EEE会議(Re:核燃料サイクル政策への提言:高速増殖炉の開発時期など: 豊田氏の意見).......2003.9.20


標記テーマに関する永崎隆雄氏のコメントに(9/19)対し、豊田正敏氏から昨日(9/19)
のメールに続き、
さらに次のようなメールをいただきました。 本件論争の焦点が大分絞られてきたよ
うに思いますが、
引き続き、建設的で、かつ、できるだけ「すれ違いにならない討論」を期待する次第
です。
--KK
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 永崎氏の高速増殖炉の開発時期などに対するコメントに対して、以下のように反論
します。

私が提案しているのは、繰り返しになるが、「動燃が高速増殖炉の技術開発を始めて
から約50年後の2015年まで
に、実施主体をはっきりさせ、実用プラントの詳細設計を固め、これに基づき原子炉
メーカーから受注を前提
とした見積もりを徴収し、その見積もり結果により、実用化の見通しがないと判断さ
れる場合には、技術開発
を中断すべきである。ATRの轍を踏まないようにお願いしたい。」と言っているので
あって、節目、節目に、
チェックアンドレビューを行い、見通しが無ければやめるのが当然であって、実用化
の見込みが無いにもかか
わらず、巨額の国費を浪費して、続けることが社会的に認められるとお考えなのかお
伺いしたい。今まで原子力
界では、一度決めてしまえば、状況変化があっても、絶対に変えようとしない傾向が
強すぎる点が問題であっ
て、ATRでも、原子力委員会が、何時までもやめようとしなかった轍を踏むべきでは
ないと考える。

他の原子炉型式に転換する場合、原子炉型式によっては、実用化までにかなりの時間
がかかることも予想される
ので、決断が遅れれば、ウラン資源が不足し、原子力を続けることが出来なくなる事
態も考えられるので、技術開
発担当者の希望的見通しではなく、原子力委員会の厳正な判断による早期の決断が必
要であると考える。

海水からのウラン採取について、「劣化ウランが無限に溜まってくるという環境上の
本質的な問題がある」と
いっておられるが、劣化ウランは、放射能が低く、地下100m以深に埋設することによ
り、環境上の問題はないと考
える。これこそ、本末転倒の議論である。海水からのウラン採取の可能性について
は、海水中には、約45億トン
のウランが含まれており、その1割の4.5億トンが利用できたとしても、今後数世紀の
ウラン資源は確保され
る。そのウラン濃度は1立方メートルあたり、僅か3mgであるが、最近、原研により、
捕集効率100万倍の捕集
材が開発され、このことは津軽海峡で実規模実験によって実地に確かめられている。
また、海水温度が10℃上
昇すれば、捕集効率が2倍になる。 その上、バナジュウム、コバルト及びチタンも
副産物として回収される。
今後捕集材の織り方の技術開発により、捕集効率をさらに2倍程度に高めることは可
能と考えられ、価格は、
100ドル/kg程度になる可能性は十分ある。 問題は、ウラン回収のためのインフラス
トラクチャーの建設費が
高くつくのでその低減を図る必要があり、そのためには、適地の選定とコンサルタン
ト会社またはジェネコン
の積極的な協力による海洋土木工学的検討が必要である。この実現可能性検討のため
には、それほどの費用も
必要ないし、期間もそんなに長くかからないと考えられるので並行的に検討すべきで
あると考える。

永崎氏の「トリウムサイクルについては、高ガンマー放射性線問題からプルトニウム
よりはるかに実際のメンテ
ナンスが難しく、DOEのマグウッド局長の評価にもありますが、近未来の実現は困難
と思います。」と言ってお
られるのは、トリウム溶融塩炉をさしていると考える。これについては、おそらく、
古川氏などから反論がある
と考えるが、私の提案は、高速増殖炉の実用化が不透明となり、経済的に割高なプル
サーマルを40~50年の長期
間に亘り続けざるを得なくなる場合に、これに代わる燃料利用効率に優れ、かつ経済
的になる可能性のある選択
肢の一つとして、軽水型トリウム発電炉を提案している。燃料には、トリウムにプル
トニウムを混ぜたものを
採用する。炉心としては、稠密格子を採用し、熱中性子または中速中性子領域で燃料
を燃やすこととし、ま
た、毎年、定期点検時に、Pu-Th混合燃料を炉心の外側に装荷し、燃料を外側から内
側に移し変えるシャフリン
グを行うことにより、炉心内部でU-233が燃えることにより、0.8~0.9の転換率が達成
でき、燃焼度も8~10万
MWD/T程度に高められ、燃料の利用効率の上昇が期待できる。使用済燃料は直接処分
することにより、燃料成型
加工時の高ガンマー放射性線問題は全くない。

軽水型トリウム発電炉とプルサーマルを比較すると、

      軽水型トリウム発電炉       プルサーマル

燃料利用効率 転換率0.8~0.9、     転換率0.6、
      燃焼度8~10万MWD/T      燃焼度4.5~6万MWD/T

燃料成型加工 Pu-Th混合燃料の  Pu-238が大量に含
      成型加工技術の         まれているので成型
      技術開発が必要         加工費の低減が必要
原子炉安全性トリウム発電炉の   全炉心のプルサーマ
      炉心特性は運転実       ルは、制御系の改造
      績が少ないが、技術     が必要
      
核不拡散  プルトニウムを生成    使用済燃料中にも
      せず、核拡散の危険     プルトニウムが残
      性は全くない             るので核拡散の危     
                            険性がある

環境負荷   TRU廃棄物の生成量  MOX使用済燃料を
      が桁違いに少なく、         どうするかが問題
      環境に対する影響及      再処理するとすれ           
          
      び処分費用が少ない       経済的に極めて割           
   
                             高になるだけでな  
                             く、環境負荷も大  
                             きい。

技術開発項目 Pu-Th燃料の成型  MOX燃料のコスト
及び期間   加工技術の開発のみ  ダウンのための技  
                             術開発が必要

社会的受容性 新しいトリウム炉で   大量のプルトニウ
      あることから、若干、         ムがあることから、
      地元住民の理解を得る    地元住民の理解を           
                            
      のに時間を要する        得るのに時間を要 
                             する 


以上の軽水型トリウム炉とプルサーマルの比較を要約すれば、  

       軽水型トリウム炉     プルサーマル
燃料利用効率     ◎       ○
燃料成型加工     ○       ◎
原子炉安全性     ○       ○
核不拡散         ◎       △
環境負荷         ◎       △
経済性           ◎       △
技術開発         ○       ○
社会的受容性     ○       ○



これだけ丁寧に説明しているので、よく読んで理解した上ですれ違いにならない討論
をお願いする。

豊田正敏
toyota@pine.zero.ad.jp