Re: EEE会議(Re:「原子力の将来」MIT報告書の問題点:UCBからの反論)...............................2003.8.5
 
MITの研究報告書「原子力の将来」に対するカリフォルニア大学バークレー校(UCB)からの反論を伝える安 俊弘氏(Dr. Joonhong Ahn)のメール(8/5)に対し、鈴木達治郎氏(電力中央研究所)から次のようなコメントが寄せられました。ご参考まで。
--KK
 
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安先生のコメントを見て、簡単ながらいくつかコメントさせていただきます。

>(1)(MIT)最低50年はワンス・スルーで:
>
>(UCB)これは、米国においてこれから複数の処分場が建設されることを暗黙の前
>提とした議論。。。
>今回のMITの報告書にはこのエネルギー長官が行うべき議会への勧告に関して何
>も触れられていないので、将来の政策決定にどれくらい役に立つのか疑問。

MIT報告では、ユッカマウンテンにだけ依存している現在のDOEプログラムに対
し、「短期・長期的によりよいパフォーマンスを提供する廃棄物プログラムの選
択肢を追求すべき」と提言しており、具体案として「deep borehole」への処分に
ついて検討すべき、という提案をしています(p.87)。ワンス・スルーについて
も、技術開発を継続していくべき、という提言で、必ずしも今のまま進めていく
ことを許容しているのではないと思います。

>
>(2)(MIT)ウラン資源のことを考えるとリサイクルに(当面)経済性はない。
>
>(UCB)MITの経済性解析では、使用済み燃料直接処分費用を1キロ当たり400
>ドルと試算している。これは、今のYMR、そしておそらく今の3倍程度まで拡張
>されたYMRまでは妥当な評価と思われる。MITの言う「原子力の将来」がここまで
>のことならおおむね妥当。しかし、その先は非常に不透明。第2処分場自体が可
>能かどうかもわからない。

上記の提案のように、ユッカマウンテン以外の廃棄物処分場の選択肢を具体的に
提言されている点は留意すべきだと思います。また、群分離・核転換の経済性評
価については、現時点では不確実性が高すぎるということになっていると思いま
す。
>
>将来の原子力を考えるとき、現実的な仮定は「処分場はひとつ」であろう。MIT
>の提言には、ひとつの処分場をできるだけ長く使うにはどうするか、そのときの
>コストをどのようにまかなうかに対する提言がない。

処分場はひとつ、というのはかえってリスクが大きい、という主張だと思いま
す。廃棄物基金についても「将来のプログラムの進展に応じて見直すべき」とい
う提案(p.87)がなされています。


>(C)YMRの最近の性能評価結果では安全基準の100分の一以下のレベルの安全
>が確保されることが示されている。評価はかなり過度な保守性・重畳性を含めて
>いるため、処分場の設計と操業時の運用の方法を改善し、さらにアクチニドを減
>量することで、処分場の容量を10倍以上拡大すること(環境負荷、人間侵入時
>のリスクなどを増やさず)は可能である。

群分離・核転換については、その潜在的メリットは認めているものの、現時点で
ワンス・スルーを上回るメリットがあるかどうかの証拠がまだ明確でない、との
結論であり、引き続き研究開発を続けることを支援しています。しかし、現時点
でどちらがよいかを決定することはできない(すなわち両方のオプションを残し
ておくべき)」し、ワンス・スルーで問題がある、という証拠もない、という結
論だと思います。

>
>日本のコンテクストで考えると、発熱管理のしかたは処分場の形態(YMRが不飽
>和層に対して飽和層である、など)が異なるため、同じ手法は使えませんが、
>「処分場はひとつ」という点は日本の将来もおそらく同じだと思います。また、
>先進リサイクルの導入が必要になる時期も今想定されている4万本処分場がおそ
>らくその2倍程度に拡張され、さらにスペースが必要になったときであると考え
>られますので、今世紀半ばころでしょうか?発熱性のアクチニドの量は(以前河
>田さんがご指摘されていたと思いますが)おもにAm241で決まりますので、再処
>理までのスキームが重要ですが、いずれにせよ将来Amを回収する必要があるとい
>う点でも同じですね。

日本では、ご指摘のとおり、このような分析がまったくなされていないことが問
題であり、是非詳細な選択肢の分析・評価を行う必要があると思います。

>これは、もう国民の判断にゆだねねばならない大問題ですが、処分という観点か
>ら見ると、MITの報告書は(3)の立場であるといっていいと思います。UCBは
>(2)がもっとも現実的と考えます。(3)は、あまりに楽天的過ぎると思い
>ますがいかがでしょうか。あるいはシニカルに言うとMITの立場は(1)ともと
>れますね。

MITの立場は、どれでもないと思います。現時点では、ワンス・スルーが最も望ま
しいし、安全も確保できるが、ユッカマウンテンを唯一の処分場として依存して
しまわずに、選択肢を広げていくべきだ、という考え方で、群分離・核転換を含
め、ワンス・スルーについても研究開発をさらに進めるべきだ、という立場だと
思います。技術選択肢のみならず、「制度的ブレークスルー」として将来の国際
処分の可能性などにも触れています。また、最も重要な視点として、安全で経済
的な「中間貯蔵」の重要性にも触れており、二者択一ではない結論となっている
と思います。これは、楽天的な結論ではなく、きわめて現実的で冷静な結論だと
解釈できると思います。安先生がご指摘のように、国民の判断をゆだねるため
に、是非わが国でもこのような選択肢評価がなされるべきだ、と痛感している次
第です。

とりいそぎ。

鈴木達治郎 拝