EEE会議(Re:「原子力の将来」:MIT報告書の問題点)........................................................2003.8.5
 
先日(7/31)、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の教授陣による「原子力の将来」(The Future of Nuclear Energy)と題する研究報告書(7/29公表)の概要をご紹介しましたが、原文は全文で180ページ(サイトはhttp://web.mit.edu/nuclearpower/)という長大なもので、内容も極めて広範多岐にわたっているので、「どなたか、この報告書を勉強して概要や問題点をEEE会議で報告してくださいませんか?」とお願いしておきましたところ、早速永崎隆雄氏(原子力産業会議調査役)が次のように要領よく同報告書の概要と問題点等をまとめてくださいました。大変分かりやすいので、ご多忙の方は、最後の「エグゼキュティヴ・サマリー」だけでもお読みいただきたいと思います。
 
前にも指摘しましたように、この報告書は、カーター、クリントン両大統領時代にワシントンで要職にあったジョン・ドイッチ教授(元CIA長官)らが中心になってまとめられたものであるだけに、民主党的な色彩が濃厚で、確かに原子力の重要性を強調しているものの、日本やヨーロッパで行われている再処理、プルトニウム路線には否定的で、ウラン燃料の使い捨て(once-through)方式がベストであると繰り返し強調しています。この点で、最近再処理、プルトニウム利用に肯定的になってきつつあるブッシュ政権の政策とは趣を異にしますが、有力な研究者グループの提言であるだけに、今後の原子力活動の展開に一定の影響力を持つ可能性があります(しかも、いつまでブッシュ政権が続くか分かりません)。
 
従って、日本としても、核燃料サイクル路線を堅持する以上、一層理論武装を固める必要があり、いずれこのMIT報告書への反論をまとめるべきではないかと考えます。現在当EEE会議で展開中の核燃料サイクル・オプション論議も、そういう観点で大変意味があると存じます。皆様のさらなるご議論をお願いする所以です。--KK
 
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MIT報告書「原子力の将来」2003年7月29日に対する感想を以下に書いてみました。
 
I.  本報告の主たる論点は以下です。
 

1.    温暖化防止には世界での原子力規模を2050年までに3倍化1000GWにする必要がある。

原子力発展に当たっては

2.   原子力発展には以下の4課題の克服が必要

コスト、安全、核廃棄物、核不拡散(米国の国益) 

3.核燃料サイクルの選択では

OP-1 軽水炉ワンススルー

OP-2 プルサーマル

OP-3 先進国の先進高速炉サイクルと開発途上国の軽水炉ワンススルー 

を上記4課題より評価した結果、当面50年間の近時点ではワンススル−が良い。 

理由

     コストが安い 

     短期の安全性がよい(低レベル廃棄物の発生が少なく従業員に被爆が少ない)   

     使用済燃料を再処理せず、プルトニウムを分離しないため核不拡散性がよい    

      (米国のカーター、クリントンの民主党は核不拡散に国益の重点を置いている)

・ 今後50年はウラン資源の問題はない(他の金属資源の例よりウランも見つかる)

 

II.我国やフランスでは克服すべき問題意識も経済状況も以下のように異なると思います。

  これを世界に拡張適用することは乱暴であると思います。

 1. 克服すべき課題

エネルギーセキュリティー、環境、経済性、持続可能発展、科学技術創造立国 

 2. 核燃料サイクルの評価は以下の理由でプルサーマルの実施→高速炉を選択

       フランスではプルサーマルを実施中でワンススルーとの経済性に差はない。 

     日本ではプルサーマルは火力や水力に比べて安い。既に再処理設備建設も終了している。 

     日本ではプルトニウムを単体分離しない再処理法を採用。

  MOXで燃やしてしまうので核拡散抵抗性がより高い。 

     プルサーマルの方が高レベル廃棄物の無害化時間が遥かに短い。 

     IAEA評価のウラン確認資源量は以下であり、1000GWワンススルーの年消費量20(燃焼度5万MWd/T)〜18(高燃焼度10万MWd/T)万dでは以下の可採年になるため、MIT報告のような資源楽観論は取れない。

80 j/kgU以下 :約300万dU  :15〜18年

130j/kgU以下  :約400万dU   :20〜22年

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III.  高橋啓三氏による要約の訳を以下に示します。

 

「温暖化防止に「原発の弱点克服し拡充を」 MITが提言」

    (2003?07?30 朝日新聞)

 米マサチューセッツ工科大学(MIT)は29日、「地球温暖化を抑えるには原発

の拡充が必要だ」との報告書を発表した。コストと安全性、廃棄物、核拡散という四

つの「弱点」を克服するよう米政府や国際機関に提言。四半世紀も途絶えている新た

な原発の建設を米政府に促した。

 政策論や原子力工学、経済学、環境科学などMITの教授陣が共同でまとめた。メ

ンバーには米中央情報局(CIA)のドイッチ元長官やエネルギー省のモンツ元次官

も入っている。

 今後の世界の経済成長に伴う電力需要をまかなうには2050年までに原発の発電

能力を現在の3倍の10億キロワットにする必要があると試算。これをガスや石炭で

発電した場合には、炭素の排出量が年間8億〜18億トンも増えてしまうという。

 原発拡充には「弱点」の克服が欠かせないと指摘。政府や国際原子力機関(IAE

A)に対し、コスト抑制のための税制措置▽老朽化や安全性の分析力アップ▽放射性

廃棄物の長期保管の技術開発▽核施設の査察や核物質輸送の安全性の確保といった施

策を求めた。 日本が実現を目指す核燃料サイクルについてドイッチ教授は「使用済

み核燃料を再処理して発電に使うより、ウランを1回だけ燃やすワンスルー方式の方

が安上がりで安全だ」と説明した。

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 IV.報告書の構成と概要は以下のとおりです。

 

「原子力発電の将来」

2003-07-30 MITのホームページ

学際的なマサチューセッツ工科大学の研究

著作権 (C) 2003年のマサチューセッツ工科大学(MIT)

 目次

フォワード vii

エグゼクティブ要約 ix

1章原子力の将来か OverviewConclusions 1

2章バックグラウンドと研究の目的 17

3章研究のアウトライン 25

4章燃料サイクル29

5章原子力発電経済学37

6章安全47

7章使用済み燃料/High-Level廃棄物処理53

8章拡散防止65

9章パブリックの姿勢及びパブリックの理解71

10章原子力発電の経済性について不確実を解決するための勧告される措置77

11章安全、廃棄物処理、及び核拡散に関係する勧告85

12章勧告される解析、研究及び開発・実証プログラム91

 

専門用語解説95

付録

付録、第1章: 核燃料サイクル入門101

付録、第2章: 原子力の展開シナリオ109

付録、第4章: 燃料サイクル計算117

付録、第5章: 経済性131

付録、第7章:廃棄物処理157

付録、第9章: パブリックの姿勢167

 

私たちはアメリカ合衆国及び世界にとって二酸化炭素を発しないでまたその他の汚染

物を出さないで未来のエネルギー需要を満たすためには、それが直面している挑戦に

もかかわらずこのテクノロジーが重要なオプションであると思うので原子力の将来を

調査研究することを決心した。

他のオプションには増加された効率、再生可能renewablesエネルギー、及び炭素隔離

sequestration〕を含んでいる。

私たちは国が重要な環境的な挑戦を受けながらエネルギーを提供する戦略を発展させ

る間に全てのオプションが保たれるべきであると思う。

もし、原子力発電オプションはテクノロジーがより良い経済性、改善された安全、成

功した廃棄物処理、及び低い拡散危険を実証し、そしてもし社会政策がCO2を生産し

ない電力生産に重きを置けば原子力の選択がなされる。

原子力に関する私たちの研究が問題を確認して、そしてそれらに打ち勝つために何が

なされうるか明らかにする。

 

私たちの読者は、相互関係のある技術、経済、環境、政治問題に興味を持った政府関

係者、業界、学界のリーダーでありこの世紀の中頃に電力供給の重要な部分を原子力

発電が提供することのオプションを選ぶ場合に、原子力発電の大規模な展開がなされ

る場合に相手にされなければならない人々である。

私たちは私たちの分析及び議論が建設的な対話を刺激することを期待する。

この調査研究はまた私たちの確信を反映、すなわちマサチューセッツ工科大学コミュ

ニティがよく私たちの経済と学際分野へ研究において、複雑な社会技術的な問題に光

を当てることに秀でていることを示す。

原子力発電はその1例で、私たちは将来の似通った目的の研究に参加することを希望

する。

私たちがアルフレッドP.スローン財団、Provost Office、エネルギー環境研究所から

の寛大な財政援助に感謝する。

 

研究内容

パターンが劇的に変わらない限りのエネルギー生産と使用が大規模な温室効果ガス発

散を通しての地球温暖化に寄付することは、次の50年の間に予想される。放出される

のは二酸化炭素としての炭素の何千億トンに達する。 原子力発電が炭素放出を減ら

すことのための1つのオプションであるかもしれない。

目下、しかし、これはありそうもない: 原子力が不景気と減少に面している。

 

この研究は原子力発電が温室効果ガス発散を減らすことのための重要なオプションと

しての地位をもつ為に何が要求されるかを分析する。 2050年までの原子力発電が1

ワットに、私たちの分析は現在の原子力発電ほとんど3倍に原子力発電を拡張すると

の世界的な成長シナリオに基づく。

そのような展開で毎年石炭プラントから、18億トン/年の放出を防ぎ、もし炭素放

射の増加のbusiness-as-usualシナリオでのおよそ25%の増加を防ぐことが出来る。

この研究では同様に、政府の政策と産業界のプラクティスについて変更を求め、比較

的に近い期間にこの原子力発電拡張オプションを保つために必要なことを勧告する。

私たちは炭素放射を減らすことのための他のオプションを分析しなかったので、再生

可能なエネルギー源、炭素隔離、及び増やされたエネルギー効率について、これらで

の努力と原子力発電のオプションの間の優先度についての結論は得なかった。

私たちの判断では、今回これらの4つのオプションのどれも除外するというのは現時

点では間違いである。

 

研究調査結果

原子力発電の大きな発展が成功するために、4つの重大問題が克服されねばならない

   コスト.

原子力は規制を解除された市場では今は石炭と天然ガスとは競争力を持たない。しか

し産業界による、資本コスト、運転コスト、保守コスト、建設期間の削減はありうる

ので、ギャップを減らすことができる。 炭素放射クレジットがもし政治によって制

定されれば、原子力発電をコスト的に有利に立たせることができる。

 

  安全.

近代的な原子炉デザインが深刻な事故の可能性を非常に低く置くことを成し遂げて

いる。しかし、建設及び運転で「最もよく実行する」ことが必要である。原子炉運転

を除いて、総体的な燃料サイクルの安全についての我々はほとんど知らない。

 

 廃棄物.

地層処分は技術的に可能であるが、実施に関してはまだ実証が行われていない。

使用済み燃料の再処理を伴っている閉じられた先進の燃料サイクルが長期的な廃棄物

マネージメントとして優位を持っているこを確信させることは、短期の危険及びコス

トになされていない。開いたワンスルー・サイクルの改善はより高価な閉じられた燃

料サイクルより廃棄物管理に関してより利益を提供するかもしれない。

 

核拡散.

現在の国際的な保障措置枠組みは、世界的な成長シナリオでの原子力発電の展開のセ

キュリティを保つには不十分である。今、ヨーロッパ、日本、ロシアで実施されてい

る再処理システムはプルトニウムの分離及びリサイクルを伴うもので不適当な核拡散

危険を有する。

 

エグゼクティブ要約

原子力発電の将来についてのMIT研究

 

私たちは少なくとも次の50年の間、これらの挑戦を受けるために最も良い選択は開い

た、once-through燃料サイクルであると結論する。

私たちは世界的な成長シナリオの下のこの選択をサポートするために妥当なコストで

入手可能な十分なウランリソースがあると考える。

パブリックアクセプタンスが同様に原子力の拡大にとって極めて重要である。

私たちの調査結果ではパブリックはまだ原子力が地球温暖化に対する方策として理解

しておらず、よってより深いパブリック教育が必要であるかもしれないことを示唆し

ている。

 

選ばれた勧告

 私たちはエネルギー省の、新しいデザイン証明、サイト・バンキング、及び結合され

た建設と運転免許を通してのコストを減らす2010イニシアチブを支持する.

 

  政府が同様に分担すべきであるには「最初の活動者」コストである。限定された数

の原子力発電炉、安全性を強化したものに支援すべきである。建設コストが$200/kWe

を超える部分に税額控除をすべきである。

このメカニズムは原子力発電炉を完了して、動かすという強い動機を与え、このメカ

ニズムは他の炭素放出がないテクノロジーにも拡張可能である。

 

  DOEは改善されたその長期の廃棄物R&Dプログラムを広げるべきである。

 地質処分の前に多くの数十年間に使用済み燃料を蓄える中央の使用済燃料貯蔵

施設の建設はは廃棄物処理戦略の不可欠な部分であるべきである。

米国は国際的なスタンダードを廃棄物輸送、貯蔵、処分、について作成することを奨

励すべきである。

  国際原子力機関が全ての疑わしい施設を調べる権限を持つべきである ( 追加プ

ロトコルの実施 )

 そして核物質管理のために世界的なシステムを開発すべきである。核物質防護、コ

ントロール、アカンタビリティを単なる会計を越えて進めるべきである。

 米国は濃縮技術について広い範囲でテクノロジーの発達を監視して、影響を与える

べきである。

  DOE R&Dプログラムは開いたもの、once-through燃料サイクルに焦点を当てるため

に再編成されるべきである。

 それは同様に国際的なウラン資源評価を行うべきである; 4つの極めて重要な挑戦

と関係して代替の核燃料サイクルの展開を査定するために、データを収集し、分析、

モデル作成、及びシミュレーションを行う大きな原子力のシステムを設立すること;

そして原子力のシステム分析プロジェクトの結果が利用できるまでは開発と先進

燃料サイクル及び原子炉のデモンストレーションを止めること。