EEE会議(Re:核燃料サイクル論争: MIT報告に対するフランスの反論: 永崎隆雄氏による要約)..........2003.9.27

昨日(9/27)配信した永崎隆雄氏のメールの中で、米国マサチューセッツ工科大学
(MIT)の報告書「原子力の将来」(The Future of Nuclear Energy)に対し最近フラン
ス原子力庁(CEA)が本格的な反論を発表したことが触れられておりましたが、同反論
の内容を永崎氏が次のように要約、披露してくださいました。大変興味深い内容で
す。ご参考まで。

なお、MIT報告書自体の内容は、7/31のEEE会議(「原子力の将来」:MITレポート発
表)及び8/5のEEE会議(Re:「原子力の将来」:MIT報告書の問題点)で詳しく紹介さ
れております。これらはHP(http://www.eeecom.jp/)の「バックナンバー・ペー
ジ」に載っていますので、併せてご覧ください。(ユーザー名:backnumber  パス
ワード:rose )。 英文の報告書全文は、MITのホームページ
http://web.mit.edu/nuclearpower/)に掲載されています。
--KK

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フランス原子力庁CEAより原産会議 植松 顧問にMIT報告「将来の原子力」へ
の反論(9月17日)が送られてまいりました。その反論の要点は次の通りです。

<CEA反論の要点>

米国は再処理もプルトニウムリサイクルも実施していない国である。フランスは工業
再処理18000dとプルトニウム60dを20基の90万KW軽水炉でリサイクルした経験があ
る。MIT Reportの核燃料サイクル問題に対して

1.       フランスの見解を明確化し、米国で正しくても世界では通用しないことを
示す。
2.       MIT Reportの不完全知識による誤解を正す。

しかし、将来の米国と世界のエネルギー需要を満たすには、原子力が炭素を含まない
エネルギーであるために、真に活力ある選択肢であるということには全く同意する。

フランスはそれを実現する現実政策と将来方針でMITと以下3点で異なる。

1)        フランスは再処理とMOXの多くの工業経験があり、核種分離と核種変
換の技術知識を持っているので再処理とMOXリサイクルの現実のリスクとメリット
の評価能力が高い。

2) 原子力を進める上で将来の持続可能性が必須と考える。

経済競争や安全性や核不拡散(MITの価値観)と同様に、フランスは最終廃棄物量
の最小化、資源の最大利用、持続可能性を重視

 MITのワンススルー直接処分法での1000GW原子力発展提案では経済的なウ
ラン資源確保が困難であるので、 閉サイクル(使用済燃料再処理リサイクル)が持
続可能原子力開発の唯一の選択肢と考える。

更に、第4世代原子力システムGW開発が必要で、適切な時期の実用化が必要。

3)GW炉の実用化は2030年又は2040年になり、早期の大規模適用は困難。

故に以下の理由より軽水炉のMOX燃料リサイクル(プルサーマル)が必要である。

(1)   高レベル廃棄物のガラス固化による1万年以上の安全確保

(2)   地層処分量を1/4に減量し、放射性の毒性を1/10にする。

(3)   エネルギー資源であり、毒性物質であるプルトニウムを捨てない

(4)   MOX燃料でのエネルギー資源節約

(5)   MOX使用済燃料中のプルトニウムは核兵器級プルトニウムに比べプルト
ニウムが劣化、核不拡散困難

MOX使用済燃料は将来の先進リサイクル技術完成時に使用

(6)   使用済み燃料の中間貯蔵量を大幅に減らす。

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EEE会議での核燃料サイクル論争“MOX4倍価格論”等に対する反論もあり、参
考になると思いまますので以下、全文の概要を紹介いたします。

      原子力産業会議  永崎 



<仏CEAのMIT−Report「将来の原子力」へのコメント>

  (2003年9月17日 フランス原子力庁CEA 原子力部)


フランスは工業再処理18000dとプルトニウム60dを20基の90万KW軽水炉でリサイク
ル経験あり。一方米国は再処理もプルトニウムリサイクルも実施していない国であ
る。

CEAはMIT−Reportの核燃料サイクル問題に以下の点からコメントする。

1.       フランスの見解を明確化する

2.       MIT Reportは不完全な知識にもとづいている

3.       米国で正しくても世界では通用しない

しかし、将来の米国と世界のエネルギー需要を満たすには、原子力が炭素を含まない
エネルギーであるために、真に活力ある選択肢であると言う事には全く同意する。

T.ウラン資源

 MIT:

 ワンススル−方式の原子力1000基(1000GW)展開のためのウラン資源手当ては次の
50年間大丈夫で、さらに1000GW級で40年間の炉寿命期間も維持可能

CEA:

1000Gw40年維持で8百万t、60年寿命時は12百万dが必要で約10百万dが必要。

IAEAのRed Bookによる130j/kgU(スポット価格の3.4〜5倍)以下のウラン資源量評
価は

 

確認ウラン資源:3.9百万d(必要量の40%)と既知可能量:2.3百万d(25%)
計65%

 期待量(探鉱が必要):130j以下4.4百万d(44%)

ウラン価格が現状の4倍でないとないこれほどのウラン資源確保はない。

ウランが高くなれば再処理が有利になる。     

MIT報告はウラン資源発見を期待しすぎ。世界のウラン資源評価が必要。



U.経済性

 a)発電コスト/原子力の競争力

ヨーロッパの原子力(新規建設費を含む)発電コストは22〜32ユーロ/MWhでガ
スコンバインドサイクルより20%安い。



b)ヨーロッパ市場状況、電力価格の透明性、燃料サイクル活動への助成

  MIT報告では「欧州は政策的に歪められた非市場状況がある。」とのことだが、
これは誤解。欧州の電力自由化は世界一厳しい競争原理規制であり、既に自由化を終
了。

 c)再処理コスト:核燃料サイクルコストモデル/評価手法

  MITの評価法は直接処分費用を手当て済みの使用済み燃料を出発にし、以下の選
択肢のどちらが安いかを評価する。

1)       新規ウラン燃料購入   (ウラン鉱山)

2)       再処理し、MOX燃料にする(再処理)

即ち核燃料サイクルの前半部分で比較評価である。抜けているのはサイクルの後半部
分での評価

1)    使用済み燃料の直接処分(高い容積、高い放射能、プルトニウムの含有)

2)     再処理後のガラス固化体処分(廃棄物を減容、放射能を低減した後の処
分)



 d)再処理コスト

   MIT評価では燃料コストは直接処分(ウラン燃料)時が再処理(MOX燃料)時の
約4.5倍としている。

   これは誤解を招く結論である。本当は全体で考えないといけない。MOX燃料は
全体燃料の16%に過ぎないのでこれが4.5倍になっても0.16×4.5倍=0.56だけ
しか燃料費は上昇しない。

(下表参照)

    直接処分時      再処理リサイクル時

       単価  構成  コスト    構成  コスト

ウラン燃料: 1  100 100    84  84

MOX燃料 : 4.5    0     0     16  72

合計             100       156



更に資本費や運転費や廃棄物処分費を含めた全体コストの中の燃料コストは4%に過
ぎず、それが1.5倍の6%になり、2%上昇に過ぎない。

MIT報告はこれを注で述べ、コストは再処理でも直接処分でもほぼ同じと言う評価を
している。加えるにどのようなケースでも不確定性が多いとしている。

 MIT報告を公正に評価すれば、OECDが以前出したリサイクルと直接処分はほとんど
差がないと言う事になる。

更に以下の点を評価すれば、再処理リサイクルの選択肢が利点を持つ。

1)      再処理の改善でコストが下がる

多くの再処理経験による改善、廃棄物発生の低減、G4でのアクチニドリサイクルと
システム集約化等

2)     ウラン価格が本1000GW発展シナリオでは上昇する



V 使用済み燃料/高レベル廃棄物の処理処分



a)核廃棄物処分の実現性と受容性に対する先進核燃料サイクルの世論影響

MIT:

先進サイクルの廃棄物寿命短縮が廃棄物輸送や処分場住民反対等の公衆世論に良い影
響を与えることは期待できない。

CEA:

フランスの経験ではこれは違う。即ち

1)低レベル廃棄物処分は高レベル廃棄物処分より遥かに世論受容が容易。

2)核種分離の最近R&D結果ではAm、Np、Cmの99%分離に成功。

パイロットプラントが2005年完成、2006年に採用を決定できる予定。1万年の無害化
時間が数百年化できればフランス人の世論も変わるだろう。政治家も高レベル廃棄物
処分受容に向っている。

 b)長期リスク源 長寿命核分裂生成物、対、アクチニド 

 MIT:核分裂生成物が重要でアクチニド核種分離はたいした利点なし。

CEA:本論は地層処分の公衆の受容リスクを無視している。

核種分離をしない廃棄体使用済燃料はプルトニウムを含み、処分地等への侵入盗難リ
スクがある。

c)核種分離から発生する長寿命廃棄物の容量と地層処分されるべきもの

MIT:地層処分すべき本廃棄物が核種分離では大量に発生

CEA:地層処分すべき長寿命の廃棄物は直接処分の1/4、高レベルのものは1/
15

    仏、ラ.アーグ工場では学習効果で液体廃棄物は最近20年で1/10に、固
体廃棄物は1/2になっている。現在の再処理体系で既に地層処分の容量は直接処分
より大幅に減少している。

                    発生量廃棄物(立米/tU)

     必要面積 核種分離時 直接処分時     

長寿命廃棄物(地層処分対象)        0.5   約 2.0(4倍)     
   

低レベル(放射能低、発熱小)  小    0.35   −          

高レベル(放射能高、発熱大)  大    0.15    約2.0(使用済燃料)   



d)深試掘孔処分法

MIT:標記を有望として提案

CEA:標記は

1)サイト特性測定不能、モニター不能、回収不能等のため公衆の受容困難

2)地層処分の可能性と安全性に対して、まだよい方法を検討していないという誤解
を招く。  

 e)使用済み燃料の長期貯蔵

 MIT:核種分離より、使用済み燃料の長期貯蔵、放射能減衰後の処分が安い。

CEA:

1)放射能は減衰するが、量は減らない。ユッカマウンテン処分場は12年分しかな
い。

2)問題を先延ばしし、国民に弛まぬ原子力開発の心を喚起しない。

3)放射能が減衰すれば、人が近接し易くなり、プルトニウム回収し、核拡散しやす
くなる。

 f)結論

 MIT:直接処分法は核種分離同様に技術改善が得られ、短期リスクが少ない。

     核種分離法は廃棄物処分利点のみ見て、従業員被爆とコストの上昇リスク
を見ていない。

CEA:MIT評価は以下の過大・過小評価よりアンバランスな結論を導く。

過小評価

1)ガラス固化体の1万年以上の放射性物質閉じ込め安全性能

2)処分場面積の減少

3)長寿命核種分離除去による処分場の長期リスクの減少

4)長期の安全性実証活動の減少

  過大評価

1)MOXコスト4倍のコストペナルティー

2)従業員被爆

W.核燃料サイクルの安全性

MIT:再処理工場の大量放射能は大きな事故リスク。

 例)露チェルヤビンスク事故、米ハンフォードのタンク漏れ、英セラフィールズの
環境放出

CEA:これらは1950年代設計、1960年初頭建設された老朽軍用プラントに
よるもの。

   セラフィールズの商業工場THORPは極めて安全。

仏COGEMAの商業工場は長期の安全記録を打ち立てている。

  X.核不拡散

  MIT:PUREX法/MOX燃料サイクルはプルトニウムを分離。核拡散リス
クがある。

      リサイクル技術開発は再処理技術を拡散普及させる。

  CEA:

1)核兵器製造目論に最も魅力的なのは商業原子炉での生成プルトニウムより濃縮
U。

直接処分法はU濃縮工程を含む。

2)商業用プルトニウムの軍用拡散例はない。

3)直接処分は盗難の長期リスクあり。

世界の使用済燃料中には1000tのプルトニウムがあり、直接処分ではこれらの放射能
が100年で1/10になるため回収容易なプルトニウム鉱山化する。MOX燃料の使
用済み燃料はウラン燃料の使用済み燃料より放射能が高く対盗難障壁が高い。

3)再処理国は核兵器国と日本だけで技術は拡散しない。

Y.結論のコメント

炭素を含まないエネルギーとして原子力を米国と世界に発展させるMIT提案にフラ
ンスは同感である。

しかしそれを実現する現実政策と将来方針は以下の3点よりフランスはMITと異な
る。

1)        フランスは再処理とMOXに多くの工業経験があり、核種分離と核種変
換の技術知識があるので再処理とMOXリサイクルの実際のリスクとメリットの評価
能力が高い。

2) 原子力を進める上で将来の持続可能性が必須と考える。

経済競争や安全性や核不拡散と同様に、最終廃棄物量の最小化、資源の最大利用、持
続可能性を世論は重視

 MITのワンススルー直接処分法での1000GW原子力発展提案では経済的なウ
ラン資源確保が困難であるので、 閉サイクルが持続可能原子力開発の唯一の選択肢
となる。

更に、第4世代原子力システムGW開発が必要で、適切な時期の実用化が必要。

3)GW炉の実用化は2030年又は2040年になり、早期の大規模適用は困難。

故に以下の理由より軽水炉のMOX燃料リサイクル(プルサーマル)が必要である。

(1)   高レベル廃棄物のガラス固化による1万年以上の安全確保

(2)   地層処分量を1/4に減量し、放射性の毒性を1/10にする。

(3)   エネルギー資源であり、毒性物質を捨てない

(4)   MOXでのエネルギー資源節約

(5)   MOX使用済み燃料はプルトニウム核兵器級に比べ劣化、核不拡散困難

将来の先進リサイクル技術完成時使用

(6)   使用済み燃料の中間貯蔵量を大幅に減らす。

   以上