EEE会議(北朝鮮核問題:吉田康彦氏の意見).................................................................................2003.8.11
 
迷走中の北朝鮮核問題は、どうやら6カ国協議の形で打開の方向が少し見えてきたような気がしますが、まだまだ予断は出来ません。肝心の米朝間の距離が縮まったわけではなく、そもそも6カ国の間にも相当な温度差があります。現状では楽観も悲観もできず、しばらく様子を見守る以外にないと思われますが、現状の分析把握は常にしっかりやっておく必要があるでしょう。その意味で、吉田康彦氏(大阪経済法科大学)からいただいた次のメールは、(北朝鮮問題に対し各人がそれぞれ異なる態度をとるにせよ)大変参考になるものと考えます。とくにこの問題と最近国内で妙に盛り上がっている「日本核武装論」との関係に十分注目をしていただきたいと思います。皆様からのコメントを歓迎します。
--KK
 
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残暑お見舞い申し上げます。
北朝鮮問題以外は普段あまり投稿していませんが、すべて目を通しています。
小生としては、(3)日本核武装論と(4)査察問題とNPT体制のタスクフォースに参加し、発言したいと思っています。多少の雑用も引き受けます。とりあえず(3)について、以下、発言します。
 
最近にわかに活況を呈してきた日本核武装論は、北朝鮮脅威論と裏腹の関係にあり、全く非現実的であり、核武装は不可能、空理空論である。6カ国協議の枠組みが軌道に乗り、北朝鮮の核開発が漸次、凍結さらに廃棄の方向に向かえば下火になり、消滅する議論であると思われる。理由は次の通り。
 
(1)今回の核武装論は北朝鮮に対する感情的反発と憎悪に根ざすもので、因果関係や論理的帰結に関する客観的配慮を欠いている。要するに、「あんな北朝鮮もどきに脅かされ、なめられてたまるか」という対抗意識と感情論先行の発想である。根底に朝鮮民族蔑視がある。
(2)米議会や一部の米国のメディアに日本核武装論が登場したにせよ、いずれも北朝鮮を牽制し、これに政治的圧力を加えるために飛ばした観測気球にすぎず、まともに受け止めるべき動きではない。
(3)IAEAの保障措置(セーフガード)もNPT体制も、当初の狙いは日独の核武装を阻止するためのシステムであり、レジームだった。日本がIAEAの保障措置離脱、NPT脱退などに動いたら、国連安保理などを待たず、米国政府は直ちに対日制裁に乗り出すであろう。日米原子力協定も破棄され、濃縮ウラン供給の道は断たれ、日本の原子炉は停止してしまう。
(4)日本はかなり透明性の高い民主主義国家で、メディアの「知る権利」も機能しており、NPT脱退せず、原研、核燃あたりの限られた部局で秘密開発に乗り出そうとしても、すぐにばれてしまう。内部告発も行われるであろう。オウム真理教のようなカルト集団に対する公安当局の監視の目はきびしく、非国家組織の秘密開発も不可能に近い。
 
要するに、北朝鮮の「脅威」には核武装やミサイル防衛網開発で対抗手段を講じるのではなく、「脅威」の実体を見極め、これを軽減し、除去するための主体的努力をすべきなのである。しかるに現実には、「脅威」を煽るタカ派政治家・言論人とメディアに引きずられ、国粋主義的風潮と対米追随色を強めるばかりというのが小泉外交のように思われる。
 
さいわい中国の積極的仲介で6カ国協議が開催され、紆余曲折をたどるにせよ、危機回避の方向に動いている。そうした中で、韓国の盧武鉉政権は粘り強く「太陽政策」を継承、南北対話を継続している。日本にとっての選択肢は、昨年9月の小泉訪朝で合意した「平壌共同宣言」の原点に戻り、国交正常化交渉を再開することである。拉致問題の解明を再開の前提条件に掲げず、正常化交渉と並行して要求し続けることだ。「日朝間の懸案は正常化のプロセスで解決すること」は共同宣言で確認していることでもある。以上。
 
吉田康彦