EEE会議(Re:核燃料サイクル論争:FBR実用炉の建設開始時期、再処理技術など: 豊田氏から中神氏へ).................................2003.9.27

先日、EEE会議主催の第3回講演・研究会(9/19)において、中神靖雄氏(JNC副理
事長)から「FBR実用化と核燃料サイクル技術確立に向けた(JNCにおける)研究
開発の現状と将来展望」についてご講演をいただきましたが、その折の中神氏のご意
見に対して、当日出席された豊田正敏氏から改めて次のようなメールをいただきまし
た。 なお、古川和男氏の提案(原子力委員会に公開質問状を出したらどうか)に対
するコメントも含まれております。 ご参考まで。
--KK

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JNC中神氏の9/19日の説明に対して、席上でも一部指摘したが、纏めて次のような問
題点を指摘したい。

なお、古川氏の提案されている原子力委員会への公開質問状については、趣旨は賛成
でありますが、原子力委
員会の回答が、一方向的な官僚的答弁のみで終わるのではなく、双方向的な討議が出
来るような機会が与えら
れるのかどうか、原子力委員会の意向を確かめていただきたい。出来れば、EEE会議
で、特定のテーマについて、
会員外の人でも適当と考えられる人にお願いして、討議に参加できるように規約の改
定をお願いしたい。
原子力委員会には、OECD/NEAの恣意的試算によって、ごまかしの説明をするのではな
く、中立の調査機関に委託
して、わが国の核燃料サイクルの実態を正確に把握し、その前提に基づき、経済比較
を試算し、その結果を公表す
るよう要請したい。また、次に述べるJNCへの指摘の中には、原子力委員会が検討
し、実現に向けて努力すべきも
のが多数含まれているので、これらについての見解を聞きたいと考えております。

1. 実用炉の建設開始時期
  私が提案しているように、2015年までに実用プラントの詳細設計を終え、それに
基づき原子炉メーカーよ
り競争入札により、建設費の見積価格の提示を求め、その結果により、実用化の見通
しがあるかどうかを判断
し、建設するか、中断するかを決めるべきである。
 基本設計での建設費の推定は、その後、詳細設計を終えてメーカーに見積もりを徴
収した時点に、建設費が
1.5~2倍になることは、六ヶ所再処理工場及び大間原子力発電所でのATRの例よりも明
らかである。従って、
JNCの説明のように、基本設計を終えた段階で、建設を開始すべきではない。
  実用プラントについては、熱交換器と一次ポンプの合体程度では不十分で、更な
るブレイクスルーが必要
である。
  なお、詳細設計の段階に、建設費が基本設計時の1.5~2倍になる理由としては、
@ 補助機器など設計の見落としがある。
A 新しい設計であるので、経験が無く、また習熟効果も無いので、余裕を持って見
積もらざるを得ない。
B 下請けに発注する機器、材料の見積もりが予想外に高いことが多い。
C 建設、試運転段階での工期の遅れによる経費増やトラブル発生に伴う経済負担も
考慮する必要がある。
D 以上のような不確定な経費増は、軽水炉であれば、次号機以降で取り返せるが、
次は15~20年後にも受注出
来るかどうか判らないので、余裕を見ざるを得ない。
E メーカーが決まり、建設が進んでいる段階では、ナショナル・プロジェクトであ
るので、少しぐらい高く
ても結局は国が面倒見てくれるであろうとの気持ちがあることは否めない。
以上のような理由から、建設開始にあたっては、詳細設計を終え、メーカーからの見
積もりを徴収した上で、
プラントの経済性の見通しを確認した上で、建設を開始するかどうかを決めるべきで
ある。

2. 実施主体
「All Japan体制の下に、2015年度までに実用化技術の確立を国の責任で実施する」
とか、「官民一体となっ
て目標達成に向け認識を一にする組織体制及び支援体制作り」といっておられるが、
電力自由化により、また、
低成長経済下で、電力会社や原子炉メーカーにそれほどの協力や支援は期待出来ない
のではないかと考える。
実施主体についても、電力会社は、日本原電が、建設及び運転の委託の協力程度しか
期待できないと考える。
従って、JNCが全責任を持って取り組まざるを得ないと考えるが、今のような無責任
体制で開発スピードも遅
すぎる進め方で大丈夫であろうか。実施主体については、以上のことを考慮の上で実
行力のある体制を作るよ
う願いたい。

3. メーカー体制
 高速増殖炉の実用プラントの建設開始までの期間が長く、経済の低成長下では、設
計、製作、建設の主役で
あり、トラブル発生時に協力を仰ぐ必要のあるメーカーが、技術者を確保し続け、体
制を維持することは困難
であると予想される。また、メーカー4社共同で設立した高速炉エンヂニヤリング会
社も殆ど体をなしていな
い。このような状況では、実用プラントを建設することは不可能と考えられるので、
その体制の整備及び援助
策について真剣に検討すべきである。特に、問題なのは、次のプラントは15~20年後
に受注できるかどうか判ら
ない状況で組織を維持し続けるのは極めて難しいと考える。一社に統合することも含
め、検討すべきである。

4. 実施スケジュール
 たびたび指摘しているように、具体的実施スケジュールを確立し、それに基づき着
実に計画どおり進めるべ
きである。今まで、動燃/JNCが計画どおり進めたプロジェクトは無い。
2015年に実用プラント着工のためには、詳細設計及び建設費の見積もり、立地、安全
審査などが必要であり、
特に、立地は「もんじゅ」が今のような状態で、大量のプルトニウムを使う高速増殖
炉、ナトリウムのボイド反
応度係数が正であること、化学的に活性なナトリウムの使用などにより、地元住民の
理解を得て立地を円滑に
進めるのは、かなりの困難が予想され、時間もかかると考えられる。しかも上述のよ
うに、実施主体も明確で
ない状態で、果たして、計画どおり進められるのであろうか。これらの点も含めて、
実現可能な具体的実施ス
ケジュールを確立し、それを着実に実行されたい。

5. トラブル対策
  「もんじゅ」のあの程度のトラブルで、安全審査までに5年間かかり、運転開始ま
でに、10年以上かかっている
ようなことは、私企業では考えられない。実用化までには、この程度のトラブルは何
回か経験しなければならな
い。毎回、このように、長期間、停止しておれば、実用化は不可能となろう。JNCの
体制、及び陣容の見直しを
行うとともに、メーカーの支援体制も見直しが必要である。また、冷却材のナトリウ
ムは、目視出来ないので、
トラブル時及び定期点検時の機器、装置の点検をどのようにするか検討し、稼働率が
低下しないように配慮すべ
きである。

6. 再処理技術
高度再処理技術を2030年まで実用化するためには、先進的湿式再処理法、フッ化物揮
発法、溶融塩電解法の中か
らどの方式を何時までに選定するのか、また、実用化のための実施体制及び実施スケ
ジュールの詳細をお聞き
したい。実験室規模の実験結果からいきなり、実用化は無理で、少なくとも、パイ
ロットプラント程度は必要と
考える。問題点としては、
@ 再処理工場には、使用済燃料受け入れ、燃料プール、せん断、溶解、分離、分
配、精製、ガラス固化、廃棄物処理、
高レベル廃液タンクなどの貯槽類などの各工程があるのに対し、JNCで考えておられ
る技術開発は、分離、分配工
程の合理化のみのようであるが、これでは、この部分のコストを1/2にしたとして
も、全体のコストをそれほど下
げることは出来ない。従って、その他の工程の合理化も併せて行う必要がある。
A しかし、その他の工程は合理化の余地が少なく、フランスのゴジェマ社が採用し
ているように、自社で設計
し、それに基づき、国際競争入札によりタンク専門メーカーなどに発注し、品質管理
を自社の専門家が工場に
常駐して行うことは難しい。一方、耐震設計、飛来物(航空機衝突)対策及び国際基準
より厳しい臨界防止設計、
廃棄物放出基準などにより、国際価格に比して割高にならざるを得ない。
また、プルサーマルが経済的になるためには、再処理費とともに、MOX燃料の成型加
工費のコストダウンが必要
であるが、燃焼度の増加とともに、放射能の高いPu238の含有量が増え、加工費が高
くなり、燃焼度45,000MWD/T
程度では、現在、2,500~3,000ドル/kgHMと推定されている。しかも、「低除染で、か
つTRU回収機能をも付加
した先進的な湿式再処理法」では、Pu238の他に放射能の高いアクチニド元素が加わ
ることにより、逆に加工費
が高くなることが考えられる。
JNCは、再処理・燃料加工費の合計の目標値を43万円/kgHMとしておられるが、これで
も直接処分に比べて、50
銭/kWh程度高くなる。しかし、この目標値でも、現在のMOX燃料加工費30~36万円
/kgHM、再処理費35万円/kgHM
を相当程度低減しなければ、不可能であるが、何れの価格をどの程度まで低減出来る
と考えておられるのか、
再処理費と燃料加工費に分けて、目標値を示してほしい。また、そのためには、どの
ように技術開発を進め、43
万円/kgHMを2030年までにどのようにして実現できると考えておられるのか、具体的
にお伺いしたい。   
                以上

豊田正敏
toyota@pine.zero.ad.jp