EEE会議(Re:核燃料サイクル政策論争:再処理、プルサーマルの経済性など: 永崎氏から豊田氏へ).............................................2003.9.21

標記テーマに関する永崎隆雄氏のメール(9/19)に対しては、豊田正敏氏より2通の
メール(9/19, 20)で反論が行われましたが、これに対し、再び永崎氏より豊田氏の
コメントに反論する内容のメールをいただきました。ご参考まで。
--KK

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「核燃料サイクル政策への提言:再処理・プルサーマルの経済性など」に関し豊田正
敏氏からいただきましたメールに対して、以下のとおりお答えします。


1. 豊田氏:「私の9/9の原子力未来研究会の論点に対する反論を全く読んでいただ
けていないのは遺憾であります。」

回答:

豊田様の反論は読んでおります。未来研に対する反論でしたので、豊田様へは反論は
しませんでした。


 2.豊田氏:「もし、再処理しなければさらに使用済燃料が貯まり、大部分の原子
力発電所が停止に追い込まれ、大停電となり、国民生活及びわが国経済に深刻な打撃
を与えることになるので、当面、再処理を続けざるを得ない、という本音の理由に
よって理解を得ようとしないため、議論が混迷していると考えます。」

回答:

豊田様のご指摘の大停電の回避は使用済燃料の発電所内貯蔵と中間貯蔵で解決しませ
んか? 国も2000年に「貯蔵の事業に関する規制」を施行するなど本事業を認めてい
ます。

電力は発電所内の貯蔵プールの改造や貯蔵ラックの改造で貯蔵容量を増強していま
す。又、燃料も高燃焼化が進められていまして、発生量も減ってきています。

又、2010年には中間貯蔵施設「リサイクル燃料備蓄センター」が稼動する計画で、貯
蔵が満杯で大停電とはならないと思います。下表参照。

やはり、再処理の目的は環境負荷の低減とエネルギーの自立性の向上です。もっと言
えば、再処理は天然ウランのほぼ99%を占めるウラン238を燃やす技術の要で、こ
の技術によって人類は子々孫々未来永劫の安定したエネルギーを獲得できるのです。

海水ウラン45億dU=世界の現ウラン年間消費約6万dU×7.5万年=高速炉利用
時はこの約100倍の750万年分=原子力が現在の10倍になっても75万年分。

電力も、単なる経済性だけでなく、国の発展、社会の発展、子孫の発展を願って事業
をやっていると思います。そのために再処理は高速炉に結びつく非常に重要な道程と
考えていると思いますが如何でしょうか?

次ぎに、再処理を中止し、50年貯蔵後、高速炉用に再処理した場合はプルサーマル
に比べて、以下の部分が追加され、0.4円/kwh位高くなると思いませんか。

1)     ウラン燃料費:   約 0.1円/kwh UP

2)     中間貯蔵費 :   約 0.1円/kwh UP

3)     既工場の償却:  約 0.2円/kwh UP(45年間で償却時)

直接処分時の使用済燃料貯蔵は冷却期間50年が必要なので、貯蔵庫容量は年間発生
1200トン×50年=6万トンが必要になります。貯蔵庫建設費はキャスク型の乾式貯蔵
法で3200万円/トン×6万トン=1.9兆円(0.091円/kwh)、従来のプール型5200万
円×6万トン=3.1兆円(0.15円/kwh)と計算されます。これは再処理工場2.2兆円
と同等です。 

(参考)再処理を実施しない場合の使用済み燃料貯蔵余力推移

        (tU)     1999年   2002年   2005年    2010年

年間発生            900     740 *A  930 *I    980 *I

使用済み燃料貯蔵量     8030 *E  10460 *E 13200 *推  18000 *推

使用済み燃料貯蔵能力 12000 *E  16190 *I   18190 *推  21990 *I

発電所管理容量      12000     15190    15190 *推  16000 *推

六ヶ所再処理貯蔵          −    1000     3000      3000

リサイクル燃料備蓄C         −     −     −         5000

貯蔵余力                  約4000     5500    5000     4000


*A: 原子力委員会、*I: 原子力産業会議ポケットブック、*E: エネル
ギー調査会 、*推: 推定計算



3.豊田氏: 「再処理が高い原因は以下で、国際価格並になる見通しは無いと考え
ます。

1)再処理の非専門原子炉メーカーに発注

2)日本原燃の大株主は原子炉メーカー、ゼェネコンなど受注者で、競争入札で一社
に絞ることは不可能で分割発注で競争原理が働かなかったこと

3)自社設計、国際競争入札発注、自社専門家の工場常駐品質管理がない

4)我が国では、専門家の流動性が悪く、適材を雇うことは容易でない

5)耐震設計、飛来物(航空機衝突)対策及び国際基準より厳しい臨界防止設計など

6)JNCの進める高度再処理技術が何時実用化できるか不透明

7)電力会社とJNCの出向者が大部分の日本原燃の体制」


回答:

豊田様の原因解析は、社長経験者として、深い洞察で原因を明確にされており、敬意
を表します。今、規制改革、自由化や独立行政法人化等の体質改善のチャンスが来て
いるので、積極的なよい提言をすれば実現すると信じます。

私の提言は以下の通りで、自由化等の大きな改革に期待しています。

1)コスト低減も大事ですが、日本の産業技術競争力育成が大切と思います。

日本の原子炉メーカー三菱は仏、再処理会社コジェマ社が狙っている優れたメーカー
であり、今後、三菱を含めて、優れた再処理メーカーを育てるべきです。

2)大株主は顧客である東京電力で、電力自由化で今後はコスト意識が高まると思い
ます。

3)自社設計能力向上等はJNCのR&D運営を原燃が受託、メーカの設計者、建設
監督者等の原燃雇用はいかがでしょう。

4)経済の世界化、自由化等で終身雇用制が変革中。建設終了後のメーカー、R&D
終了後のJNCは専門家の流動化が必要になってきませんか。

5)米国の原子力改革のように自由化を背景に経済性と効率の意識を持った経営者が
出れば、規制の合理化が出来ませんか。

6)高度再処理技術の実用化はJNCの改革が今進められていますが、民間側受け手
とプロジェクトのチェックアンドレヴュー体制を決めないといけないと思います。日
本原燃のJNC専門家雇用とR&D実施の原燃受託も考えられませんか。

7)JNCと電力に加えてメーカーとの集合体をうまく組織機能させることが大切で
はないでしょうか。



3.豊田氏:「第二再処理工場は何処も作るところは無いと考えます。永崎氏の言っ
ておられる『電力自由化で解消できる』と言うのは、全く無意味であると考えま
す。」

回答:

 豊田様の貴重な経験も有り、上記のように高コスト化の原因が解消でき、高価格建
設費の償却が終われば、再処理は欧露並に安くなり、プルサーマルの方が直接処分よ
り、経済的になります。

そして、溜まっている使用済み燃料も、地元からも再処理の約束を守れといわれます
ので、第二再処理施設建設という事になるのではないでしょうか。

また、高速炉の再処理もあります。

再処理工場を一体化した1〜2兆円の6GW級高速炉パーク構想を考えています。日
本全国で90GWの原子力を高速炉で建設するとしますと、このパークは5年毎に建
設し、15箇所、総計を75年かけて建設します。再処理工場は15工場で改善しな
がら導入されます。


4.豊田様:「TRU廃棄物は、封じ込めの難しい揮発性I-129の沃素除去フィルターを
含め、処理、処分方法が、決まっておらず、容積も高レベル廃棄物の20~30倍ありま
す。従って、処理、処分費用を正確に見積もることは、現段階では不可能でありま
す。特に、わが国の場合、処分場の適地は、岩盤の強度の低い堆積岩となる可能性が
高いので、サイロは採用出来ず、掘削土量は、ガラス固化体の場合と同程度になるか
もしれない。

処分概念が決まっていない現段階に、処分費や処分場面積を正確に推定することは不
可能ではありますが、再処理費やMOX燃料加工費に比べればたいしたことはないと考
えます。永崎氏のいっておられる発熱量は、TRU廃棄物の場合、処分費には関係あり
ません。」

回答:

TRU廃棄物は放射能が低く、発熱が低いのですが、寿命が長く、種類が多い特徴が
あります。2000年3月、原子力委員会バックエンド対策専門部会は「超ウラン核種を
含む放射性廃棄物の処理処分の基本的考え方について」廃棄物の物理・化学的性状と
放射性核種濃度に応じて適切に区分した上で

1)浅地中のコンクリートピット処分

2)余裕深度処分

3)地層処分(人工バリヤと緩衝材、天然バリアの組み合わせで多重防護化)

をする基本的考え方を示しましたが、具体的な放射能濃度の分類基準や規制法はご指
摘の通り、安全委員会検討中でまだ決められていません。


 TRU廃棄物の量はご指摘の通り、高レベル廃棄物よりは多いのですが、発熱が少
なく、地層処分しても重ね置きができ、施設全体広さは約1/50で、コストは1/
10位と評価されています。

Puや超ウラン元素は深地層の還元雰囲気の水環境では溶解度が極めて低い水酸化物
沈殿を形成して、拡散せず、よく閉じ込められます。

しかし、ハロゲン元素である沃素I−129は還元雰囲気の水に溶け出しやすく、こ
れを含んだ廃棄体は閉じ込めが難しいと言われており、高レベル廃棄物のような多重
バリヤ対策をした地層処分が必要な分類に入っています。即ち、ドラム等に入ったセ
メント固化体廃棄体は吸着効果のあるセメントで囲い、水の流れを防ぐ粘土緩衝材、
天然の岩石バリヤで閉じ込めることが考えられています。

高レベル廃棄物の場合はステンレス容器に入れられたガラス固化体とそれを囲む厚さ
30センチの鉄製容器の人工バリア、粘土の緩衝剤に天然岩石バリヤの5重のバリ
ヤーで防護します。



5.豊田様:「問題は、原子力発電原価が、運転後最初の4~5年間のコストが高く、
かつ、バックエンドコストが不確実な状況では、電力自由化により、電力会社の経営
者に原子力発電所を新設するインセンティブがなくなったところにあると考えま
す。」

回答:

原因は初期コスト高よりもむしろ、経済が安定成長期に入り、電力需要の伸びが少な
いことや、競争者の参入や原子炉退役や長寿命廃棄物に対する責任の重さ等による将
来の不安があるからだと思います。

原子力は100万kw1基3000億円と、ガスタービン等の600億円等に比べ、建設費が高
く、借入金での建設になるため、資本費が高くなり、資金調達の問題や今後の競争力
強化上の欠点になります。 自己資金でやれれば圧倒的に競争力が強くなるのです
が、3000億円もの資金を自己資金で出せる会社は少ないと思います。

しかし、このような時こそ、むしろ最新設備に更新して高利益率投資を行うことが競
争力をつけることだと思います。

重要なことは、こういう状況で立ち止まっていたら、会社が衰退し、将来の原子炉の
安全な退役や廃棄物処理処分に影響することです。

もっと原因を究明し、官民挙げての原子炉建設費低減の研究と改革の実施や、米国で
行われている新設への支援なども参考に革新型原子炉の導入支援等の適切な政策を実
施しなければならないと思います。


 6.豊田氏:「永崎氏の言われるように、プルサーマルが経済的であるのであれ
ば、国は、六ヶ所再処理工場を引き取り、MOX燃料工場も作って、MOX燃料をウラン燃
料価格並みの価格で電力会社に提供することを提案します。」

回答:

それもいいですね。BNFLのTHORP並で買えるならば。フランスのCOGEM
A社も買いますよ。

ただ、国は儲けられるものには手が出せないと思います。



7.豊田様:「高速増殖炉の実用化の見通しが暗い現状に鑑み、プルサーマルに代わ
るもっと燃料利用効率がよく、経済的になる可能性のある選択肢として軽水型トリウ
ム発電炉などの採用について検討すべきであると考えます。」

回答:

高速炉の実用化は中神氏が9月19日の講演で述べられたように有望と考えます。

プルトニウムの放射能は紙1枚で放射線をさえぎれるアルファー線。人は容易にプル
トニウムに近づけます。

トリウムサイクルでは高ガンマー線対策が必要で燃料は遠隔操作しないといけませ
ん。プルトニウムより遥かに困難です。


8.豊田様:「地域住民特に知事の意向を無視して、核燃料サイクルの円滑な進展は
望めないので、地元住民との双方向対話は極めて重要と考えます。この観点から当
EEE会議の講演、研究会に佐藤福島県知事を講師にお迎えしてお話を聞き、討論する
ことを提案します。」

回答:

賛成いたします。

  永崎