EEE会議(核燃料サイクル論争: 反原発グループと未来研究会を考える).....................2003.9.17


当EEE会議における核燃料サイクル論争は、このところ暫時休戦状態にあるようで
すが、本日、永崎隆雄氏(EEE会議特別会員、日本原子力産業会議調査役)から次
のようなメールをいただきました。今後当会議の場でさらに議論して行くべき重要な
論点がいろいろ含まれているように思います。これをきっかけに、どうぞ活発にご意
見を開陳してください。
--KK

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反原発グループの原子力資料室のホームページhttp://www.cnic.or.jp/に「東電事件
論?原子力ムラの終わりの始まり」と言う飯田哲也氏の評論があり、反原発グループ
の戦略が述べられています。

 再処理を停止させようと言う推進派の反再処理グループと手を組み、原子力推進側
の亀裂を利用して、原子力廃止に持っていこうという作戦です。(末尾にその概要を
添付) 

 原子力推進派の再処理反対は再処理コストが高いとの経済問題とプルトニウムの核
拡散問題が大きな理由で、再処理一時中止論であって、未来永劫反対ではありませ
ん。

原子力を発展推進させようということは共通の課題です。

米国の原子力復活が共に原子力安全の向上を目指すNRC(国:国民性の追求)とN
EI(民間:効率性の追求)という2極対立構造から出てきた事を思うと、この問題
提起は原子力を発展させるための重要な対立で、相互に議論を深めれば発展的な回答
が得られるのではないかと思います。

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以下は私の原子力未来研究会等の再処理一時中止論者の再処理の経済性とプルトニウ
ム利用に対する反論です。  

1.再処理が高い原因は、競争のない総括原価主義や割り当て発注であったためで、
その原因は今後の電力自由化で解消できる。

2.追加のバックエンド費用見積もりは高くはならない。

TRU廃棄物処分0.06〜0.03円/kWh(発熱が少、ガラス固化体の1/10)

再処理工場解体0.08円/kWh(建設費の30%)

  

         処理量d  費用兆円  億円/1t 円/kWh

 再処理建設費:15年×800  2.2    1.84    0.52

  英国THORP :15年×1500  0.3     0.14    0.04

 再処理解体  :15年×800  2.2×0.3   0.55   0.16

   英国THORP :15年×1500   0.3×0.3  0.04   0.012

( 参考:使用済み燃料1tは3.5億kWh発電)

 原子力未来研究会による六ヶ所再処理費用は年間利子500億円、運転費800億円、減
価償却(15年償却)1500億円の合計2800億円で、3.5億円/t=1円/Kwhです。

六ヶ所再処理工場が15年で償却が終わると必要経費は年間運転費の800億円だけとな
り、再処理費は1億円/1d=0.3円/Kwhとなり、0.7円/Kwh安くなります。



3.電力自由化を背景に世界では1000j/kw級の第三世代炉が出現
  ガスコンバインドサイクルより再処理をする原子力が安くなる。

  下表はエネ調評価を元に未来研究会等の評価も入れたコスト試算です。
 直接処分は再処理時のU燃料が1.3倍、貯蔵量が3.5倍、処分費が2.6倍になる。
 TRU廃棄物の追加費用は0.11円/kWh。ガスコンバインドサイクルの運転費
と燃料費はNEAの1998年各国評価(日本)によります。

 kWh当たりの発電コストはプルサーマルが4.93円で、コンバインドサイクルの
7.9円より安く、直接処分の4.55円より僅か0.38円高いに過ぎません。
 この差は再処理工場の15年間の運転期間が過ぎ、借入金返済が終われば、再処
理の場合が4.23円になるため直接処分より逆に0.3円安くなります。

 また、再処理工場は既に建て終っているので、再処理を中止して直接処分する
時はその費用負担が生じます。それを15年償却としますと0.7円/kWhの追加で直
接処分は5.25円になり、プルサーマルより0.34円高くなります。


      建設費 資本費 運転費 U燃料  MOX  再処理 貯蔵  処分  合計

      万円/KW ―円/kWh   ―   ―   ―   ―   ―  円
/kWh  

エネ調評価  27  2.3  1.9  0.67  0.058  0.63  0.03 0.25  5.9

新プルサーマル12  1.02  1.9   0.67  0.058  1.0  0.03 0.25   4.93

同再処理償却後    1.02  1.9   0.67  0.058  0.3  0.03 0.25   4.23

直接処分   12  1.02  1.9  0.87   −   −  0.105  0.65  4.55

コンバインド  6  0.51  0.92    〜6.53           〜7.96



4.再処理をしても他の石油や石炭火力や水力などより安い。


5.再処理の停止は以下の時と考えます。

 @電力のプルトニウム利用計画が決まらない時(原子力委員会決定事項)

 A電力が経営判断で中止する時(電力判断)

 特に既に再処理費用は電力料金で徴収済みであり、国民の先払いを無視することは
問題と思います。

未来研究会の新しい提案は以下の通りです。

 1)2年間六ヶ所再処理工場を中止して、色々調整した後、再処理廃止がよい。

 2)原子力委員会が核燃料サイクルの選択肢を検討する。

原子力委員会は未来研究会を含めた関係者の意見聴取を昨年から1年かけて行ってお
り、各種選択肢を評価・公表しています。(今後、全国の関係者に報告する計画との
事)

又、電力が再処理を止めると言う経営判断をしたとは聞いていません。

       以上 
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反原発グループの戦略は以下の通りです。 

1    原子力ムラ(推進派)の「新しい論理」による「内からの批判」も見られる。
批判の急先鋒にたつのは佐藤栄佐久福島県知事である。

2    検査強化や独立行政法人など「国」の一人勝ちに対する電力会社(とりわけ東
京電力)の内部での不満も大きく、電力自由化、新エネRPS法で広がった「国」と電
力会社の距離が、さらに広がっている。

3    電事連という一枚岩を誇っていた電力会社にも、中央電力と地方電力間や中央
電力間にも温度差が生じている。

4    経済産業省の中でも、必ずしも核燃料サイクルに拘らない本省の大臣官房と固
執する資源エネ庁との間で微妙な軋轢が伝えられている。

5   原子力ムラの中の亀裂は、プルサーマルと六ヶ所村再処理工場を中心とする核
燃料サイクル問題の行き詰まりや、電力自由化が進展する中で広がってきた。

6    意思決定の中心にいる「旧い論理」の方は、電力自由化を睨んだ巻き返しを進
めつつある。自民党エネルギー政策小委員会が昨秋から動きを再開しているが、これ
は電力自由化の議論でも見え隠れしてきた「原子力引き取り義務」導入を睨んだもの
である。

  これに対して、「こちら(反原発)側」にはどのような「戦略」が必要か。

もちろん批判は重要だが、それだけではあまり有効とは思えない。

 問題の構造が「推進・反対」や「敵・味方」の二元論ではなく、原子力ムラ(推進
側)の中で亀裂が生じている以上、従来からの「向こう側」「こちら側」という二元
論から脱却し、理想を求める「べき論」だけではなく、現実性と有効性を見極めた
「次の一手」が必要である。

その「の一手」?たとえば再処理工場停止などで軌を一にする新しい連携を探り、そ
の中で現実的に達成できる目標に限定的に合意した上で、それを実現しうる政治的な
戦略を見極め、実行することである。

どのような方向を目指すとしても、鍵は佐藤福島県知事が握っていることは間違いな
いだろう。