EEE会議(Re:核燃料サイクル政策論争:再処理、プルサーマルの経済性など: 永崎氏から豊田氏へ)......2003.9.25

標記件名の豊田正敏氏のメール(9/20, 9/23)に対し、永崎隆雄氏から次のような再反
論が寄せられました。ご参考まで。
なお、本件論争は、このところ豊田、永野両氏の間で集中的に行われておりますが、
他のなるべく多くの方々がこの論争に参加されるよう希望いたします。場合によって
は匿名でのメール配信も可能です。
--KK

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豊田様の回答2通に対して、反論・回答いたします。
なお、同じ議論を繰り返すのは無駄ですので、豊田様の回答中の新しい視点に回答い
たします。
 (高速増殖炉の開発時期と再処理などに対する私のコメントは、2003年9月19日
(永崎→豊田)のとおり。)

1.豊田様提案:「今まで原子力界では、一度決めてしまえば、状況変化があって
も、絶対に変えようとしない傾向が強すぎる。ATRでも、原子力委員会が、何時まで
もやめようとしなかった。他の原子炉型式に転換する場合、原子力委員会の厳正な判
断による早期の決断が必要である。」

回答:

全くの事実誤認です。原子力委員会は変更必要な状況変化と判断したら計画を変えて
います。

新型転換炉ATRはABWR先進型軽水炉がプルトニウム燃料を全炉心で経済的に燃やせる
という代替案が出たから中止しています。又、中間貯蔵も大分前にみとめています。

簡単には変えてはならない国の高い理想や夢というものが有ります。エネルギーセ
キュリティーの確保や環境負荷低減やリサイクル国家の建設や科学技術立国の建設
で、実現に長期を要する夢です。

これらは我国経済が安定成長期になっても、石油や天然ガスの需給状況はアジアの経
済発展などで再び切迫しそうですし、資源の有限性は変わらないから、本政策目標を
変更させるに充分な状況変化はありません。

この夢を実現する理想的なプロジェクトが高速増殖炉です。

30年以上の原型炉や実証炉段階までの開発運転実績、80%の稼動率達成(ロシア
BN600)という実現性を持っています。しかし、プルトニウム燃料の軽水炉利用プル
サーマルが、理想的では有りませんが、実現性では遥かに進んでいます。

最初から完璧を求めるより、速く市場に出し、市場を開拓し、支配する方が勝ちま
す。いたずらに新規のゼロからの物をやるより既存のものを活かし早く、実現する事
が大切と考えます。


2.豊田様提案:海水からのウラン採取について、「劣化ウランは、放射能が低く、
地下100m以深に埋設することにより、環境上の問題はないと考える。これこそ、本末
転倒の議論である。」

回答:

豊田様の意見は良くわかりますが、劣化ウラン弾の世論動向に注目すべきでしょう。
プルトニウムは一般世論に過剰反応されています。


3.豊田様提案:「経済的に割高なプルサーマルを40~50年の長期間に亘り続けざる
を得なくなる場合に、これに代わる燃料利用効率に優れ、かつ経済的になる可能性の
ある選択肢の一つとして、軽水型トリウム発電炉を提案している。燃料には、トリウ
ムにプルトニウムを混ぜたものを採用する。使用済燃料は直接処分するので、高ガン
マー線対策は不必要である。これとプルサーマルを比較すれば、前回、説明したよう
に、軽水型トリウム発電炉の方が、燃料利用効率、核不拡散、環境負荷、経済性、社
会的受容性の何れの点からも優れていると考える。」


回答:

豊田様の提案は全く解りません。プルサーマルがプルトニウムを取出す再処理が高い
からやめろなといっておられたのにプルトニウムを使うのですか。

豊田様の提案は米国第4世代炉の6候補中に入っていません。又、原子力委員会の「革
新的原子力システムの今後の進め方」にある約40の提案炉にもありません。

 一方、プルサーマル(熱中性子炉でのプルトニウム燃料利用)は以下の通り世界的
な実績と経済性を持っており、豊田様の言っているような見通しの無いものではあり
ません。


1)世界のプルサーマルの実績

@1960年代から40年近い経験

A各国の開始年:

ベルギー1963年、米国1965〜1985年、ドイツ1966年、イタリア1968年、オランダ1971
年、フランス1974年、スイス1978年、日本1986年関電美浜1、原電敦賀1,インド
1994年

B2001年12月末までに55基の原子炉で、3543体のプルトニウム燃料を使
用。

C今後の認可済み装荷:

スゥエーデン3基、米国4基、ドイツ1基、ロシア、スイス2基、日本4基

Dフランスでは既に20基の軽水炉原子炉で実施され、今後8基追加予定。

Eわが国の新型転換炉ふげんの実績;1981年開始、1炉当たり世界一の使用実績772体

  F再処理の実績:世界6万トン、日本JNC 1000トン

運転実績:イギリスB205(1964年〜40年以上)、インドトロンベイ(1964年〜39年以
上)、ロシアRT-1(1971〜32年以上)、フランスUP−2(1976〜27年以上)、日本
東海再処理工場(1981年〜20年以上)(原子力産業会議原子力ポケット参照)



2)経済性は石炭火力や水力に比べて安い。(総合エネルギー調査会H11年資料)

水力13.6円/kwh、石油火力10.2円/kwh、LNG火力6.7円/kwh、プルサーマル5.9円/
kwh(再処理費は0.63円/kwhと評価)

3)プルサーマルと直接処分の経済性

再処理工場が建設された今はこの償却費用が直接処分にかかることより再処理実施す
るほうが安くなります。(今までの私のメールを見てください)

また、フランスでもほとんど差はありません。


4.豊田様:「再処理は天然ウランのほぼ99%を占めるウラン238を燃やす技術の
要で、この技術によって人類は子々孫々未来永劫の安定したエネルギーを獲得できる
のです。」と言っておられるのは、再処理ではなく、高速増殖炉の実用化である。

回答:高速増殖炉は再処理技術と一体になって増殖が実現します。ですから再処理も
要です。

なおこの再処理は高速炉用では全く違ったという事はありません。

基本になるのは高い放射線に対する遮蔽、遠隔操作、遠隔補修や核分裂連鎖反応を防
ぐ臨界管理、核不拡散の計量管理等の技術で、軽水炉再処理と共通しています。

高速炉の使用済み燃料は軽水炉よりプルトニウムや超ウラン元素や核分裂性物質濃度
が高く、燃料の溶解、プルトニウムの溶媒抽出等の工程初期に特別の対策が必要です
が、その後は軽水炉再処理とほぼ同じです。MOX燃料製造はプルトニウム濃度が高く
なり、臨界管理が厳しくなります。しかし、燃料の量は13/17位に減少します。



5.豊田様:  「40~50年間、長期貯蔵した場合と即時再処理の場合の経済比較を実
質金利3%とし、即時再処理費を1.0とnormalizeして比較すれば、表1に示すように長
期貯蔵の方が遥かに安くなる。なお、長期貯蔵期間中の放射能の減衰及び再処理技術
の今後の進歩による再処理費の減を考慮すれば、差はさらに広がることになる。従っ
て、積立金としては、即時再処理の再処理費の1/3程度を積み立てておけばよいと考
える。

  表1 長期貯蔵後再処理と即時再処理との経済比較

        即時再処理    長間貯蔵後再処理

                   (40〜50年間)

再処理費      1.0        1/4〜1/3 

廃棄物中間貯蔵費  1/5          ?

使用済燃料貯蔵費  ?          1/5

  合計       1.2        0.45〜0.53 」



回答

1)    即時再処理は建設費の償却が終わる15年後には再処理費が1/3になりま
す。

30年償却では7/10くらいでしょう。

長期貯蔵後はまず技術も何も残っていません。このような状況で再処理費が1/4と
は信じがたいことです。現在のコスト評価では3/10が運転費ですので、建設費はほ
ぼ0円になります。

運転経験もなく、改善のしようもありませんので、あまり変わらないと思いますが、
規模の効果と放射能減衰効果はあります。1/2くらいでないでしょうか。

更に現再処理工場の投資資金償却分として7/10を追加しなければなりません。

よって1.2くらいでしょう。

2)     廃棄物貯蔵費は1/30、使用済み燃料貯蔵費は1/10です。

3)     合計すると即時再処理は0.73、長期貯蔵後は1.3くらいでしょう。

 

7.豊田氏:「MOX燃料加工費がウラン燃料の加工費の4倍であること、使用済燃料貯
蔵費の代わりに、ガラス固化体及びその20~30倍の容積のTRU廃棄物貯蔵費が必要であ
ることを考慮すべきである。」

回答:

コストは全体で考える物です。ウラン燃料の加工費は全体の約4%です。MOX加工量
はウラン燃料の約10%です。これが4倍に高くなっても全体では4%×0.1×4
=大よそ1.6%の上昇に過ぎません。ガラス固化体の貯蔵費は0.03円/kwh、使用
済み燃料貯蔵は0.105円/kwhとして評価しております。TRU廃棄物の貯蔵費は評価し
ていませんでしたが、処分費0.03円/kwh以下でしょう。



7.豊田様: 「MOX燃料の加工費がウラン燃料の4倍であるとすれば、プルサーマル
の方が直接処分より、経済的になると考えている国は無いはずである。」

回答:

日本の場合既に再処理工場は建てられております。この費用をどなたか関係責任者が
自腹でお払いになるのなら、良いのですが、再処理を中止し、直接処分するとなると
この費用が直接処分にのっかてきます。ですから高くなるのです。豊田様は再処理を
反対して止めたいのなら退職金を返納して、自腹を切って、責任を果たさないといけ
ません。



8.豊田様:「今のような状況を続けておれば、第二再処理施設は誰が建設できると
お考えでしょうか。高速増殖炉の実用化が出来、かつ、高度再処理技術の実用化によ
り、再処理費が安くなって始めて実現可能と考える。」

回答:
何もやらなくて待っていて価格が安くなることのほうがおかしい。建設、運転の経験
を積み重ね、改善点を見つけて初めて第2再処理工場は建設出来ます。世界の実績も
あります。


 9.豊田様:「『高速炉パーク構想』は高速増殖炉の実用化が出来かつ、地域住民
に受け入れられて初めて実現できるものであり、何れも不透明な現段階に議論するの
は時期尚早である。

「大量のプルトニウムを使う高速増殖炉、ナトリウムのボイド反応度係数が正である
こと、化学的に活性なナトリウムの使用などにより、地元住民の理解を得て立地を円
滑に進めるのは、かなりの困難が予想される。プルサーマルでさえ思うように進める
ことの出来ない状況で非現実的なことを議論するのはどうかと思う。」

回答:

 豊田様は障害の多さと前途の長さにたじろがれましたか。人は夢も持て、困難に挑
戦し、夢を実現します。一代で無理なら事業を子孫に継承して夢を実現します。

既に化学活性なナトリウムは何十年循環を続けてきています。

プルトニウムは現在も軽水炉の中で生成し、燃え続けています。何と燃焼の35%が
プルトニウムになってからのものです。

プルサーマルでさえ思うように行かないと批判されることはトリウムならもっと難し
くてまったく不可能と言っているのと同じですよ。



10.豊田様:「不確定なバックエンド費用の経済的負担の軽減などに原子力委員会
は責任を持って取り組むべきである。」

回答:

バックエンド事業については、まず、民間の方から正式に申し入れないといけませ
ん。米国ではNEIが政府に積極的に要求を出します。



11.豊田様「革新型原子炉の導入支援などについても、原子力委員会は、指導力も
実行力も無く、JNCまかせで、実態の把握も出来ていないで、どのようにして適切な
政策が実施できるとお考えか、お伺いしたい。」

回答:

革新炉については既にその進め方がH14 年11月に原子力委員会から出されています。


国内外の情勢分析、開発戦略、社会ニーズ、技術と課題、産官学の連携と役割分担、
進め方のイメージ、革新炉システムの概念、新しい国際連携、実用化に向けた取り組
み、今後の課題等


この中に新しい考えが提示されております。

南アのPBMR計画のように世界にモデルを提案し、複数企業からの出資を集め、実
証炉(商業1号炉)を建設し、その後、多数基建設をするといったビジネスモデルを
参考にわが国から開発実用化と国際連携プランを世界に提示して技術、資金を募集
し、国際分担で進める。

原子力委員長はフランス、米国、ロシア、IAEA等にもんじゅの国際共同開発を提
案し、米、仏のもんじゅ開発参画を得ています。

民間各社も国に何でも要求するのでなく、自ら国際協力を求めて革新炉の世界提案を
するべき時代になっています。


12.豊田様: 「私の提案に賛成であれば、 国が再処理工場及びMOX燃料加工工場
を運営し、MOX燃料をウラン燃料価格並みの価格で電力会社に提供することを進める
ようお願いしたい。他の国で、電力会社が再処理を担当している国は無く、国営企業
が担当しているので、国が手が出せないと言う心配はないと考える。」


回答: JNCは再処理事業者に指定されていますし、独立行政法人化の流れもあり、再
処理の営利事業を新統合法人でやれるのだと思います。

これにはまず、昔の民活の経緯もあり、民間事業者を募集し、民間がやらないとなっ
たときです。ただ、原燃も電事連もこの事業を放棄するつもりはありません。

   以上  永崎