動の一部に組み込まれるよう努力するつもりですが、皆様におかれましても、このことについて関係者の合意が得られるようご尽力をお願いします。
 
以上、堀様のご講演にある条件が、ささやかではありますが、実現しようとしていることをお知らせしたく筆をとり、ついでにいくつか希望を申し述べさせていただきました。
 
近藤駿介