EEE会議(核と原子力の国際会議の概要報告:鈴木達治郎氏)........................................2003.7.31
 
例年夏になると、核問題や原子力問題に関する重要な国際会議が開かれます。最近カナダで開かれた「第53回パグウォッシュ年次総会」と、フランス(サクレー)で開かれた「平和のための原子力50周年ワークショップ」(米国ローレンス・リバモア国立研究所主催)の概要を、日本から出席された鈴木達治郎氏(電力中央研究所主席研究員)に簡単に報告していただきました。ご参考まで。--KK
 
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717日―22日までハリファックス(カナダ)で開催された第53回パグウォッシュ年次総会に出席し「技術の発展と人類の安全保障」ワーキンググループの共同議長を務め、その後722日―25日までサクレー(フランス)で開催された「平和のための原子力50周年ワークショップ」(米国ローレンス・リバモア国立研究所主催)に参加しましたので、その概要をごく簡単にお知らせします。

                                         鈴木 達治郎

概要

l         核廃絶と紛争の根絶を目的とする国際科学者団体「パグウォッシュ会議」の第53回年次総会は、イラク戦争・北朝鮮問題という緊迫した国際情勢の中で、パグウォッシュ会議発祥の地であるパグウォッシュ村のあるカナダで開催されるという、めぐり合わせとなった。

l         会議の雰囲気も、また講演のほとんどが「冷戦終了以後、最大の危機」という問題意識を強調し、特にブッシュ米政権に対する批判が相次いだ。これは米国参加者からも同様であった。

l         これまで、パグウォッシュ会議は専門家・政策決定者への科学的提言を活動の柱としてきているが、特に米国市民へのアピールが必要との観点から、一般向けのキャンペーンも積極的に行うべきだ、という行動方針が提言された。

l         なお、日本からはパグウォッシュ会議評議員の大西仁東北大副学長、昨年まで評議会メンバーであった小沼通二名誉教授、ジャーナリストの谷内真理子氏、若手学生パグウォッシュメンバーの黒崎輝明治学院大学国際平和研研究員、と筆者の5人が参加した。評議会にて、2005年に日本でパグウォッシュ会議の会合をノーベル平和賞サミットと合同で行うことが承認された。

l         ローレンス・リバモア国立研究所(フランスCEA共催)の、第3Atoms for Peace After 50 Yearsの会議は、CEAのサクレー研究所で約80名ほどの専門家の参加を得て開催された。日本からは、遠藤哲也原子力委員、東工大澤田哲生助手、筆者の3人が参加した。

l         今回は、過去2回のワークショップの内容を踏まえ、「核物質管理」「リスク・コミュニケーション」「(核・原子力の)ガバナンス」の3分野で議論が進められた。核物質管理では、民生用HEUのフェーズアウトという合意があったが、ワンス・スルーとリサイクル路線の議論が今回も続いた。その中で、燃料国際管理(核燃料リース)・地域核燃料サイクルセンターなどの提案が繰り返しされたのが注目された。

l         リスク・コミュニケーションでは、リスク評価よりも「信頼」が最も重要な課題である点が強調された。

l         核のガバナンスでは、国際核不拡散体制の非参加国・不遵守国への対応、核保有国の責任、テロリズム、などが議論された。一方、原子力のガバナンスでは、焦点は安全保障第一であるが、競争力、廃棄物問題、革新炉・核燃料サイクルの国際協力、などが議論された。今後は、原子力・核の両分野でより前向きな提案につながるよう、報告書をまとめていくことが発表された(最終報告書は11月の予定)。なお、MITの「原子力の未来」報告書が729日に発表されることが会議中に紹介された。

l         核廃絶をめざす科学者会議と米政府に近い国立研究所の会議という、現状ではまったく対照的ともいえる団体が同じ「核」を扱った会議に参加したことは、非常に興味深かった。特に気になったのは、「核抑止力」から「核使用」へと移りつつある米国の核政策であり、これは核抑止を容認する他の核保有国からも孤立しつつある危険な政策であると強く感じざるを得なかった。

 以上 (個別報告は割愛)