EEE会議(核燃料サイクル・オプション(雑感):豊田正敏氏)..............................................2003.8.2
 
日本の核燃料サイクル・オプション論争は目下進行中で、大分熱を帯びてきましたが、この辺でちょっと息抜きをして、別の角度から眺めてみるのも一興かと思います。おそらくそういう趣旨かと思いますが、豊田正敏氏が次のような「雑感」を書いて送ってくださいました。冒頭に出てくる中村康二氏(故人)には小生も20数年前、東海再処理工場の運転を巡って激しい日米交渉を展開していた頃、ほぼ毎日のように会って再処理やプルトニウムのことをイロハから教えてもらった経験があり、町工場のおやじ然とした風貌や人柄を今でも大変懐かしく想い出します。ああいうタイプの人物がいなくなったということは(単に原子力界に限りませんが)日本の不幸だと言えましょう。
 
それはともかく、今年は原子力平和利用(Atoms for Peace)50周年の節目の年。皆様もご自分の貴重な体験や想い出を時にはお聞かせください。ただし、単なる昔話ではなく、なるべく現在の諸問題に関係のあるもので、あまり長文でないものを。
--KK
*********************************************

 匿名氏からのご指摘もあったので、私の今までに、経験したり、気づいたりしたことで、今後核燃料サイク
ルを進めていく上で参考になると考えられる2~3の点を雑感の形で纏めてみました。

  核燃料サイクル・オプション(雑感)

 私は、日本原電の技術部技術課副長として、日本始めの商業炉「東海1号炉」の設計を担当し、また、原子
炉設置許可申請書及び付属書の取り纏めやその後の安全審査の窓口として、安全審査委員会の説明を担当して
おりました。当時、最も若手の安全審査委員であった中村康二氏(故人)から燃料問題について適切な指摘や助
言を頂いた。その後、同氏は動燃事業団で、濃縮や再処理技術の技術開発に従事されたが、私に対して、現在
の問題点及びそれをどのように解決するかについて包み隠さず明快かつ、懇切に説明された。私は、この人が
技術開発を担当されるのであれば、わが国の核燃料サイクルは大丈夫であろうと期待していた。ところが、神
戸製鋼顧問に飛ばされたのは、意外であった。その後、私は、動燃事業団の非常勤理事として、理事会に出席
した際、担当理事に質問しても、その場で答えられず、担当者から資料を取り寄せなければならないことが何
回かあった。担当部門の知識、能力がなくても官僚の受けがよければ、順送りで理事になれるのは、問題であ
り、また、2~3年で責任者が交代するのでは、成果が上がらないのは当然であると考えていた。

また、生存中なので差し障りがあるかも知れないが、原研で、若手の石川迪夫氏が、J-BWRの解体のための技
術開発を担当されていたが、その段取りと技術開発の進め方の説明を受け、感心させられた。私が動燃の理事
長であれば、彼を原研から引き抜き、高速増殖炉の責任者に指名したいと考えた位である。ところが北大教授
に転出せざるを得なかった。

 要するに、大型プロジェクトを完成させるためには、卓越した指導者が少なくとも10年間は責任者を続ける
べきである。わが国にも、大型プロジェクトの責任者としてふさわしい人は何人かいるはずであるが、それを
見抜けないことと、そのような人は概ね信念が強く、上司や官僚にたてつき、自説を曲げない人が多いので、
特に、特殊法人ではそのような人を責任者とするのは難しいのかも知れないが。

JNCは本来の使命である高速増殖炉及び高度再処理技術の技術開発をなおざりにしても、学術論文の作成や官
僚に気に入るような説明や資料の作成に熱心である方が業績査定は高く出世するところに問題がある。官僚
は、予算については、詳しく聞くが、計画通りに有効に使われ、成果をあげているかについては殆んどチェッ
クしていないように思われる。JNCのプロジェクトの進め方については、中神氏へのコメントで述べているの
でこれ以上触れないが、JNC自らどのように改善すべきかを真剣に考えるべきである。特に、原研と統合した
後は、益々、学術論文の作成や基盤技術研究に重点が置かれ、実用化のための技術開発がさらに進まなくなる
のではないかと心配である。

 次に、高速増殖炉の技術開発に関連して、卓越した指導者バンドリエス氏率いるフランスの高速増殖炉技術
陣の開発スピードは、わが国のそれに比べてウサギと亀の違いがあり、わが国で、原型炉「もんじゅ」(28万
kW)が遅々として進まないのに対して、原型炉フェニックス(20万kW)を順調に運転した後、実証炉スーパー
フェニックス(124万kW)は試運転まで進んでいた。 バンドリエス氏は、2000年までには、日本に高速増殖炉
を輸出すると言う鼻息の荒さであったので、私から高速増殖炉は、軽水炉に比べて出力密度、原子炉特性、ナ
トリウムなど技術的に難しい問題が多く、実証炉1基ぐらいで実用化することは難しい。軽水炉でさえ、開発
初期段階では、多数のトラブルを経験し、また、運転保守の不具合も散見され、改良するのに時間がかかった
ことを考えると、そんなに簡単に実用化出来るとは考えられないと説明して納得された。そこで私から、「軽
水炉と経済的に比肩するため、実証炉スーパーフェニックスに続き、日仏米の3カ国の国際協力により、世界
の英知を結集して共同で合理化設計研究をし、実用炉3基を輪番で建設する。先ず、最初の1基は、既にフラン
スに150万kWの実用炉の建設計画があったので、フランスで建設することとし、フランスは建設費5000億円の
中、3000億円を、日本及びアメリカはそれぞれ1000億円を分担する。日本のメーカーは、負担金額1000億円相
当分の機器、装置を受注する。また、運転開始後、発生電力の1/5に相当する金額として、10年間に合計500億
円を分割返還してもらう。」と提案した。その後、バンドリエス氏及びフランス大使館のアタッシェのシャバ
ルデス氏と何回か折衝したが、電気料金返還分については、日本に発生電力の1/5相当分を提供するので、欧
州で売ったらどうかとの非現実的な逆提案があり、それでは、私として、電力会社及びメーカーを説得する自
信がないとして、話し合いは物別れとなった。今から考えれば、電気料金の返還に拘わり過ぎて話し合いを打
ち切ったことを後悔している。「もんじゅ」に対して民間から1500億円の資金提供したのに比べれば遥かに有
効に資金活用が出来たと考えている。

フランスが高速増殖炉は経済的見通しがないという理由で技術開発を中断したが、その原因を十分検討調査す
べきである。私の考えとしては、軽水炉に比べて出力密度、原子炉特性、ナトリウムなど技術的に難しい問題
が多いことの他に、実証炉段階に、実施主体がCEAからEDFとRWEの連合体に移った際の技術移転が十分でな
かったことと、実証炉のプラント設計をEDFが自ら行ったことである。勿論EDFは、日本やアメリカの電力会社
と違って、自社にプラント設計の出来る陣容を持っており、従来から火力及び原子力発電所のプラント設計を
手掛けていたが、PWRの設計は、アメリカのW社の模倣であり、新しい原子力プラントの設計の経験は十分とは
いえなかったと思う。このプラント設計のまずさが、経済的見通しがなくなった一因ではないかと考える。

わが国の場合も、JNCは勿論のこと、電力会社及びメーカーにも、既にあるプラント設計の改良標準化につい
ては経験豊富であるが、新しい型式の原子力プラントを満足に設計できる能力があるとは思えない。特に、高
速増殖炉に従事している人たちは、全くその能力がないと言って差し支えない。福島第一原子力発電所1、2及
び6号機では、アメリカのコンサルタント会社にプラント設計を委託したが、コンサルタント会社、特に取り
纏め担当者によって出来栄えが著しく異なる。福島第一原子力発電所では、1及び2号機を担当したコンサルタ
ント会社の質が悪く、トラブルや運転保守の不具合さが多かったので、6号機では別のコンサルタント会社に
変えた。このように、プラント設計を何処にやらせるかは、実用化のために極めて重要であるが、アメリカの
コンサルタント会社も、軽水炉のプラント設計の機会が少なくなり、信頼出来る取り纏め責任者がいるかどう
か不明である。
                                 以上

豊田正敏
toyota@pine.zero.ad.jp