EEE会議(Re:核燃料サイクル・オプション論争: 柴山哲男氏の意見)...........2003/7/21
 
現在進行中の核燃料サイクル・オプション論争に関連して、新たに柴山 哲男氏(エネルギー問題に発言する会、元三菱原子力)から大変貴重なコメントをいただきました。ご参考まで。
 
なお、同氏のご指摘のとおり、当会議でも、これまで色々な議論が行われてきましたが、ただ少数の専門家同士の議論や、「言いっ放し、聞きっ放し」では建設的ではありませんので、重要なテーマについては、時々議論を整理し、再吟味した上で、適当な形で外部に(とくに一般市民向けに)発表するというようなことをやってみたらどうかと考えております。そのため、近く「EEE会議運営委員会」(仮称)のようなものを立ち上げて、そうしたことも前向きに検討してゆきたいと計画していますので、引き続きよろしくご協力をお願いいたします。
--KK
 
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核燃料サイクル論議については以前私も参加させて頂きましたが、当事者間の議論
のやりとりに終わってしまったような感じもしました。今回は論議に一石を投ずる意
味で、私なりに今後の進め方に対する提案をまとめてみました。もとより不備な所も
多々あると思いますが、御批判を頂き議論の一助になればと考えております。なお、
長文になるのを避けるため、説明不足の点もあるかと存じますが、必要により補足説
明致します。

1 基本的考え方
 (1) 将来のエネルギー問題については非常に重要な問題であり、現状でのエネル
ギー需給状態のみでなく、将来の経済情勢、エネルギー受給状況、エネルギー資源の
見通し、環境問題などを見据えた議論が必要であると考えます。経済性については大
きな評価項目ではありますが、評価時点、前提条件、評価方法、国際情勢、経済情
勢、原材料価格、想定技術レベルなどによって変わり得るもので、常に注視は必要で
あり、判断の参考とすべきものではあるものの、経済性評価のみで将来の方向を判断
すべきではなく、どのような理念で考えるかが重要であると考えています。

 (2) 将来のエネルギー技術開発については、開発資源を効率的に投入するために明
確なターゲットを示して進める必要があるが、新技術開発には不確定要素はつきもの
であり、開発の進展に応じて弾力的に見直しをする必要があると共に、代案について
も(開発資源投入のレベルは別として)ある程度の検討を進めておく必要があると考
えます。また、代案を提示できることにより、将来のあり方についての論議も幅広く
展開出来ると思います。

 (3) 今後については日本一国の問題ではなく、国際的な視点、協力関係についても
視野に入れておく必要があります。資源、環境等は一国だけの問題ではあり得ない。
原子力については現在各国の姿勢は必ずしも一致しているとは言えないが、核不拡散
の問題を含めて方向付けが必要であると思います。また、開発についても国際分業な
ども検討が必要でしょう。

2 今後の原子力開発のあり方
  将来のエネルギー全体の問題としては、自然エネルギー、核融合、更には水素エ
ネルギーの問題等もあるが、ここでは原子力、特に核分裂エネルギーの利用に絞って
記載します。

 (1) 現在軽水炉については、自由化論議の中で議論もあるが、既に技術として定着
しており、その意味でウラン燃料の利用は既定事実になっているとして良い。

 (2) ウラン燃料利用に伴って発生するプルトニウムについては本来は燃料として利
用すべきであり、ウラン資源の有限性を考えれば、増殖利用が望ましい姿である。プ
ルトニウムの利用については核不拡散の問題と、経済性の問題とがある。この他に安
全性の問題もあるが、安全性は利用の前提であり、十分安全な取扱が可能と考えてい
るので、ここでは論議を行わない。ウラン資源については将来海水中のウランが利用
出来れば、資源的には問題はなくなると考えられるが、まだ基礎研究の段階であり、
研究継続の必要はあるが、経済性を含めて量産の可能性についての見通しが得られた
後に議論すべきと考える。

 (3) 核不拡散の問題については、現在北朝鮮、イラン(真偽不明?、この他にイン
ド、パキスタンも完全に理解が得られているとは言えない)の問題があり、若干不透
明な面もあるが、これらは何れ解決しなければならない問題であり、時期は別として
も何らかの解決は得られるものと考えている。むしろ問題となるのは、その後の国際
的な核管理体制の構築である。解決後の北朝鮮への軽水炉供与の問題もあるが、今後
ベトナムを始め発展途上国における原子力施設保有国が増加すると考えられ、従来の
枠を超えた国際的な核管理体制を構築する必要が生じる。原子炉保有国と再処理まで
の保有国との枠組みが出来る可能性もある。日本が再処理保有国になれば、保有国と
しての責務も生ずる。また、日本としては余剰プルトニウムは保有しないと公約して
いる問題もある。単体としてのプルトニウム保有については別として、使用済み燃料
中のプルトニウムと新燃料用のMOX粉末中のプルトニウムとの間に保有と言う意味
で差異があるのかどうかの疑問もある。これらを含めて再処理を放棄することは難し
いのではないかという感じもある。何とか再処理の経済性向上の路を探る必要がある
のではないか。

 (4) 再処理、プルサーマル、高速増殖炉の経済性の改善については最重要課題であ
る。価格の問題については次項でも議論するが、六ヶ所再処理施設、もんじゅ等につ
いては高価であることは否めない。特に高速増殖炉については実用化のためには経済
性向上が不可欠である。今後経済性向上を最重点項目として目標を明確にして開発を
進める必要がある。しかし一方で経済性が本格的に議論されるまで開発が進んで来た
と言うことも出来る。高速増殖炉もかっては夢の原子炉であった。夢が現実に近づく
につれて経済性に課題が絞られて来たとも言える。先の見通しをつけることも必要で
あるが、あまり種々の炉型を模索しても開発が進むにつれて経済性等の課題が顕在化
する可能性もある。現状では開発が最も進んでいるナトリウム冷却型を主案として、
もんじゅの経験を生かして進めることが早道ではないか。但し経済性向上の面で限界
が生じることもあり得るので、他の方式についても代案としてある程度の検討は進め
ておいた方が良い。なお、高速増殖炉の経済性として、軽水炉と同等であることが望
ましいことは確かであるが、軽水炉と競合すべきものかどうかは疑問がある。核燃料
サイクル全体の中で、経済性の位置づけを論議しておくことが必要である。

 (5) もんじゅ、六ヶ所などの建設費が高くなることについては、耐震など技術基準
が厳しいこと、競争原理が働かなかったことなどが挙げられているが、この他にも次
の理由があると思う。一つは日本独特の完璧さの追求である。シュラウドの問題とは
少し意味が違うが、少しの傷も許容しないという風土があるように思う。検査の完璧
さを考えれば多重の検査になる。同一の検査を5回以上も繰り返す例もある。この問
題は例は違うが賞味期限間近の食品が売れないという現象にも見られる。もう一つは
新型の初期施設についてのリスク負担の問題がある。発注者側と受注者側とがどのよ
うにリスクを負担するかについても検討が必要であると考えている。なお、競争の問
題についても単なる価格競争だけではなく、技術的な新提案を含めた形での競争も有
効である。BWRとPWRとの競合が日本での技術レベルを高めた面もあり、また高
速増殖炉でもタンク型、ループ型の競合から独自の提案が生まれたこともある。開発
にどのような形で競争原理を加味するかについても検討の価値があると考える。

 (6) 中間貯蔵施設は、原子力発電と再処理とをつなぐバッファとしての意味からも
重要である。むつの中間貯蔵施設(リサイクル燃料備蓄センター)については建設の
方向に少し前進したが、最大の問題は50年後頃の搬出をどう担保するかになってお
り、法的な担保を求めるという動きも出てきている。むつ施設の可動が2010年頃
とすれば、2060年頃には搬出を具体化する必要がある。仮に第二再処理工場を建
設するとすれば、リードタイムを30年として、2030年頃には建設の方針を固め
る必要がある。このことは2030年頃には高速増殖炉について経済性を含めて実用
化の見通しが立っていることが必要になる。同時に再処理施設の経済性向上の見通し
も必要である。残された時間は多くない。何もしないで待っていれば経済性の良い施
設が出来るわけではない。硬直した計画を立てろというつもりはないが、原子力委員
会として時間軸を入れた開発方針を明確化すべきではないか。

 (7) 2030年頃に高速増殖炉などの見通しがつかない場合、プルサーマルのみで
燃焼させるか、プルトニウム利用を断念(即中止ではなく、将来方向として)するか
等の決断を要する。この場合は増殖を放棄し、最終的にウラン燃料使い捨てになる。
直接処分についても以前指摘した通り多くの問題はあるが、ウラン使用済み燃料のみ
でなく、MOX使用済み燃料の処分を含めて重要な選択肢になる。プルトニウム利用
断念と処分場での永久貯蔵については日本だけの問題ではなく国際的な評価が必要で
あろう。ウラン資源の寿命については種々の推定があるが、最短で60年位、需要が
落ちていること、今後発展途上国での利用がどの程度になるかにもよるが、使い捨て
方式では21世紀が限度ではないか。核融合がその時点までに実用化されれば良い
が、トリウムサイクルなどについても考慮の必要が生じる可能性もある。この場合単
に炉だけの問題ではなくサイクル全体を最初から念頭に置いて方針を決める必要があ
る。

 (8) 以上、いろいろ記載したが、やはり主流はプルトニウムの増殖利用であろう。
高速増殖炉の開発はもんじゅ以降やや停滞しているが、各種の議論を通じて開発方針
を再構築し、その他の代案を含めて今後の原子力開発利用方針を明確化すべき時期に
来ていると考えられる。
  
柴山 哲男
tetuo shibayama
shibayama@mvh.biglobe.ne.jp