EEE会議(Re:核燃料サイクル政策: 原子力未来研究会の提言について: 柴山哲男氏の意見)..........2003.9.20


原子力未来研究会の提言に関しては既に豊田正敏、永崎隆雄の両氏よりコメントが
出されていますが、少し違う視点より所感を述べさせて頂きます。なお、今回の所感
は月刊誌「原子力eye」に掲載された原稿に対するもので、その2については同会

ホームページで目を通しましたが、以下の所感には特に関係はありません。

1 本提言からは今後の我が国のエネルギーをどのようにするかという点が見えな
い。原子力発電自体は否定しないようにも見えるが、「その後」のエネルギーをどう
するかについては全く言及がない。提言というからには、当面の問題のみでなく、将
来に亘って「どうする日本の原子力」と合わせて「どうする日本のエネルギー」につ
いても触れるべきではないか。

2 現在の核燃料サイクルが本提言に記載されているように種々の問題に直面してい
るのは確かであるが、本提言は、これらの問題の解決を頭から避け、問題を先送りし
ているだけではないか。何故問題を正面から解決しようとする姿勢は取れないのか。
理由は個々に示しているが、問題の解決から逃げているとしか感じられない。現状は
完全な閉塞状態ではない。プルサーマルにしても、もんじゅにしても関係者は懸命に
再開のための努力を重ねている。次期高速炉についても建設費など問題はあるが、削
減のための検討は進められている。再処理の今後の操業費など事業費の増加について
は確かに問題ではあるが、今後削減のための努力が行われるであろう。本提言はこれ
ら必死の努力は止め、当面楽な道を選ぼうとしているだけなのではないだろうか。結
果的に将来の人により一層の努力を強いることにならなければ良いと思う。

3 技術は困難な課題を克服して進歩する。もんじゅも漏洩事故の解決と再開のため
の努力を通じて安全性についても種々の知見が得られ、これはもんじゅのみでなく、
今後の高速炉開発にも生かされると考えている。また、今後の運転を通じて設計を実
証することも重要である。単に設計して建設しただけでは技術の確立は得られない。
実際に運転して見て、種々の問題は生ずるであろうが、それを一つづつ解決すること
により、技術が真の意味で確立、進歩すると言える。再処理についても同様である。
今後の運転で生ずる問題を解決し、安全で安定した運転(但し運転計画をどうするか
については今後のプルトニウム需給の状況により検討を要する)を行う中で、操業費
の削減のための検討も行えるであろうし、設計、建設の合理化のための知見も得られ
るのではないであろうか。

4 提言ではプルトニウム利用に関する「国策」に変更がないことに疑問を呈してい
る。確かにこの間に前提条件の一部は変わっているが、本質的な変化はないのではな
いか。当初想定した経済成長は鈍化し、エネルギー需要の伸びも少なくなっている。
天然ガスの利用増大は将来のエネルギー資源の問題を多少楽にしている面はあるが、
地球環境問題のようにこの間に新しく具体化した問題もある。しかしこの間に新しい
エネルギー源が開発された訳ではなく、時間的な猶予が与えられただけに過ぎない。
海外ではこの間に原子力批判、核不拡散、経済性、政治的背景などを理由とした原子
力政策の変化ともとられる動きは見られる。しかし米国が再処理容認の方向に向か
い、欧州諸国も政治情勢が変われば元に戻る可能性もある。我が国として「国策」が
変更されなかったのは、政治的な安定もあるが、変更すべき理由がなかったことによ
るものである。「国策」にブレがなかった(但し前回の原子力開発利用長期計画で高
速炉を「選択肢の一つ」とグレードダウンしたことは「国策」のブレで、その後の混

の一因ともなっており、適切ではなかったと考えている)ことは非難されるよりも、

国に比して評価されても良いのではないであろうか。なお、この問題に関しては、
国、原子力委員会は「国策にはいささかの変更もない」というだけではなく、何故変
更を要しないかについてもう少し丁寧な説明をすべきではないかと思う。燃料サイク
ルに関して各方面より議論がでている中で原子力委員会が沈黙を守っているのは適切
であろうか。意見には耳を傾けた上で、きちんとした判断を示すことが求められてい
る。
  
柴山 哲男
tetuo shibayama
shibayama@mvh.biglobe.ne.jp