EEE会議(Re:核燃料サイクル・オプション論争:豊田氏→永崎氏) ............2003/7/22

 
標記件名の永崎隆雄氏のメール(7/18)に対して、豊田正敏氏から次のようなご返事をいただきました。ご参考まで。
 
なお、今回の論争については、豊田氏がこれ以上続けても無意味であるから今回で打ち止めにするとのご意向を示しておられます。小生としては、問題点の所在をより一層明らかにするという意味で、今回の論争も決して全く無意味とは考えておらず、少なくとも小生にとっては色々と勉強をさせていただいたと思っております。ただ、当会議の性格上、無理に結論を出したり、議論に黒白をつける必要もないだろうと思いますので論争の一方の当事者が取り止めと言われる以上は、この辺で一旦区切りをつけるべきかもしれません。しかし、小生の一存で決めるのではなく、今次論争に熱心に参加してくださった他の方々のご意向をもできるだけ尊重したいと思います。よって、論争を現在の形でさらに続けるべきか否かを含めご意見のある方は是非フランクにご開陳ください。匿名でも、「金子限り」(配信せず)でも結構です。
--KK
 
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 永崎氏に次のように解答します。私の要請にも拘わらず、私の説明を理解しようとせず、すれ違いの反論が
散見されるので、このような不毛の議論を続けても無意味であると考え今回で取りやめることにします。

わが国の核燃料政策の基本は、高速増殖炉・プルトニウムリサイクルであって、そのためには、高速増殖炉及
び高度再処理技術の経済的な実用化が不可欠である。プルサーマルは短期間のつなぎにすぎず、これを続けた
からといって高速増殖炉・プルトニウムリサイクルが実現するわけではない。ところが高速増殖炉は、動燃が
その技術開発に取り組んでから既に35年を経過した現在、原型炉「もんじゅ」が停止したままである。私の提
言の4. 国際競争力のあるナショナル・プロジェクトの進め方で述べているように、今までのようなナショナ
ル・プロジェクトの進め方を改めなければ、JNCのいう2030年は勿論、40~50年後にも実用化の見通しは暗いと
考えている。高速増殖炉が確信を持って計画通り実用化される見通しがあれば、このような議論をする必要が
ないのである。以下に、各項目のうち重要と考えられるものについて簡単にコメントする。

1. 原子力がコンバインドサイクル火力に比して高いことは周知の事実である。燃料サイクル政策は、経済性
のみで判断すべきではないが、経済性は重要な判断材料の一つである。現段階で、プルサーマルに他に重要な
メリットがあるとは考えられない。

2. 私は現段階では、直接処分に賛成しているわけでなく、高速増殖炉またはプルサーマルが経済的になる
40~50年間長期貯蔵し、40~50年後に、これらが経済的になれば、プルトニウムリサイクルをするほうが遥かに
経済的に得策であると提案しているのである。永崎氏の議論は、長期貯蔵と直接処分を混同されていると思わ
れる。勿論、高速増殖炉及び高度再処理技術の実用化に全力で取り組むべきである。六ヶ所の再処理を長期間
続けても、次に作る第二再処理工場の再処理費は安くならない。
    
3.プルサーマルは、電力会社も政府も是非実現したいと考えているが、地元住民の理解が得られないので思う
ように進んでいないのが実情であり、このままでは、六ヶ所で再処理してプルトニウムを回収すれば、プルト
ニウムが増え続けることになり「余分のプルトニウムは持たない」との国際約束に違反し、米国始めアジア諸
国の了承が得られないのではないかと懸念している。

4. 原子力委員会の「核燃料サイクルのあり方を考える会」は単に聞き置くだけで硬直した政策を押し付ける
ための会であって、政策に反映するつもりがなければ無意味である。

5. 何故、施設外の中間貯蔵はよくて、原子力発電所敷地内の長期貯蔵は認められないのか、疑問である。 
発電所サイトでの使用済燃料貯蔵の増設に地元が了解しないのは、原子力委員会が地元に使用済燃料は敷地か
ら運び出すと約束しているので、地元の了解を得ることが難しいのであって、状況変化により、長期貯蔵を選
択肢とする政策変更をするとともに、地元に対しては、長期貯蔵は、発電所敷地には、十分なスペースがあ
り、かつ、40~50年の期間、貯蔵しても安全上問題ないことを説明して了解してもらう必要がある。勿論、地
元住民の理解を得るためには、40~50年後に必ず運び出すことを確約すべきである。

6.高速炉が実用化されれば、貴説のように大量の初装荷プルトニウムを必要とする。このためには、軽水炉の
使用済燃料を約2万トン貯蔵しておき、高速増殖炉の立ち上げの段階に再処理容量も2千トン程度に増やして、
再処理によって回収されるプルトニウムを初期炉心に供給する必要がある。長期貯蔵を必要とする理由の一つ
はここにある。従って、プルサーマルによってプルトニウムを無駄に燃やす余裕はそれほどないはずである。
しかし、高速増殖炉の実用化の見通しが暗いとか、実用化されても、プルサーマルさえ、思うように進まない
状況では、大量のプルトニウム、ナトリウム、正のナトリウムボイド反応度などにより、地元住民に軽水炉並
に理解が得られるか、どうか疑問がある。     以上

豊田正敏
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