EEE会議(Re:「どうする日本の原子力」:原子力未来研究会の提言)..........................2003.9.9


「どうする日本の原子力〜混迷から再生へ〜」と題する原子力未来研究会(代表:山
地憲治氏)の連載が、月刊誌「原子力eye」
編集局の決定により突然中止した件につきましては、9/7のメールでお伝えしました
が、この件に関し、豊田正敏氏から次のようなメールをいただきました。ご参考ま
で。 

なお、掲載中止の事情等については、「原子力eye」の最新号(本日発売?)に若干
の説明が出ている模様です。
本件は極めて重要な問題でありますので、小生のベトナム出張中(9/9-13)も、これ
に関する議論は、EEE会議HPの「会員専用ページ」の掲示板などを利用して、是
非とも継続していただきたいと思います。
--KK

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永崎氏の原子力未来研究会の論点に対する反論を読んだが、私は、同研究会の論点に
対して、現状認
識と核燃料サイクル政策が混迷を極め、迷路に陥ってしまっており、政策の見直しが
必要であるという点で
は、全く同感であり、一致しているが、今後の具体的進め方については、かなり違っ
ており、この点は山地氏
にも私の「核燃料サイクル政策への提言」をお送りして、相違点の一部をe-mailで伝
えている。永崎氏は、私
の上述の提言を読んでいないか、読んでも理解する能力がないのか判らないが、「当
EEE会議での豊田様の
論点とほぼ同じ論点が述べられています。」と述べているのは全く失礼であり、厳重
に抗議する。私は、前か
ら申し上げている通り、このような永崎氏と論議するつもりはないが、原子力未来研
究会の論点との違いにつ
いて説明するとともに、永崎氏の論点の矛盾点の一部についても簡単に触れて見た
い。

なお、今回、「原子力eye」の連載企画が言論活動の露骨な介入により、中止になっ
たと聞くが、これが事実
であるとするならば、由々しきことで、将来に禍根を残すことになることを懸念して
いる。 私もこの企画は
偏りすぎていると思うが、何故「原子力eye」の誌上で堂々と反論し、核燃料サイク
ルのあるべき姿について
議論しようとしないのであろうか。

原子力未来会議の提言1

FBRは世界のエネルギーの将来に対する「選択肢の一つ」であり、わが国の理想の
国産エネルギーを提供す
る「夢の原子炉」ではない。現在の実証炉計画は白紙の戻し、FBR開発は「技術継
承」と革新性を重視した
開発路線に転換すべきである。核燃料サイクル開発機構と日本原子力研究所の統廃合
問題の中でこれからの研
究開発体制作りに注目しなければならない。

コメント1
高速増殖炉は実用化されれば、ウラン資源が60~70倍、有効活用されるので、高速増
殖炉、プルトニウムリサ
イクルをその政策の基本に位置付けるべきである。即ち、高速増殖炉の実用化が実現
せず、プルサーマルによ
るのであれば、他の化石燃料と同様に、ウラン資源も今世紀限りで枯渇する。問題
は、その実用化に向けての
技術開発のスピードがあまりにも遅く、何時になったら実用化できるか不透明である
ことである。
時間軸を明示した実用化までの具体的技術開発スケジュールを各段階ごとに詳細に作
り、計画どおりに確実に
実施すべきである。動燃が高速増殖炉の技術開発を始めてから約50年後の2015年まで
に、実施主体をはっきり
させ、実用プラントの詳細設計を固め、これに基づき原子炉メーカーから受注を前提
とした見積もりを徴収
し、その実用化の見通しについてレビューし、A-BWR並みの経済性が得られる見通し
がないと判断される場合
には、技術開発を中断すべきである。ATRの轍を踏まないようにお願いしたい。特に
今回JNCが原研と統合され
ると、益々、学術論文の作成と基盤技術研究に重点が置かれ、実用化のための技術開
発がなおざりにされるの
ではないかと懸念される。実用化のためのナショナル・プロジェクトの技術開発の進
め方を抜本的に見直すべ
きであり、また、この際、JNCも原研と統合するのではなく、経済産業省の所管に移
し、原子力発電開発機構と統
合すべきである。
また、高速増殖炉が実用できない場合に備えて、海水からのウラン採取や軽水型トリ
ウム炉などの他の原子炉
型式の実現可能性について検討すべきである。

なお、永崎氏が、「統合法人と初期事業化を担う民間企業とで実用化の事業体を作
り、早期に実用化・商業化
し、市場と密着して技術を発展・継承させるほうが経済的で、現実的である。」と
言っておられるが、JNCの
今の進め方では何時になっても実用化は出来ないことがやっとお判りになったことは
進歩であるが、民間会社
が、電力自由化と厳しい経営環境のもとで、リスクの大きいプロジェクトにどれだけ
協力できるか疑問であ
る。

提言2

使用済燃料貯蔵は核燃料サイクルに柔軟性を与える重要な政策オプションであり、緊
急時対応として受動的に
位置づけるべきでない。貯蔵後のオプションとして、再処理だけでなく、使用済燃料
の直接処分の可能性を確
保できるよう研究開発を開始すべきである。

コメント2
 当面、英仏への再処理委託に伴って返還される32トンのプルトニウムは、米国始め
関係諸国の核転用に対す
る疑念を晴らすため「余分のプルトニウムは持たない」との国際約束をしていること
からも出来るだけ早く燃
やさざるを得ず、高速増殖炉の実用化が不透明な現状では、軽水炉で燃やすプルサー
マルによらざるを得な
い。
また、六ヶ所再処理工場は、現在、原子力発電所に大量の使用済燃料が貯まり続けて
おり、もし、再処理しな
ければさらに使用済燃料が貯まり、大部分の原子力発電所が停止に追い込まれ、大停
電となり、国民生活及び
わが国経済に深刻な打撃を与えることになるので、当面、再処理を続けざるを得な
い。
然しながら、ウランの需給は緩んでおり、価格が安い状態が当分続く見通しであるの
に対し、再処理費及び
MOX燃料加工費が、従来予想値の数倍になっているので、プルサーマルは従来の予想
より極めて割高となって
来ている。しかも、高速増殖炉は実用化の見通しが不透明である。このような現状を
考慮すると、中期的に
は、ウラン価格が安い間はウランを燃やし、使用済燃料は40~50年間、長期貯蔵し、
長期貯蔵された使用済燃
料は、40~50年後の時点に、ウラン価格が上昇し、かつ、高速増殖炉が経済的になっ
ておれば、その時点に、再
処理し、回収されるプルトニウムは、高速増殖炉の初装荷プルトニウムに充当すべき
である。高速増殖炉が実
用化されれば、その立ち上げの段階に大量の初装荷プルトニウムを必要とするため、
その段階に、軽水炉の使
用済燃料を約2万トン貯蔵しておき、再処理容量も2千トン程度に増やして、再処理に
よって回収されるプルト
ニウムを初期炉心に供給する必要がある。これが、長期貯蔵を必要とする理由の一つ
である。

長期貯蔵実現のためには、まず、原子力委員会が、その後の情勢変化により、使用済
燃料の原子力発電所敷地
内での長期貯蔵を有力な選択肢と位置づける政策変更を行い、次いで地元に原子力発
電所の敷地内に貯蔵施設
を作ることを了承して貰い、そして、電力会社により貯蔵施設を完成させるという3
段階のステップが必要で
ある。勿論、地元の理解を得るためには、40~50年後には、使用済燃料を敷地から持
ち出すという確約をすべ
きである。
従来、原子力委員会が地元に使用済燃料は必ず再処理工場に運び出すとの約束をして
いる経緯もあり、地元の
了承を得て貯蔵施設完成までには、少なくとも10~15年かかると考えられ、その間
は再処理を続けざるを得
ない。
長期貯蔵後のオプションとしては高速増殖炉の実用化の見通しがなくなった場合、ウ
ラン資源の僅か1割しか
節減できないプルサーマルでなく、軽水型トリウム炉などもっと資源効率の高い原子
炉型式を採用することに
ついて考えるべきである。

提言3

プルトニウム問題は核軍縮・不拡散を巡る国際情勢と密接に関係している。余剰プル
トニウムの削減のため、
再処理計画を所与とした「供給ありき」を前提とする従来の政策から、プルトニウム
需要に合わせて再処理を
行う政策に転換すべきであり、六ヶ所再処理施設の計画は再考する必要がある。ホッ
ト運転に入る前に中断し
て計画を再考するよう警告。

コメント3
コメント2で述べたように、六ヶ所再処理工場は、現在、原子力発電所に大量の使用
済燃料が貯まり続けてお
り、もし、再処理しなければさらに使用済燃料が貯まり、大部分の原子力発電所が停
止に追い込まれ、大停電
となり、国民生活及びわが国経済に深刻な打撃を与えることになるので、当面、再処
理を続けざるを得ない。
英仏への再処理委託に伴って回収される32トンに加えて、六ヶ所再処理工場では使用

燃料の量を減らし、原子力発電所の停電を避けるため再処理せざるを得ないが、これ

より年間5トンのプルトニウムが回収され、プルトニウムが貯まり続けるのに対し
て、
プルサーマルは計画どおり進んでおらず、3~4年後に一部の原子力発電所で可能とな
るに
しても3~5基に止まる可能性が高い。このようにプルトニウムが増えつづける状況に

して、原子力委員会は、使用済燃料が貯まり、原子力発電所が停電するのを避けるた
め六ヶ所再処理工場を止
めるのではなく、プルトニウムを回収しないという条件で再処理を続けさせるべきで
ある。
なお、永崎氏は、「原子力委員会は再処理に当たってはPuの明確な利用計画の提示
を求めている。即ちPu
利用計画(=需要)のない再処理は許可しないと思う。」といっているが、もし、再
処理を許可しないで、そ
のために、原子力発電所が大停電になった場合の責任は取れるのであろうか。 ま
た、このような何時止めら
れるか判らないような不確定な状況では、日本原燃は経営を続けるわけに行かないと
思う。

提言4

放射性廃棄物は、原子力問題として特別視せず、健康・環境リスク問題として一般の
有害廃棄物と整合的に扱
うべきだ。廃炉廃棄物対策など時間的に優先度の高い課題に早急に対処する一方、高
レベル廃棄物処分には十
分な時間をかけて、幅広い選択肢の中から民主的なプロセスを重視して政策を絞り込
むべきである。
コメント4

趣旨には全面的に賛成である。高レベル放射性廃棄物の処分については、一般国民の
9割以上が危険であると
思っている現状を打開するため、説明の仕方に一段の工夫をした理解活動を積極的に
行う必要があり、今のよ
うな状態では、処分場を了承する知事は一人もいないのではないかと考えられ、処分
場は一ヶ所も作ることが
出来ないと考える。

なお、永崎氏の言っておられる「  処分法については国の環境安全基準、政策基準の
下、各種選択枝を審査評
価し、受け入れ自治体の了解を得る。」との提案は、全く実務の判っておられない人
のたわごとである。原子
力関係者の独り善がりの安全と一般国民の安心との間には大きなギャップがあること
を銘記した上で地元の理
解を得るよう努めるべきである。

提言5

規制緩和の潮流の中で原子力が生き残るためには、燃料サイクル・バックエンドの不
確実性を切り離す必要が
ある。既存軽水炉の寿命延伸と標準化の徹底によって他電源に対する原子力の競争力
を高めるとともに、民間
の力を超えた経済リスクには国が一定の責任を持てるように制度整備を行う必要があ
る。この問題は再処理問
題と不可分に結びついている。

コメント5
先ず、原子力発電が、生き延びるためには、A-BWRなどの採用による設計の合理化、
建設工法の改善、安全基準
の見直し、施設や機器、装置の発注の合理化などによる建設費の低減、燃焼度を
60,000~80,000MWD/T程度まで
高めるとともに、炉心管理の合理化による燃焼効率の向上、定期点検期間の短縮によ
り設備利用率を高めるな
どによって、さらに、経済性の向上に努めることは勿論必要である。
既に運転中の償却の進んだ原子力発電所のコストは火力に比べても安いかもしれない
が、
これから新しく作る原子力発電所のコストは運転開始後3~4年間は、発電コストが高
い上に、バックエンドコ
ストが割高なだけでなく、不確実であるのでは、電力自由化の時代に原子力発電所を
建設するインセンティブ
がなく、結局原子力発電所の新設は思うように進まなくなるのではないかと危惧され
ます。従って、国が従来
の政策に固執するのであれば、貴説のように、それによって生ずる経済的負担は国が
負担するのが当然であ
り、プルサーマルを続けることによる経済的負担の補填を国に要求すべきであると考
える。

  なお、永崎氏の言っている 「廃棄物処分費用は発生者負担の原則で対処するの
が発生量の抑制に良い」
のいうのは、既に、発生者負担の原則処分積立金を積み立てている。
また、「 民間の力を超えた長期の無限責任は国が負い、民間の責任は有限とすべ
き。」と言っているが、現
在の経産省と電力との折衝を見ても、国が長期の無限責任を負うなどとは到底考えら
れない。次に、「安価な
(現状の1/2価格)第3世代炉ABWR、AP1000等の導入」と言っているが、益
田氏または、林氏にAB
WR、柴山氏にAP1000が、現在の
ABWRに比べてプラント全体の建設費が1/2になるのかどうか確かめてほしい。


提言6以降は、提言5までに議論されてたところで、追加のコメントを必要としないと
か、今後時間をかけて検
討すべきもの、または、その分野の専門家に議論してもらった方が適当と思われるも
のなどがあり、私からは
コメントを控える。

六ヶ所再処理工場の経済学
 先ず、再処理工場の解体費用は、中性子照射によって、原子炉容器や炉心構造物が
高い放射線レベルになる
原子力発電所とは異なり、除染すれば、機器、装置の放射線レベルは低いので、解体
費用は、建設費の2割以
下になるのではないかと考えている。
一方、沃素除去フィルターは、揮発性のI-129の封じ込めのための固化処理が難し
い。TRU廃棄物は、処理、処
分方法が、決まっておらず、容積も高レベル廃棄物の20~30倍ある。処理、処分費用
を正確に見積もることは、
現段階では不可能であるが、通常は、数分の一程度には収まるのではないかと思う。
しかし、東日本の太平洋
岸の堆積岩では、岩盤の強度が、5MPa程度であるので、サイロは出来ず、処分坑道の
直径も5m以内に止まると
すると、掘削土量は、ガラス固化体の処分並となり、同等の処分費となることが考え
られる。処分概念が今な
お決まっていないことが問題であり、環境負荷も高レベル廃棄物に比べて大きくなる
のではないと考えられ
る。
 次の15年間の再処理費は、既に償却が終わっているので、資本費は考慮する必要が
なく、運転費のみとな
り、その後の習熟効果により、運転費、数千万円~1億円/トンのみを考えればよい。
しかし、問題は、最初の15年間は、再処理費3.5億円/トンの他に、MOX燃料加工費
が2.5~3.5億円/トンと予想外に高くなったことである。これがプルサーマルが極めて
割高になった理由であ
る。MOX燃料加工費の思い切った低減を図る方策を考えるべきである。
もし、その見通しのないまま、プルサーマルを続けるのであれば、それによる経済的
負担増は国が補填するの
が当然であると考える。

原子力委員会の決断
原子力委員会が、状況変化に応じて、核燃料サイクルの抜本的見直しをすべきという
考えには同意するが、
六ヶ所再処理工場を直ちに中断すべきであると言う考えには賛成できない。コメン
ト-2で述べているように、
原子力発電所に大量の使用済燃料が貯まり続けており、もし、再処理しなければさら
に使用済燃料が貯まり、
大部分の原子力発電所が停止に追い込まれ、大停電となり、国民生活及びわが国経済
に深刻な打撃を与えるこ
とになるので、当面、再処理を続けざるを得ない。また、青森県との信頼関係を損な
う恐れがある。これらの
問題を考慮しつつ、原子力発電所敷地内での長期貯蔵について地元の理解を得るよう
努め、その実現を図るべ
きであると考える。山地氏の言っておられる「六ヶ所や外国の貯蔵施設の活用」は現
実には不可能と考える。
もう一つの問題は、長期貯蔵した使用済燃料は、40~50年後に敷地から運び出すこと
が必要であり、その対策
として、もし、高速増殖炉が実用化されていれば、再処理してプルトニウムを回収し
て、初期炉心に充当する
が、高速増殖炉が実用化出来ない場合に備えて、プルサーマルでなく、もっと燃焼効
率の高く、経済性のある
例えば、軽水型トリウム炉の技術開発を並行的に進めておくべきであると考える。 
 以上


豊田正敏
toyota@pine.zero.ad.jp