EEE会議(核軍縮とプルトニウム:FMCT問題).............................................................2003.8.20

 
目下スイスのジュネーヴで開催中の軍縮会議(CD)に対し、日本政府は先週末、兵器用核分裂性物質生産禁止条約」いわゆるカットオフ条約(Fissile Material Cut-off Treaty=FMCT))に関する作業文書を提出しました。
 
このFMCT問題は、1995年に包括的核実験禁止条約(CTBT)が採択された後の最大の懸案として、軍縮会議で数年越しに議論されてきたものですが、各国の意見が対立してこれまで全く進展をみなかったものです。日本政府代表の猪口邦子大使が同会議の議長に就任した機会に、FMCT条約作成交渉に弾みをつけたいという狙いがあるものと見られます。
 
ただ、このFMCT問題には、政治的な問題のほかに、技術的にもいろいろな問題があります。とくに日本にとって心配なのは、条約の規制対象物質の中に、既存のプルトニウムだけでなく今後生産される平和利用目的のプルトニウムも含まれるのかどうかという点ですが、今回の日本の作業文書では、この点は必ずしもはっきりしておりません。今後、我が国の原子力の専門家たちも、この問題にできるだけ関心を持っていただきたいと思います。
 
ご参考までに本件文書に関する政府の説明(8/14外務省発表)は以下のとおりです。英文の全文テキストは外務省のHPに掲載されております。 --KK
 
******************************************

1.全般

 我が国は、14日、ジュネーブ軍縮会議本会議において、兵器用核分裂性物質生産禁止条約(以下「カットオフ条約」とする」に関する作業文書を提出した。本件作業文書は近く、軍縮会議公式文書として配布される予定。
 本件作業文書の提出は、ジュネーブ軍縮会議が1996年に包括的核実験禁止交渉を行って以来、継続的な形で軍縮交渉に従事したことがないという状況の中で、我が国が核軍縮・不拡散の最優先事項の一つと位置づけるカットオフ条約について、交渉が行われていない状況にあってもその実質的議論を深め、且つ条約交渉開始への歩みを促進することを目的とするものである。


2.作業文書の要旨(結論部分)

(1) カットオフ条約の関連問題の多様性・複雑性を考えると、交渉には幅広い技術的専門性と、困難な政治的判断を要する。軍縮会議の膠着を打開し、5年以内の終結を目標に交渉を開始することが緊急の優先課題である。

(2) カットオフ条約の関連問題は、3つ、即ち(1)条約の対象範囲、(2)検証を含む技術的検討、(3)組織的・法的事項に類型分けすることができる。将来の交渉のためには、これらを更に、法的・政治的事項と技術的事項に分けることができる。

(3) シャノン・マンデート(1995年に合意済みの交渉マンデート)は、兵器用分裂性物質の生産禁止を求めるものであり、平和利用の核分裂性物質を禁止の対象からはずしていることは明白である。この問題が再度問われるべきではない。

(4) 交渉は、将来の生産に焦点を当てた幅広い技術的検討を伴う。検証制度が作られなければならない。将来の生産禁止をストックの問題と結びつける交渉上の戦術は、無用に交渉を長引かせることとなり、核不拡散・核軍縮に対して有害である。技術問題は条約の枠組みが決まるまで議論できないというような主張は、適切ではない。

(5) 検証制度については、包括的アプローチを取るべきか、限定的アプローチを取るべきかという重要だが難しい問題が存在する。この問題についての解答を見つけるためには、安全保障上の便益、秘密の保護、検証の実効性、コスト効率性等の要素について検討されなければならない。

(6) 基本的には、包括的保障措置及び追加議定書により定められるIAEA保障措置が将来の検証制度の検討のための基礎となり得ると考えられる。原則的には、包括的保障措置及び追加議定書を締結している非核兵器国に対して、追加的義務が課されるべきではない。

(7) 技術的検討の複雑性に鑑み、CTBTの検証制度についての技術的検討のために設置されたものと類似の専門家グループを設置するとの考えは、将来の交渉のための共通の知的基礎を整えるとの観点から、真剣な検討に値する。

(8) 検証制度の交渉を促進する観点から、IAEAの経験、専門知識、インフラを、カットオフ条約の枠組みと目的に適合する形で、十分活用することは有益である。組織事項については、カットオフ条約の検証制度が将来的には、核軍縮を検証し、究極的に核兵器のない世界を確保するための組織になる可能性の観点からも、検討されるべきである。


(参考)
2003年我が国は、継続的に、カットオフ条約に関する実質的議論を深めるための努力を行ってきた。最近の主な動き次のとおり。

2月20日   軍縮会議本会議におけるカットオフ条約に焦点を絞った猪口大使の演説
3月28日   ワークショップ「多数国間軍備管理条約における検証の促進−−将来の検証制度、特にカットオフ条約」を、豪及び国連軍縮研究所と共催(猪口大使が議長)。
5月15日   軍縮会議本会議において、上記ワークショップの議論を紹介する猪口大使の演説

これに刺激される形で、英、蘭、スイスがカットオフ条約についての演説を、軍縮会議本会議において、相次いで実施した。