EEE会議(Re:燃料電池=水素エネルギー開発の問題点)堀雅夫氏のコメント...........................2003/7/19
 
標記メールの続き。
記憶されている方も多いと思いますが、1,2年前に、浜岡原発の水素爆発事故にヒントを得て、「原子力で水素を造る!」という話題が当EEE会議で集中的に議論されたことがあります。その際、堀 雅夫氏(原子力システム研究懇話会)がいろいろ活発に発言されましたが、同氏は最近「エネルギー問題に発言する会」で、「原子力による水素エネルギー -- 内外における開発動向」と題する講演を行われた由。 その概要が、「発言する会」のホームページ(http://www.engy-sqr.com)の技術解説欄に紹介されておりますので、ご参考までに。 下記では図が欠落していますが、ご興味のある方はHPをごらんください。
 
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原子力による水素エネルギー -- 内外における開発動向 --
 
堀 雅夫(原子力システム研究懇話会)
     
   (エネルギー問題に発言する会での講演概要、2003.6.18)
 

1.    「水素エネルギー社会」における原子力の役割

水素を燃料電池の燃料などに使用する「水素エネルギー社会」実現への取り組みが多くの国で始まっており、今後水素に対する需要は急増すると予想される。水素は単体では天然に存在しないので、どのような一次エネルギーから水素をつくるかが課題である。

環境適合性を有する水素の生産手段は、実効的な炭酸ガスの処分方法が確立されない限り、持続可能なエネルギーである原子力と再生可能エネルギーであるが、基幹的供給には原子力が適している。原子力には、@持続的大量供給可能性、A二酸化炭素排出抑制可能性、Bエネルギー・セキュリティ、の特長があり、原子力利用の水素生産について各国で検討が始まっている。

原子力によるエネルギー供給量で見ると、21世紀の半ばには発電利用と同じオーダーのエネルギーが水素生産に利用されると見られている。一次エネルギーに占める電力生産の割合は現在、世界全体で約30%、将来は約50%が見込まれるが、残りは非電力の用途である。この非電力のエネルギー・キャリアーとして理想的な水素の生産においても原子力の役割は大きい。

2.原子力による水素の生産方法

原子力によりエネルギー・キャリアーの水素を生産する構想は1970年代から提唱され、日本では原研が高温ガス炉利用の一環として研究を続けてきている。2000年のOECD主催・原子力水素生産情報交換会議のころから、各国で研究開発が再び活発になってきた。

原子力利用による水素生産方法には、使用する原子力のエネルギー形態(電気、熱)、原子炉の温度レベル、炉型など各種あり、実用化時期、エネルギー利用効率、製造コストなど、それぞれ特徴・得失がある。日本を始め各国で究極の開発目標としているのは、高温原子炉を利用して水を原料とする熱化学分解法である。このほかに、電気分解法高温水蒸気電気分解法原子炉熱利用・天然ガス水蒸気改質法など各種の方法が提案、研究・開発されている。主な生産方法を図と表に示す。


                   
原子力による水素生産の主な方法

使用原料

原子力の

エネルギー形態

水素生産方法

方法

方式

 

 

 

 

 

電気

 

水の電気分解

アルカリ水電解質

固体高分子電解質

 

高温

 

水蒸気の電気分解

固体酸化物電解質

水の熱化学分解

I-S サイクル

UT-3 サイクル

化石燃料

化石燃料の

水蒸気改質反応

による水素生成

従来型高温反応

熱・中温

反応域水素透過膜

 

. 最近の米国などの動き

米国は、国家戦略として輸入石油依存から脱却し水素を輸送用燃料などに使用する「水素エネルギー社会」実現への取り組みを開始した。2002年1月に米国エネルギー省(DOE)はビッグスリー自動車メーカーと共同で水素燃料電池車の開発プロジェクト「フリーダム・カー計画」を開始し、2003年1月の大統領一般教書ではこのための水素燃料を生産するプロジェクト「フリーダム・フューエル計画」を発表した。また、3月にはCraig上院議員からアイダホに電力・水素生産のコジェネ原子力プラントを2010年までに建設する提案が出され、これはエネルギー法案に含まれて現在上院で審議中である。

また、米国の主導で世界10カ国が国際共同研究開発を行う第4世代原子力システム国際フォーラムでは、選択した6炉型の内4炉型を水素生産に利用するとして水素生産の研究開発ロードマップを作成している。


. 今後の課題

原子力水素生産の実用化までには、(1)他のエネルギーによる方法と競合可能な実用性・経済性、(2)市場からの要請に応える得る生産規模、(3)原子力の特長である持続的大量供給を満たす条件、(4)製造プラントの安全性、(5)原子力・水素生産方法の社会的受容性、(6)今後の開発におけるパートナーとなる業界、などの課題を検討・解決していく必要がある。

米国では原子力による水素生産を水素エネルギー開発利用の全体計画に統合し政策的に推進しつつある。我が国にとって、原子力による水素生産は21世紀の環境対策を含めた国のエネルギー戦略として米国以上に重要なものと考えられる。この技術開発および産業化が、水素エネルギー社会の基盤、環境、インフラの整備とともに、国のエネルギー基本計画・政策に組み入れられ、国際協力も含めて積極的に推進されることが望まれる。 

 [参考文献]

2    原子力水素研究会編・著 「原子力による水素エネルギー」 原子力システム研究懇話会<konwakai@jaif.or.jp>発行、180ページ(2002年6月)

2    原子力eye 特集「“水素エネルギー社会と原子力”、シンポジウムの要点」(原子力eye、2003年3月号)

 
 ☆関連したホームページ