EEE会議(Re:「原子力の将来」MIT報告書の問題点:UCBからの反論)..........................................2003.8.5
 
MITの研究報告書「原子力の将来」に対する米国内の反応、とくにカリフォルニア大学バークレー本校(UCB)原子力工学科における反応を、同学科の安 俊弘氏(Dr. Joonhong Ahn)から次のように伝えてきてくださいました。ご参考まで。なお下記メール中「YMR」とはYucca Mountain Repository (ユッカマウンテン貯蔵施設)のことですね。
--KK
 
************************************************ 

安@UCバークレーです。ずっとROMで皆さんのお話を伺うばかりでしたが、この
件の関しては少しコメントをさせていただきます。

MITに対するUCバークレーからの反論です。最近の学科内での電子メールでのや
り取りのまとめです。

(1)(MIT)最低50年はワンス・スルーで:

(UCB)これは、米国においてこれから複数の処分場が建設されることを暗黙の前
提とした議論。1982年のNuclear Waste Policy Actと1987年の修正法は
2007年から2010年の間にエネルギー長官から議会に向けて、使用済み燃
料、軍事廃棄物合わせて7万トンというYMRの上限を再考し、第2処分場に関す
る検討とサイト探しをいつから始めるのかに関する勧告を行うべしと定めている。
今回のMITの報告書にはこのエネルギー長官が行うべき議会への勧告に関して何
も触れられていないので、将来の政策決定にどれくらい役に立つのか疑問。

(2)(MIT)ウラン資源のことを考えるとリサイクルに(当面)経済性はない。

(UCB)MITの経済性解析では、使用済み燃料直接処分費用を1キロ当たり400
ドルと試算している。これは、今のYMR、そしておそらく今の3倍程度まで拡張
されたYMRまでは妥当な評価と思われる。MITの言う「原子力の将来」がここまで
のことならおおむね妥当。しかし、その先は非常に不透明。第2処分場自体が可
能かどうかもわからない。

将来の原子力を考えるとき、現実的な仮定は「処分場はひとつ」であろう。MIT
の提言には、ひとつの処分場をできるだけ長く使うにはどうするか、そのときの
コストをどのようにまかなうかに対する提言がない。「処分場はひとつ」の仮定
から考えるとUCBの指摘は次の3点。
(A)およそ20万トンレベルまでのYMRの拡張は可能で、その分の軽水炉使用済
み燃料に対してはリサイクルの必要がない。
(B)そのあとに関しては、アクチニドを減量することによって発熱管理を改善し
処分の実効キャパシティを増やす必要がある。アクチニドリサイクルの費用捻出
のため、Waste Fundの見直しがそのころ(おそらく次世代2030年ころ?)
から必要になる。最初は処分場の容量(Cap)を超える使用済み燃料に対して行う
リサイクルであるため規模は小さいが、技術的に未熟であるためコストがかさむ
かもしれない。Capを超える部分が増えるにつれ、より多くの使用済み燃料のリ
サイクルが必要になるが、それとともに技術が成熟する。第2処分場決定・実現
に伴う不確実性に比べて、こちらのほうが技術的に予測可能で政治的に受け入れ
やすい?
(C)YMRの最近の性能評価結果では安全基準の100分の一以下のレベルの安全
が確保されることが示されている。評価はかなり過度な保守性・重畳性を含めて
いるため、処分場の設計と操業時の運用の方法を改善し、さらにアクチニドを減
量することで、処分場の容量を10倍以上拡大すること(環境負荷、人間侵入時
のリスクなどを増やさず)は可能である。

日本のコンテクストで考えると、発熱管理のしかたは処分場の形態(YMRが不飽
和層に対して飽和層である、など)が異なるため、同じ手法は使えませんが、
「処分場はひとつ」という点は日本の将来もおそらく同じだと思います。また、
先進リサイクルの導入が必要になる時期も今想定されている4万本処分場がおそ
らくその2倍程度に拡張され、さらにスペースが必要になったときであると考え
られますので、今世紀半ばころでしょうか?発熱性のアクチニドの量は(以前河
田さんがご指摘されていたと思いますが)おもにAm241で決まりますので、再処
理までのスキームが重要ですが、いずれにせよ将来Amを回収する必要があるとい
う点でも同じですね。

結局、現在の第1処分場の単純な容量(Capacity)拡大の先の将来をどのように
捉えるか、によって大きく立場が分かれます。(1)そこが原子力の終焉のとき
と捉える立場。これにはスウェーデンなども含まれます。(2)依然として新た
な処分場の立地は難しく、ひとつの処分サイトをやりくりして原子力を続ける。
そのための技術としてリサイクルを行う。(3)1つ目のサイトが順調に操業さ
れ、その安全性が認識されて第2第3のサイトが必要に応じて手当てされていく。

これは、もう国民の判断にゆだねねばならない大問題ですが、処分という観点か
ら見ると、MITの報告書は(3)の立場であるといっていいと思います。UCBは
(2)がもっとも現実的と考えます。(3)は、あまりに楽天的過ぎると思い
ますがいかがでしょうか。あるいはシニカルに言うとMITの立場は(1)ともと
れますね。

(2)の立場をとると、ここから、リサイクルに求められる条件が逆算できるは
ずである、という目論見から、現在UCBではそれらを求めるべくAFCIの一部とし
て、サイクルと処分の統合モデル開発、合理的な発熱管理スキームの開発をして
います。

--
Joonhong Ahn 安俊弘<

ahn@nuc.berkeley.edu>