EEE会議(Re:核燃料サイクル政策への提言:柴山哲男氏)............2003.8.17
 
 
標記件名の豊田正敏氏のメール(8/15)に対し、柴山 哲男氏から次のようなコメントをいただきました。ご参考まで。--KK
 
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豊田正敏氏からの「核燃料サイクル政策への提言ー核燃料サイクルの意義と問題
点」(以下単に「提言」とします)について提言をまとめることの意義及び内容につ
いて全般的には賛成ですが、一部の点については若干疑問の点もあり、私の考えのみ
を主張するつもりはありませんが、他の方の御意見も伺いたく、コメント致します。

1 高速増殖炉の開発時期について 
  提言では2015年までに実用化の見通しをつけ、つかない場合は開発を中断す
べしとしています。2015年という目標は開発を開始してから50年も経って実用
化の見通しが立たない技術は成立性がないところから決められたようであり、目標を
定めて開発を推進する立場から、期限を設定することには賛成ですが、高速増殖炉断
念の時期として2015年頃が妥当か否かについては若干の疑問があります。高速増
殖炉の開発を断念することはウランープルトニウム路線の放棄につながります。従来
の開発に対する不信からではなく、日本として政策の転換をしなければならない時期
が何時かという観点で議論されるべきではないでしょうか。私は7月21日付け

メールで主として使用済み燃料の中間貯蔵などの観点より2030年頃が一つの時期
ではないかとの提案を行いましたが、この他の考え方もあるかと思います。この時期
までにはある程度の代替策の準備も必要でしょう。これらを含めて高速増殖炉の開発
を打ち切る最終時期についてはもっと幅広い論議が必要かと考えます。

2 高速増殖炉の経済性について
  高速増殖炉の経済性について、軽水炉並とすることが望ましいことは、軽水炉か
ら円滑に高速炉増殖炉に移行するためには不可欠の条件で、これを目標に開発を進め
ることには賛成です。そのために提言にあるように更なるブレークスルーは必要であ
ると思いますし、開発体制についても国際協力を含めて国内開発体制をどのようにす
るかについても議論が必要です。今の時点で経済性のターゲットを緩めることは避け
たいとは思いますが、高速増殖炉が将来軽水炉と競合すべきものかどうかには疑問を
持っています。高速増殖炉はウランープルトニウム路線をとる以上必然的なものであ
り、最終的には、他路線、例えばトリウムサイクルなどとの対比で決定されるもので
はないかと考えます。軽水炉並の経済性を目指しつつ、最終判断はその時点の経済情
勢、エネルギー需給状況、資源状況などを勘案して実施されるべきではないかと考え
ています。問題の先送りといわれるかも知れませんが、エネルギーの根幹に関わる点
は現時点の状況のみではなく、もう少し柔軟に対応することが必要と考えます。経済
性はその時点での原油、ウラン価格などによっても変動します。仮にトリウムサイク
ルが有望だとしても、エネルギー確保またはプルトニウム燃焼などの観点より暫定的
に高速増殖炉を一時的に導入するという選択肢もあり得ると思います。

3 軽水型トリウム炉について
  軽水型トリウム炉については残念ながら現時点では知見を持ち合わせておりませ
んので、コメントは出来ません。ただ、以前にも述べた通り、プルトニウム路線の実
現が難しくなる場合も想定してトリウムサイクルを含め、代替案についての検討を進
めておくことは必要であると思います。この場合、軽水型トリウム炉は一つの有力な
候補にはなり得ると思いますが最初から一本に絞ることなく、幅広い検討の中で当面
数案を平行して具体的な検討を進め、ある程度の検討が進んだ段階で次段階に進む候
補を絞る方が良いのではないでしょうか。
 なお、燃料開発に競争原理を導入するという構想は良いと思いますが、目標が達成
出来なければ、委託費は半額返済させるとしても、高い燃料をそのまま使用するの
か、経済性なしとしてこの炉の実用化を断念するのか、また、開発に成功したとして
もその後はそのメーカの独占になりかねないこと、更に今後のエネルギー路線を一つ
の燃料メーカの開発努力のみに任せて良いのか等の点で疑問があります。競争原理の
導入は必要とは思いますが、開発の死命を制する所は慎重に考える必要があるのでは
ないでしょうか。

4 海水中ウランの利用について
  海水中のウランの採取については、将来のエネルギー資源確保のために、提言の
ように実用化の検討は必要と思います。ウラン路線を継続するか否かの判断をするた
めにも、高速増殖炉断念の判断をする時点までには経済性を含めて実用化が可能かどうか
の判断をつけておく必要があります。その意味で高速増殖炉同様、時期及び経済性の
目標を定めて開発を促進する必要はあると思います。但し、今の時点で過大な期待を
持つことには疑問があります。少なくともパイロットプラント程度までの研究は進め
た上での判断が必要ではないでしょうか。

5 直接処分について
  直接処分については以前豊田氏との間で問題点を挙げ、議論を行ったことがある
ので、重複は避けますが、私も直接処分に反対している訳ではなく、直接処分につい
ても以前指摘したように、核不拡散の点等からの問題もあり、「世界の大部分が採用
しているのでケチをつける必要はない」ということではなく、日本でも独自に十分な
検討を行った上で判断することが望ましいと考えており、この点で若干の差異があり
ます。直接処分に限りませんが、海外の技術を導入するとしても、独自の検討は進め
ておく必要があると思います。
                            以上 
  
柴山 哲男
tetuo shibayama
shibayama@mvh.biglobe.ne.jp


 
PS:
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