EEE会議(Re:原子力施設検査制度の見直しに関して:近藤駿介氏)........................2003.9.4

ここ数日来、標記件名のメールをいくつか差し上げておりますが、これに関連して、
特別会員の近藤駿介氏(東大大学院教授、総合資源エネルギー調査会委員・原子力部
会長)から次のようなメールをいただきました。 ご参考まで。
--KK
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保安院の取りまとめた検査制度等の改革案に対する意見募集に対して、何人かのEEE
会員の方から投じられたご意見のご紹介があり、興味深く拝見しました。いずれ、保
安院から適切な回答があるかとも思いますが、この一年間、この制度設計に深く係
わってきました立場として若干の説明を申しあげます。

1.今回の改革のポイントは我が国の規制検査を国際社会の当たり前の姿にするもの
です。従来の検査は、「事業者は自主保安でまじめにやっている。だから、規制側は
いわばその上澄みの(重要)部分を検査すればよい。」という、小生はこれを2階だ
け検査方式といっていましたが、ものでした。90年当時は、この趣旨ですから、検
査官は常駐していません。検査計画を事業者が作り、リハーサルをしてから検査官の
お出ましを願うというしかけであったと思います(小生の「原子力発電所で働く
人々」という本にその様子が記載されています)。今回の改革はこれを改めて、国は
いつでもどこでも(2階にかぎらず1階も)どこまでも(どんな書類でも)検査する
権能を有することを明らかにして、その程度は国民の付託を受けた行政機関として、
国民に適切な安全確保活動が行われていますよと説明するのに必要十分な検査を行う
(実態は監査で、良好であること歴然であれば、検査負担を減少する)柔軟なそして
当たり前の姿への変更するのです。

2.ただ、検査をする以上法定していないとできないので、検査する可能性のあるこ
とは保安規定に書き込むこととしました。自主点検に関しては、ご承知のように、電
気事業法と原子炉等規制法のわたり規制になっているので(これは温泉長屋型といわ
れ、改正が必要と思っています)、定期事業者検査という概念をつくりました。しか
し、この検査は品質保証体制という当然あるべき姿や当然なされる(自主)点検を抜
き打ちで見に行くのですから、これまでのように準備を終えたセレモニーの検査のよ
うにくだらない準備は不要になります。また、その根拠となる保守管理指針はJAEG指
針にゆだねましたから、実績とリスク情報をうまく使える賢い事業者は稼働率をどん
どん改善できるはずです。しかもこれは5年で全面改訂が協会規定で義務付けてあり
ます。また、定期検査項目も定期事業者検査に位置づけてありますから、できること
を自ら計画的に実施することにより定期検査自体についても従来のイメージで受身で
ある社はどうしようもありませんが、改善意欲のある社は理論武装することにより、
改善の果実を手に出来る仕掛けにしてあります。

3.これまでの我が国の設置許可や運転条件には、事業者に対して品質保証体制の整
備を求める明確な規定がありませんでした。これは国際的にみても異常でした美浜事
故の後、関西電力に対してこの体制整備を指導していらい、他社にも決まり文句でト
ラブルのあるたびにこの体制整備を求めて、その取り組みを定期安全レビューでみて
きましたが、形式的でしかなく、いらいらさせられるものでした。規制側も品質保証
と品質管理の区別があやふやな面もありましたから、仕方ありませんでした。それを
今回は保安規定に書き込ませ、保安検査の対象としましたから、これからは、この
PDCAサイクルが各事業者において機能していくことを期待しています。

4.NRCとNEIの関係を取り上げたのは適切です。我が国にNEIがないこと、あるいは
海軍原潜部隊の安全文化で全米の事業者の運転部門を仕切っているINPOもないこと
(数ヶ月前、NASAが海軍原潜部隊に学ぶことという報告を出しましたが、なかなか興
味深いものです)に対して、事業者はどう考えておられるのかという問題提起はどこ
かでした記憶があります。また、IAEAのOSARTの受け入れを極端に嫌がるなど、第3
者の批判を受けることを避けたがる企業文化は変えなくてはいけません。品質保証体
制の整備の要請がこれに寄与することを期待しています。

5.現在の米国の制度がよいとコメントされる方が多いのですが、NRCは実は今日に
至る制度改革の発端は1980年代に行った日本の制度の研究結果に基づくといっていま
す。ただ、その際に、確率論的リスク評価技術が進歩したので、この評価の結果、つ
まりリスク情報を用いて合理的に制度を設計した、これは後発の利益です。一方、我
が国はリスク論議を避け続け、古典的安全論に安住して90年代、21世紀を見据えての
規制改革の提言をきちんと行ってこなかった。

むしろ、この間に、東電の事例の原因を洗ってわかったように、知識基盤がきちんと
していないままに経営の効率化の掛け声に従ってしまった。この辺がどういう判断に
もとづくものであったか、メーカーの方も技術とか現場を本当にわかっていたのか、
そういうムードに流されないためにも、きちんとした制度への投資を行わないといけ
ない、そのためにNEIもINPOも必要だというべきでしょう。補修にしたって、米国で
は炉内構造部物の修理など内作でやっているところもあります。一方我が国では、
六ヶ所工場のプールの溶接欠陥をみればわかるように、メーカの金の切れ目が縁の切
れ目という当たり前の態度を念頭に、合理化で値切った以上は自分で見回って自ら品
質を保証する覚悟をするという、この世の当たり前の振舞ができていなかった。です
から、だめな会社は、まずは、新しい制度の下で品質保証活動に苦労してもらうしか
ありません。国にはそういう会社からは授業料をとってもいいんじゃないのといって
あります。

5.今回のもう一つの改革は1)トラブル報告基準を明確化したこと、2)マイナー
トラブルについてはこれを公表後、自ら電中研データベースセンターに登録して、こ
のデータベースには誰でも(学会を念頭においていますが)アクセスできるようにす
ることを約束させた、ことです。これも長い目でみてインパクトが大きい改革と思い
ます。


6.米国のNRCは議会に属するのではありません。日本の公取や公安委員会と同じよ
うに行政委員会です。米国では、大統領制ですから、いま環境行政が長官人事によっ
てがらりとかわっているようなことが起きていますが、さすがに原子力安全はそうい
うことでは困るので、行政委員会として、5人の委員の任命時期をずらして、大統領
が急激に体制一新をできないようにしてあるのです。その他の国では原子力安全行政
は環境省、健康安全省の一部局であったり、フランスのように産業省の一部局である
のが普通です。産業省の一部であるフランスでは重要決定には環境大臣が産業大臣に
連署することになっています。今日の我が国の制度はこのフランスの制度において環
境大臣の役回りを原子力安全委員会が行っていると見ればよい。その限りでは各国と
同等に独立性があるといってよいでしょう。

7.なお、検査結果等について現地事務所の所長クラスが現場で公開で講評をおこな
うことが重要であるとのご指摘がありましたが、これは私も今年の原産大会で海外事
例を紹介して提案したところです。現在、保安院は要所要所の事務所に課長クラスを
配置するべく人員要求をしていると理解しています。

以上