EEE会議(「原子力安全規制組織のあり方」: 近藤駿介氏の意見).........................................2003.9.21

標記の題名による近藤駿介氏のご意見が、昨日(9/19)付けの電気新聞の時評
「ウェーブ」欄に掲載されました。すでにお読みになった方も多いと思いますが、大
変重要なご発言であると考えますので、同氏のご了解を得て原文をご披露します。ご
参考まで。
--KK

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全国知事会から原子力安全規制組織の独立性を高める要望が出された。これはマスメ
ディアがエネルギー省と別に原子力規制委員会を設置している米国の姿を例に掲げて
時折行う、この種論説を反映していると忖度する。

しかし、この姿は、大統領の行政権限が強い米、露と米国の隣のカナダに限られ、国
際的には例外的である。

米国がこれを採用したのは、大統領が長官を変えると政策が変わるといわれる国柄で
あるところ、公益事業の安全規制には大統領の政治的影響が過度にわたらない組織形
態が良いこと、原子炉から放射線・放射性物質の利用に至る事業の安全規制や核物質
規制を行わせると、組織の活性を維持できる人事が可能な規模になるからと理解され
る。しかも、エネルギー省の所有する多数の原子力施設はこの省の自己規制下にある
から、規制と推進行政の分離原則がマスメディアの伝えるようにこの国で貫徹されて
いるわけではない。

その他の大部分の国では、原子力規制組織は大は局、小は課の規模で、いずれかの省
に属している。英国では環境・運輸・地域省保健安全執行部の原子力施設検査局、独
では緑の党から入閣したトリッテン氏が原子力規制も環境規制も掌握したいとして設
置した環境・自然保護・原子力安全省の原子力安全局が担当組織である。

仏では、当初、産業安全行政や原子力行政を所管する産業省に原子力安全局が設置さ
れたが、その後、規制者と被規制者の分離、放射線規制と原子炉規制の統合が国会か
ら求められて変化を続け、現在はこの局が原子力安全・放射線防護総局に改編され、
経済産業大臣のみならず環境、厚生両大臣の指揮も受けている。

我が国の原子力安全保安院は、各国同様、局レベルで独立組織であり、原子力推進行
政も所管している経済産業大臣の指揮下にあるけれども、原子力安全委員会に行政内
容のダブルチェックや監査を受けているので、この仏の制度に近いと言えよう。

ところで、大事なのは、この規制活動が委員会や局(院)長の指揮下にあるととも
に、その判断と活動が科学的合理性と透明性を有していることである。このため、ど
の国でも規制行政に科学的知見を提供する研究機関と規制の長に意見具申する学識経
験者からなる諮問委員会が設置され、高い水準の学術的知見に基づく独立した安全規
制活動を可能にしていて、これが規制行政の独立性を保証している。

我が国は、この点でも日本原子力研究所等が安全研究を行い、安全委員会や原子力安
全保安部会が適宜適切な審議を行って例外ではない。だから、我が国の規制組織の独
立性が国際水準からみて不十分とする指摘は失当である。

なお、筆者は、民主党が二〇〇〇年に用意した原子力安全委員会を行政委員会とする
法律案を、ダブルチェックという原子力規制行政の非効率性を解消している点で評価
する。ただし、我が国には、この点以外に、電気事業法、原子炉等規制法、放射線障
害防止法によるつぎはぎ行政の存在という古い課題がある。

そこで、いま行うべきは、こうした小手先の変更ではなく、公正取引委員会や公安委
員会という行政委員会は独禁法や警察法によって設置されていることも念頭に、保安
院の活動振りの十分な評価を踏まえて、これら三つの法律を整理して新しい原子力関
係規制行政法体系を打ち出し、これに従っての行政を担う所要人員規模を見極めた上
で、これを行政委員会組織あるいはある省の一部局または二大臣の指揮権に属する組
織とすることも定める「原子力安全法」という新法を取りまとめる丁寧な作業である
と考える。
      
       近藤 駿介