EEE会議(Re: 核燃料サイクル政策への提言:豊田氏→柴山氏)....................................2003.8.18
 
標記件名の柴山哲男氏のメール(8/17)に対し、再び豊田正敏氏より次のようなコメントが寄せられました。ご参考まで。
なお、この論議の重要性に鑑み、豊田、柴山両氏以外の方々もできるだけ多数、積極的に参加されるようお願いいたします。
匿名でもOKです。
--KK
 
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柴山氏のコメント(8/17)に対して各項目別に次のように解明します。

1 高速増殖炉の開発時期について 
私は、「高速増殖炉の実用化のためには、現在のような船頭多くして責任者不在の技術開発体制で、実施主体も
はっきりせず、具体的実施スケジュールもなく、ただ、漫然と「柔軟に」研究開発をしているのでは、何時に
なっても実用化のメドはたたないので、実用化時間軸を明示した実用化までの具体的技術開発スケジュールを
各段階ごとに詳細に作り、計画どおりに確実に実施すべきである。」と提言しております。

 この実用化の時期については、JNCの中神氏のコメントによれば、
「(3) 実用化に向けた開発シナリオ(スケジュール)
経済性については、2005年までに定量的評価をした上で、具体的に成立性を実証していくことになります。実
用化パイロットプラント(PP)の基本設計を2008〜2010年頃開始し、設置許可等に必要な資料・データ(新
燃料の健全性・安全性データ等)を揃えます。この間に立地選定や地元了解が必要なことは当然です。2015〜
2020年の間にはPPを建設し、
2030年頃までの約10年間の運転を通じ、燃料サイクル(低除染高燃焼度燃料等)の実証を行います。」と言っ
ておられるように、2015年にはPPの建設に着手するといっておられるし、また、実際には、仮に、立地が選定さ
れていたとしても新しいプラントであれば、軽水炉の場合でさえも運転開始までに20年はかかっているので、運
転開始後、今回の「もんじゅ」で経験したようなトラブルは何回か起こることを考えると、実証の確認は
2040~2050年頃になると考えられ、決して早いとはいえないと考えます。動燃が技術開発を開始してから50
年、PPの建設着手の時期のような節目、節目の時期にチェックアンドレビューを行い、実用化の見通しがなけ
れば止めるべきであってATRの轍を踏まないよう願いたい。高速増殖炉のみに拘って、40~50年後に実用化でき
ないとして中止し、それから他の原子炉型式の技術開発に転換するのでは、ウラン資源の観点から手遅れになる
ことが懸念されます。

2 高速増殖炉の経済性について
高速増殖炉の経済性について、私の経験によれば、新しい原子力プラントの場合、当初の見積もりよりは、少な
くとも5割は高くなることが普通であります。したがって、目標を今の時点で高くすることには賛成出来ませ
ん。勿論、今後のエネルギー情勢の変化を考えて、ウラン価格を現在の5倍の250ドル/kgUに上昇するという前
提で経済比較をすることには賛成ですが、40~50年後にも、ウラン価格は100~150ドル/kgU程度であると想定さ
れ、経済的リスクが高く、立地が難しい高速増殖炉を建設する電力会社があるとお考えでしょうか。また、軽水
炉との比較のみでなく、トリウム発電炉など他の原子炉型式や海水からのウラン採取、コジェネ、燃料電池な
どとの比較もすべきであると考えます。 高速増殖炉の実用化が40~50年後になっても不透明である現状にか
んがみ、これに代わる選択肢を排除するのではなく、これらについても並行的に、実現可能性について検討すべ
きであると考えます。

3 軽水型トリウム炉について
私は、「プルサーマルでなく、もっと転換率が高く燃焼度も高めることが出来る原子炉型式の採用を検討すべ
きである。その一つの選択肢として軽水型トリウム炉を提案する。」と言っているのであって、軽水型トリウ
ム炉に拘っているわけではなくもっと有望な炉があれば提案されることを期待しております。
我が国で、ナショナルプロジェクトが所期の成果をあげられないのは、JNCの組織、体制にあると考えますが、そ
れとともに、民間企業の活力の活用が不十分であり、かつ、競争原理がないことによると考え、民間企業による
競争入札を行うことも一案と考え、提案しています。私の経験からは、私の提案しているような厳しい条件で
なければ、「親方日の丸」で経済な実用化は難しいと考えます。
経済性の見通しが得られなければ、断念するのは当然であるし、成功した場合には、その労に報いるため、当分
の間、そのメーカーの独占を許すべきであると考えますが、独占にあぐらをかき、コストが高ければ、他のメー
カーへの発注に切り替えることも考えられます。
原子炉メーカーは、それまで、四社が共同でFBRの設計、建設を担当する「FBRエンジニア会社」を設立していた
にも拘わらず、実際に「もんじゅ」の受注にあたっては各社の利潤を優先して分割発注せざるを得なかった。
また、六ヶ所再処理プラントでも分割発注し、価格交渉はその後になったため、足元を見透かしてなかなかコス
トダウンに応じようとしなかった。このように、原子炉メーカーは、ナショナルプロジェクトを成功させよう
とすることを考えないで、自社の利潤の追求を優先する態度を改めるべぎであります。私が競争原理を主張し
ている理由の一つもここにあります。

4 海水中ウランの利用について
 私も、実用化出来ると断言しているわけではありませんが、その可能性があると考えているので、実現可能性
の検討をすべきであると言っているのであって、少なくとも例えば、鳴門海峡に数十基の捕集材を吊るしてウ
ランを回収するパイロットプラントによる実験程度は行うべきであると提案しているのであります。その資金
は、「もんじゅ」が1年間止まることによる運転維持費100億円で十分賄えると考えております。今の段階で、高
速増殖炉同様、時期及び経済性の目標を定めて開発を促進する必要があるとは考えておりません。

5 直接処分について
 私の提言を良くお読みになっていないことによる批判であると考えます。私の考えは、
「当面、英仏への再処理委託に伴って返還される32トンのプルトニウムは、米国始め関係諸国の核転用に対す
る疑念を晴らすため「余分のプルトニウムは持たない」との国際約束をしていることからも出来るだけ早く燃
やさざるを得ず、高速増殖炉の実用化が不透明な現状では、軽水炉で燃やすプルサーマルによらざるを得な
い。
また、六ヶ所再処理工場は、現在、原子力発電所に大量の使用済燃料が貯まり続けており、もし、再処理しな
ければさらに使用済燃料が貯まり、大部分の原子力発電所が停止に追い込まれ、大停電となり、国民生活及び
わが国経済に深刻な打撃を与えることになるので、当面、再処理を続けざるを得ない。
また、高速増殖炉が実用化されるという前提であれば、再処理によって回収されるプルトニウムは、高速増殖
炉の燃料として活用することになり、直接処分をする必要は全くない。また、その実用化の見通しがないと判
断される場合には、プルサーマルでなく、軽水型トリウム炉のようなもっと転換率が高く燃焼度も高めること
が出来る原子炉型式の採用を検討すべきである。従って、プルサーマルと直接処分の比較の議論は無意味であ
ると考える。」
柴山氏は、「海外の技術を導入するとしても、独自の検討は進めておく必要があると思います。」と言ってお
られるのは、どういう意味か理解できません。国際協力は必要ですが、わが国は原則として独自に研究開発をす
すめていると考えております。むしろ、海外文献を鵜呑みにしている点が問題であると考えております。 以



豊田正敏
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