EEE会議(Re:核燃料サイクル・オプション論争: 河田氏→豊田氏).....................2003/7/25

 

標記件名の豊田正敏氏のメール(7/10)に対し、河田東海夫氏(JNC)から次のようなメールをいただきました。ご参考まで。

念のために、豊田氏のメールを末尾に再録しておきます(HPにも掲載されています)。

--KK

 

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@処分場の設計の前提条件と設計内容及び検討結果の詳細

直接処分をした場合の熱解析については、簡単なメモにまとめたものがありますので、それを添付します。SKB仕様のキャニスターは、BWRの使用済燃料12体が収納され、一体あたりのウラン量は約2トンです。緩衝材は、H12報告仕様のベントナイトを厚さ70cmでキャニスターの周りを埋めるという想定です。ガラス固化体と使用済燃料の崩壊熱の違いは、そのメモ中の図にも示しましたが、さらにその差の内訳がわかるように、もう一つ図を添付いたします(但し、少し燃焼度がずれています)。熱解析は、空間・時間依存の解析です。条件によって幅が出ますが、温度がピークになるのは、廃棄体埋設後10〜100年の間です。こういう計算を行った結果、ガラス固化体での処分時に設定した制限温度を適用すると、直接処分の場合、約4倍のスペースを与えてやらないと、この制限温度に収まらないという結果が得られました。5月のIAEAの会議でこの結果を報告しましたが、ベルギーの参加者(ONDRAFで約5倍となる結果を報告している)は「似たような結果だ」と言っていました。

 

ご指摘の通り、ベントナイトの制限温度については、今のところ100℃としていますが、これをもう少し上げてもよいという考えもあろうかと思います。しかし、仮にそれを120℃に上げても、ガラス固化体に比べ直接処分のほうが、より広い面積を必要とするという相対的な関係は変らないと思います。もちろん、直接処分の場合、冷却期間をさらに何十年か(たとえば35〜40年)余分に延ばすことで、ガラス固化体の場合と同じ面積に収めるというオプションもあります。

 

それから、ガラス固化体を50年冷却後に埋設するのであれば、50年後に再処理をしても処分時期は変らないはずとのご意見ですが、実際に評価してみると、その間にPu241の崩壊でAm241が積もり、それがガラス固化体に移行して発熱を高めますので、同じ発熱で埋設するという前提にたつと、追加的にさらに20年近い冷却が必要となります。

 

なお、処分場の必要面積は、ご存知の通り熱的条件だけで決まるのではなく、坑道径と岩盤強度の関係も大きな影響因子です。H12報告のケーススタディでも、軟岩の堆積岩中で縦置き埋設するケースは、他のケース(堆積岩中で横置き、結晶質岩中で縦、または横置き)に比べて2〜3倍になっています。したがって、そのような選択をした場合は、発熱の差はそれほど問題でなくなる場合もあります。実際、NUMOでは今のところこれらすべてのオプションを視野に入れていると思います。とりあえず、最初の処分場を何とか実現しようという段階では、選択の幅を大きくしておくという進め方は十分理解できます。

 

豊田さんは、「核燃料サイクル政策は、経済性、エネルギー・セキュリティ、環境負荷、核拡散防止などの観点から総合的に判断して決めるべきであって、処分場の面積は一つの判断材料に過ぎない」とおっしゃっていますが、私も全く同感ですし、過去の原子力学会や「月刊エネルギー」での議論でも、まさにそういうことを述べてきました。その上でなお、「我が国が何世紀にもわたり原子力に依存することを予見するのであれば、処分場の建設は、一世紀に一つか二つで済むような全体プログラムが必要であり、そうした視点からは直接処分はわが国にとって推奨できるオプションではない」と私は考ます。なお、そう考えるもう一つの理由は長期的視点に立った核拡散リスクの問題ですが、この点は後日詳しく述べたいと思います。

 

A古川氏が提案しているトリウム溶融塩炉の評価

 

私は、トリウム溶融塩炉については勉強不足で、その廃棄物については、出発物質の質量数が小さいため、高次のアクチニド元素ができにくいという一般的理解までで、具体的にどのような性状なのか知りません。技術的にいい加減なことは申し上げたくありませんので、すこし勉強したいと思います。

 

B一般国民の9割以上が高レベル放射性廃棄物の処分は危険であると考えている現状をどのように考えておられるか。このような状態で処分が円滑に進むと考えておられるのでしょうか。

 

この質問の趣旨が十分に分かりませんが、国や事業者側が一方的な主張をするだけではうまくいかないというご趣旨であれば、全く同感です。ただし、私の発言は、決して国や事業者側の一方的な主張を代弁しているわけではありません。私自身、研究開発機関の人間ではありますが、長年核燃料サイクルというものをできるだけ複眼的に見てみようと努力してきました。そういう背景を背負った河田個人として発言しているつもりです。「月刊エネルギー」1月号にも書きましたが、「この際いろいろなレベルできちんとした議論が行われ、前進するにせよ、方向転換するにせよ、なぜそういう方向に進むのかが国民全体に見えるようにすることが是非必要と思う。地元の理解を得る上でもオープンな議論が不可欠である。」と考えます。この点では、豊田さんと意見さえ異なりますが、姿勢は変らないと思います。むしろ異なる意見を相互に開陳し、更に広い方々にこの問題を考えていただくことが今大事なのだと思います。それゆえ、こういう場の議論に参加させていただいており、また原子力に反対される方々の議論にも参加させていただいた次第です。

 

なお、高速増殖炉開発の問題についても厳しいご指摘をいただいておりますが、この件につきましては副理事長の中神からの回答がございましたので、そちらの議論に譲ることをお許しください。

 

また、「月刊エネルギー」1月号「原子炉級プルトニウム」に関する発言が「無責任」とのご指摘がありますが、私は「これが事実であれば、(すなわち、3,000MWd/tに満たないガス炉燃料からのPuでの核実験結果が「瑣末」であり、大きな化学爆薬の爆発程度であったという関係者の証言が事実であるならば)原子炉級プルトニウムは・・・全く魅力がないと考えても差し支えないであろう」という推量を述べたわけです。これをもって「無責任」といわれることについては、いささか違和感を覚えました。なお、この問題につきましては、核拡散リスクの問題と絡め、後日詳しく述べたいと思います。

 

河田 

 
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<豊田正敏氏のメール(7/10)の再録>
 

私のコメントに対して河田氏から解答を頂いたが、最も重要と考えられる次の点について解答されるよう要請
します。
@処分場の設計の前提条件と設計内容及び検討結果の詳細
A古川氏が提案しているトリウム溶融塩炉の評価
B一般国民の9割以上が高レベル放射性廃棄物の処分は危険であると考えている現状をどのように考えておら
れるか。このような状態で処分が円滑に進むと考えておられるのでしょうか。

 再処理・プルトニウムリサイクルは、高速増殖炉の実用化を大前提に進められてきているのであって、本命
の高速増殖炉が計画通り実用化されれば、このような議論をする必要はありません。しかるに、その実用化の
見通しが何時までたっても不透明な点が問題であると考えます。「もんじゅ」があの程度のトラブルで10年以
上停止し、毎年、100億円の巨額の国費を浪費しているにも拘わらず、全く責任を問われないのは一般国民と
して納得できません。私は、貴殿に対して、月刊誌「エネルギー」昨年12月号でJNCとして責任をもって確約
できる実用化時期を詳細な実施スケジュールとともに示すよう要求しておりますが今なお解答がないのでこの
際、再要求します。
また、同誌1月号で、「原子炉級プルトニウムは、核爆発装置製造の観点からは全く魅力がない」と述べてお
られるが、今でもその考えに変わりがないのか、或いは、あれは無責任な発言であり、発言を取り消すといわ
れるのかお聞きしたい。

核燃料サイクル政策は、経済性、エネルギー・セキュリティ、環境負荷、核拡散防止などの観点から総合的に
判断して決めるべきであって、処分場の面積は一つの判断材料に過ぎないと考えております。
もし、貴殿の言っておられるように処分場の面積が最重要であるとするならば、何故、古川氏の提案さている
トリウム溶融塩炉の採用を考えないのでしょうか。
私は前回、『わが国でも地下数百メートルのところは殆んど利用されておらず、処分場の適地は数多く存在し
ておりますが、一般国民の9割以上が高レベル放射性廃棄物の処分は危険であると考えている現状では、一箇
所の処分場を作ることも不可能と考えます。まず、一般国民に対する理解活動の抜本的見直し、強化が必要で
あり、これは、直接処分を採用するか、ガラス固化処分を採用するか以前の問題であると考えます』とコメン
トしておりますが、これを全く無視して、独り善がりの主張を繰り返すのは、失礼であるとお考えになりませ
んか。わが国には、沖合い立地や人口の少ない無人島に近いところまで含めれば、さらに多くの適地があると
考えます。問題は、一般国民が安心できるような理解活動を殆んどしていないことが最大の問題であると考え
ております。

 私の燃料サイクルに対する考えは、永崎氏の再質問に対する解答の中でも明確に述べているので参照された
いが、私は、英仏からの再処理委託に伴って回収されるプルトニウムのプルサーマルも六ヶ所の再処理も必要
であると考えております。ただ、必要とする理由は相違します。原子力関係者が独り善がりの考えを押し付け
るのではなく、上述の解答で述べているような本音の理由によって説明しなければ、地域住民特に福島県知事
の納得は得られないのではないでしょうか。

次に、経済負担の問題ですが、国が支援するにしても結局は、一般国民が税の形で負担することになるので、
国の財政が逼迫している中で果たして理解が得られるか疑問に思っております。この問題は、福島県知事も
言っておられるように、原子力関係者の独り善がりの判断ではなく、国民的レベルで議論して判断すべきであ
り、一般国民、大口電力消費者、福島県知事を含む地域住民、株主、技術評論家、経済評論家、マスコミ関係
者などの意見を幅広く聞いた上でこれらの意見を政策に十分反映させるべきであると考えます。

最後に、処分場の面積の問題でありますが、私は40~50年間、高速増殖炉が実用化されるまで長期貯蔵し、
40~50年後に高速増殖炉が実用化された時点で、再処理・プルトニウムリサイクルをする方が遥かに得策であ
るとして提案しているのであって、現段階で直接処分に賛成しているわけではありません。
40~50年後に高速増殖炉が実用化出来れば、再処理してガラス固化体にする時期はずれても処分の時期は変わ
らないので処分場の面積には何ら影響ないはずです。この点、何回説明すればお判りになるのですか。高速増
殖炉が実用化されなければ、このような議論をしても無意味である点も了承願います。

廃棄体の発熱量については、アクチニド元素の発熱影響といっておられたので、相違点は、PuとUの発熱のみ
であって、他のアクチニド元素はすべてガラス固化体にも含まれていると指摘しているのであって表現が不適
当であると考えます。アクチニド元素といえば、通常その総称であり、Pu及びその娘核種のみをアクチニド元
素と呼ぶ人がいるのでしょうか。何故、誤解を避けるため、Pu及びその娘核種と明確に言われなかったので
しょうか。私もPu及びその娘核種の発熱の影響はあると考えており、これにより、処分場の面積が2倍程度に
なると推定しておりますが、4倍になるとは考えられないので、チエックしてみたいので、処分場の設計の前
提条件と設計内容及び検討結果の詳細を提出されるよう要求しているのであります。何故、国際会議に提出さ
れているのに、直ちに提出できないのでしょうか。

なお、次の点を追加的にコメントしておきます。
@ 処分場の最適設計は、処分場の立地が決まり、その岩盤特性や深度などが決まらなければ出来ない
A ベントナイトの許容温度100℃は絶対的なものではなく、処分場閉鎖後、100年程度の間20~30℃程度高く
なってもベントナイトの変質は考えられないので許容できるとの考えがあり、私もこの考えに賛成している
B 処分場の処分概念の決定にあたってはretrievableなど地域住民の安心を得るための安全対策についてその
意向を十分反映させるべきである
C 最初の処分場は、一般国民に約束しているので40~50年後に処分する必要があるが、次の処分場からは、高
レベル放射性廃棄物の貯蔵期間を100年程度に延ばす方が処分場の面積も減り、処分費も総合的には安くなる
以上の私のコメントに対し各項目毎に賛成か反対かを明確にされ、反対の項目については、すれ違いにならな
いような反論をされるよう要請します。その結果により、会員の皆さんの判断を仰ぎたい。        
                         以上

豊田正敏
toyota@pine.zero.ad.jp