EEE会議(Re: 「原子力の将来」MIT報告書に関する安・鈴木両氏のコメントに対する豊田氏の意見)...........2003.8.7

 
米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究報告書「原子力の将来」に関する安 俊弘氏(Dr. Joonhong Ahn)のコメントと、これに対する鈴木達治郎氏の反論をご紹介しましたところ、両氏間の議論に関連して、豊田正敏氏からも次のようなメールをいただきました。ご参考まで。--KK
 
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MIT報告書に関する安、鈴木両氏の討論に対してコメントします。

私と根本的に認識が違っている点は、高速増殖炉が40~50年以内に実用化されるのであれば、再処理によって
回収される大部分のプルトニウムは、高速増殖炉の初装荷燃料として利用されることとなるので、直接処分を
考える必要はなく、逆に実用化の見通しがないとすれば、ウランの寿命は今世紀限りで終わりとなり、処分場
の面積を心配する必要はない。処分場の面積については、両氏も指摘されているように、現在考えられている
よりも多くの廃棄物を処分出来ると考えますが、処分場が決まった段階にその岩盤特性や深度を考慮の上、処
分概念を決め、最適設計を考えるべきであると考えます。

また、処分場の数については、わが国の場合、地下水の下流に人家があるような所は、下流の住民の反対で難
しいと考えられるので、海岸線か、沖合い立地または人口の殆んどない無人島に近い島に限られますが、この
ような適地は我が国に多数存在し、何れも地下水の動きがゼロであるので、地元住民の理解が得やすいと考え
られます。問題は、一般国民の9割以上が高レベル放射性廃棄物の処分は危険であると思っている現状を打開
するため説明の仕方に一段の工夫をした理解活動を積極的に行う必要があり、今のような状態では、処分場を
了承する知事は一人もいないのではないかと考えられ、処分場は一ヶ所も作ることが出来ないと考えます。私
の経験からは、新しいプラントの立地については、最初の地点は、地域住民にプラントや施設の内容や安全性
を説明し、理解してもらうのに苦労するが、次の立地からは、我が国、特に近くに同じプラントや施設があ
り、それが順調に稼動している場合には、遥かに受け入れられやすい。YMRについては、休火山に近くかつ、
不飽和層の地点を選定したのか疑問です。また、実施主体もエネルギー省で国立研究所が主導の体制である点
にも問題があると考えます。WIPPのように、W社のような民間企業に委託する方法をとったほうが良かったの
ではないでしょうか。今のような進め方では、次の処分場だけではなく、YMR もうまく進まないのではないか
と懸念されます。

次に、高速増殖炉の実用化が出来ない場合に、原子力の寿命を延ばすための私案を提案します。出来るだけ技
術開発項目及びその技術開発のための時間、資金を減らすため、原子炉としては軽水炉を採用し、燃料とし
て、トリウムにプルトニウムまたは、U-233を混ぜたものを使用します。炉心としては、稠密格子を採用し、
熱中性子または中速中性子領域で燃料を燃やすこととし、また、毎年、定期点検時に、燃料を外側から内側に
移し変えるシャフリングを行うことにより、0.8~0.9の転換率が達成でき、燃焼度も8~10万MWD/T程度に高めら
れ、燃料の利用効率の上昇が期待できると考えます。そして、当面は、使用済燃料は使い捨てとし、直接処分
することとしますが、将来、乾式再処理の技術開発により、その実用化が出来れば、リサイクルも考えられま
す。以上のような提案が実現可能かどうか検討されたい。(牧氏などへのお願い)

なお、この提案でも、ウラン資源が不足する事態になることが考えられるので、その補給のためには、
(イ) 海水からのウラン採取
(ロ) 大電流陽子加速器による陽子とトリウムとの核スポレーション反応によって生成された中性子がトリウ
ムに吸収され、ウラン233を作る。
(ハ) 核融合炉(核融合発電炉ではなく、核分裂性物質の生成を目的とした小型炉である)の高速中性子をトリ
ウムに照射し、ハイブリッドによりウラン233を作る。
などの方法が考えられます。

上述の提案は、技術開発項目は、燃料の成型加工技術のみであり、プルサーマルに比べて、燃料の利用効率が
高く、経済性も優れていると考えます。また、プルトニウムは燃え尽くされるので、核不拡散の観点からも優
れており、アクチニド元素(両氏が問題とされているAm241も含めて)も殆んど発生しないので、今回議論して
いる処分場の面積もウラン燃料の使用済燃料(MOX使用済燃料を含む)の直接処分より、遥かに小さくなると考
えます。もっとも、処分場の面積が、核燃料サイクル・オプションの決め手になるといった本末転倒の議論に
は賛成できませんが。9割以上の一般国民が高レベル放射性廃棄物の処分は危険であると思っている現状を打
開するための理解活動を積極的に行おうとしないで、処分場の立地は困難であると主張されているのは、われ
われ、原子力開発の初期段階から携わっているものには理解できません。            以上


豊田正敏

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